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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
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第524話 えっ、それも無いの?

 頭領の言葉通り、騒ぎの最中火が出て自力での帆走が不可能になった船は沖合に曳航されて燃やされたよ。

 もちろん、船乗りさん達のヒンシュクをかった欲深い商人達の亡骸も一緒にね。


 そして、二月ほど時間が過ぎて…。

 その日も、オランとタロウを連れてトレントの狩場を訪れたんだ。

 すると、買取所から借りたのだろう、荷車を引いた沢山の人影が現れたよ。


 従来から有料で荷車を貸出してたんだけど借り手は皆無だったの。

 借りるのに必要な保証金が馬鹿高くて、更に少額だけど毎回使用料が取られるから。

 王都の間近にあるとはいえ、高いお金を支払ってまで重い荷車を引いて歩こうと思う人は居なかったみたい。

 買取所で売れば王都の相場で買い取ってくれるし、持ち運び便利な『銀貨引換券』で受け取れるからね。


 でも、この二ヶ月、毎日、荷車を借りる人達が現れたんだ。

 それが…。


「お頭さん、おはよう。朝から精が出るね。」


「おう、お嬢ちゃん、それにギルドの若いのもおはようさん。

 お嬢ちゃんこそ、偉い立場なのに毎朝欠かさず立派なもんだ。

 そっちの若いのも、ひ弱そうに見えて毎日頑張ってるじゃないか。」


 そう、実はまだ王都にいるんだ。

 オードゥラ大陸から来て、港で暴動が起きる切っ掛けとなった船の船乗りさん達。

 あの日、騒動が起こった船は四隻、一隻は燃えて海の藻屑と化したから三隻が残ったの。

 どの船も船主である商人は、船乗りさん達の不興をかって『不慮の事故』に遭って消えちゃったよ。

 商人が伴ってきた使用人も巻き込んで、今頃、冷たい海の底だよ。


 そのため、持ち主不在となった船三隻は、四隻の船乗りさん達の共同所有になったらしいよ。

 船乗りさん達、未払いの給金を船で払ってもらったんだって。

 帰港後に後払いとの約束になっていたらしく、まだ給金が支払われて無かったから。

 「それって良いの?」と思うけど、この国の外で起こった事案なのでおいらは口を挟まないよ。


 船を手に入れた船乗りさん達が、この二月何をしてたかと言うと。


「それで、そろそろ、出港できそうなの?

 そんな大きな荷車に収穫物を満載しているけど。

 重いでしょう、それ。」


「おお、今日手に入れた『シュガーポット』と『メイプルポット』を積み込めば満載だぜ。

 『スキルの実』を売り払って、資金も大分稼げたからな。

 トレントの木炭や業物の剣、金になりそうな物を随分と仕入れることが出来たし。

 水や食料も十分に買い込んで準備万端だぜ。

 今日、明日とトレント狩りの疲れを癒したら、いよいよオードゥラ大陸に向けて出港だ。」


 三隻の船は商船団を作って、この大陸とオードゥラ大陸の間の交易を行うことにしたそうで。

 船乗りさん達、自らトレントを狩って『シュガーポット』などの交易品を揃えることにしたんだ。

 この二ヶ月間、三隻の船が満載になるまでトレント狩りを続けていたの。

 せっかく取得した冒険者登録だから、活用しないと損だからって。


 これだと、仕入れコストは自分の体力だし、自分達が事業主だからピンハネされずに収入になるからね。

 鍛えた体と航海で培った連携を活かして、無傷でトレントが狩れるのでお得だって。


 日持ちのしないスキルの実は買取所で銀貨に換えて、トレントの収穫物以外の商品の仕入れに充てたみたい。

 頭領の言葉通り、『山の民』チンが作った剣やトレントの木炭を沢山仕入れたそうだよ。


「でも…。本当にオードゥラ大陸へ戻って大丈夫なの?

 その船、雇い主から奪ったものだとバレるとヤバいんじゃないの?」


「ああ、だから、金輪際、ヌル王国には近づかねえよ。

 どうせ、俺達ゃ、天涯孤独なもんばかりだからな。

 オードゥラ大陸にはヌル王国以外の国も幾つもあらぁな。

 ここで、仕入れたもんは何処へ持って行っても良い値が付きそうだからな。

 一年もしたら戻って来るから、そん時ゃ、またよろしくな。」


 雇い主を殺害して船を奪ったとバレると、ヌル王国では問答無用で死罪になるらしい。

 だから、もうヌル王国は捨てることにしたらしいの。


 因みに、燃えちゃった船で船乗りさんの頭領をしていた人だけど。

 もうお爺ちゃんなので、この機会に船乗りを引退するそうでね。

 四隻の商人が所持してたお金から、相当分を支払って貰ったらしいよ。

 接収した三隻の船の持ち分を放棄する代わりにね。

 さっそく、この街で家を買って隠居生活を始めてたよ。釣りでもしてのんびり過ごすって。


     **********


 頭領さんと別れたおいら達は、日課のトレント狩りの後、『妖精の泉』の水を汲みに行ったの。

 

「そう言えばマロン。

 オードゥラ大陸の連中にスキルが()えないって聞いたんだが…。

 それ、本当か?」


「ああ、タロウの耳にも届いていたんだ。

 おいら、少し前に冒険者管理局から報告を受けたんだけど。

 『スキルの実』を食べても何の変化も無かったらしいの。

 と言うより、自分の能力値も見えないみたい。

 もしかして、オードゥラ大陸の人には、スキルとかレベルとかが無いのかも。」


 トレント狩り実習の時、『スキルの実』の説明をしたそうなんだ。

 ホントはスキルの話も知られたくなかったけど。

 トレントを倒すと、スキルの実も一緒に散乱するものね。

 『シュガーポット』なんかが果実だとしたら、これは何だって疑問を持たれるはずだし。

 レベルほどは知られて拙い話だとは思わなかったので、説明するよう指示したの。


 説明を聞いた船乗りさん達、興味津々にスキルの実を齧ったらしいけど。

 スキルが生えるどころか、自分の能力値も見ることが出来なかったそうなんだ。

 そもそも、みんな、良い大人なのに『能力値』を知らなかったの。


 船乗りさん達、貴重なスキルの実をおやつにしてたらしいよ。

 甘い物は、疲労回復にちょうど良いって。


「うーん、不思議なもんだな…。

 もっとも俺の世界にも、レベルやスキルなんか存在しないから。

 俺としては、オードゥラ大陸の方が自然なんだが。

 それにしても、同じ世界なのに、大陸によって人の構造に違いがあるとは…。

 やっぱり、ここはファンタジーの世界だな。」


 おいらの説明を聞いて、タロウが変な感心の仕方をしてたの。

 すると。


「あら、面白い話しをしているのね。

 海の向こうから、お客さんが来るようになったの?」 

 

 頭の上から、お馴染みの声が久し振りに聞こえたの。


「あっ、アルト、お帰りなさい。

 お義父さん達を送ってくれて有り難う。

 いつ帰って来たの?」


「はい、マロン、久し振り。

 今帰って来たところよ。

 私の留守中もちゃんと水汲みに来ていたのね。」


 目の高さまで降りてたアルトが、「感心、感心」と言いながらおいらの頭を撫で撫でしてくれたよ。

 

「アルト姐さんは、オードゥラ大陸のことを知ってたのか?」


「オードゥラ大陸? 知らないわよ、そんな名前は。

 私、この大陸の外には()()出ないもの。

 普段は辺境のあの森に住んでいる訳だし。

 この小さな体で大海原を越えられるはずが無いでしょう。

 でも、海の向こうに人の住む地が在るとは聞いていたわ。」


 何百年も生きていて、物知りのアルトにも知らないことがあるんだ。

 今まで関わった殆どのことを知ってたから、ある意味、驚きだったよ。


 もっとも、大きなこの大陸の内陸部に住んでいるアルトには無縁なだけだったのかも。


「じゃあ、オードゥラ大陸の人にレベルが無いかもってことも知らない?」


「そうね、オードゥラ大陸の人間は見たことも無いし。

 この大陸の生きとし生ける者、全てに共通のモノが無いと言われてもね。

 でも不思議ね。

 この三百年、大海原の向こうからのお客さんなんて聞いたことも無かったのに。」


「単に航海技術が無かっただけじゃねえの?

 サニアール国の港には、ぽつぽつ漂着していたと聞いたぜ。

 一年くらい前にサニアール国の港に辿り着いた船がいたらしくて。

 それが、砂糖とトレントの木炭を持ち帰ったらしいんだ。

 それを目当てに、俺達の休暇中にこの国にやってくるようになったみたいだぜ。」


 タロウが、アルトの疑問に対して自分の推測を述べたんだけど…。


「そういうことじゃないのよ。

 この大陸に、海の向こうから船がやって来ることが不思議なの。

 まさか、あの()に何かあったんじゃ…。」


 アルトは表情を曇らせて、小声でそんな事を呟いたんだ。

 それは、おいら達に聞かせるのが目的ではないようで、最後の方は聞き取れなかったよ。


「うん? アルト、何か気に掛かることでもあるの?」


 浮かない顔をしているアルトに、問い掛けるてみると。


「ゴメンなさいね、心配かけちゃったようで。

 気にしないでちょうだい。

 きっと、私の思い過ごしだから…。」


 アルトは、この話はもうお終いって感じで、そう言ったの。

 それ以上は、話すつもりは無いみたいだった。

 怪しい、絶対に何かを知っているよ…。

お読み頂き有り難うございます。

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