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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十六章 里帰り、あの人達は…
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第510話 ウエニアール国へ戻って来たよ

 ライム姉ちゃんとハテノ領の騎士達の昇爵、叙爵の式典が済んだ十日ほど後。

 おいらは、およそ二ヶ月振りにウエニアール国の王都に戻って来たよ。


 そして、今いるのは王都の外れ、港を見下ろす小高い丘の上。

 この周辺は高級貴族の別邸が建ち並ぶ高級住宅街になっているんだ。


「おお、ここが余の終の棲家となる家か。

 中々良い家ではないか。」


「ここは、簒奪を行ったヒーナル王に与していた侯爵の別邸だったんだ。

 おいらが、王位に就いた後、貴族の点検をしたら。

 ヒーナル王の治世に色々と悪事を働いていたことが発覚したんだ。

 侯爵は斬首したうえ、私財没収、お家取り潰しにしたの。

 こんな、広い屋敷が空き家になっていると維持が大変だし。

 王様が借りてくれて助かったよ。」


 悪事を働いて取り潰した貴族の屋敷だと聞いて、王様は一瞬渋い顔をしたよ。

 自分がここに来るハメになった、トアール国の貴族による一連の不祥事を思い起こしたのか。

 それとも、前の住人が斬首されたと聞いて不吉な気配を感じたかな?


「まっ、まあ、今日からここで余の楽しい隠居生活が始まるのだ。

 この家に纏わる不吉な話は、気にしないこととしよう。

 何と言っても、ここには煩いことを言う奴はいないからな。

 これからは、誰に気兼ねすることも無く自由を満喫しようではないか。

 そうそう、おぬし、くれぐれも余の身の安全だけは気を配ってくれよ。」


「もちろんだよ。

 王様の警護費用は、トアール国の宮廷から貰っているからね。

 門の前には、昼夜を問わず、専属の警備を二人配置するし。

 この周辺は高級住宅街なので、普段から巡回警備を頻繁にしているから安心して。」


「おお、そうか。よろしく頼んだぞ。

 せっかく手に入れた自由な生活だ。

 カズヤの刺客に襲われたらかなわんからな。」


 そう、もう気付いたと思うけど、おいらが対応しているのはトアール国の前王だよ。


 この国の女王であるおいらが、こいつを王様って呼ぶのも変かも知れないね。

 しかも、王様じゃなくて、前王だしね。

 でも仕方がないんだ、おいら、こいつの名前を知らないから。

 おいらにとってはどうでもよい存在だから、名前を尋ねようともしなかったよ。

 呼び方が王様で定着しちゃっているので、面倒だからそのままにしているの。

 それに、こいつ単純だから、王様って呼ぶと機嫌が良いしね。


      **********


 何で、トアール国の元王様がここに居るかと言うと。

 王様が、何処か安全なところで余生を過ごすことを望んだんだ。


 カズヤ陛下がアルトの前でこいつの命は狙わないと誓約しているし。

 妖精の前でなした誓約は絶対だから、おいらはそれで十分だと思うけど。

 こいつ自信が、今までカズヤ陛下に酷い仕打ちをしてきたのを自覚しているから。

 誓約だけじゃ安心できなかったみたいでね。

 何処か、カズヤ陛下の手が出せない場所に移りたかったみたい。


 それで、おいらが手を挙げたんだ。

 取り潰した貴族から没収した屋敷が沢山空き家になっていて。

 その維持管理に掛る費用が馬鹿にならないと、宰相が常々嘆いてたから。


 王様の生計費だけど、退位の条件として十分な額を用意すると約束したでしょう。

 カズヤ陛下達は、取り潰した二妃の実家の資産と家禄を丸々王様の生計費に充てることにしたそうの。

 その総額は、伯爵家だけあって莫大な金額になったらしいよ。


 なので、空き家になっている屋敷の中で、一番豪華なものを借りてもらえたよ。

 更に、王様の警備費用の名目で、毎年結構な金額がウエニアール国の王宮へ支払われることになったの。

 面倒な生き物を押し付ける迷惑料だって。

 それでも、王様の手元に残るお金は、二妃、三妃を養う他、屋敷の働き手を雇っても十分な額になるみたい。


 二妃、三妃も何ら不平を口にすること無く、王様に付いてこの国にやって来たよ。

 二人共、実家が取り潰されて帰る家が無くなっちゃったし。

 王妃の地位も貴族身分も剥奪されて、罪人の娘として市井に放り出されたら堪らないものね。

 王様のお側に仕えるなら、今までと変わらない暮らしをさせると提案したら即断で飛び付いたらしいよ。


 今は…。


「陛下、このテラス、眺めが素敵ですわね。

 私、海と言うものは初めて目にしました。」


「そうじゃのう。

 余も、あやつの即位式に招かれた時に初めて見たが。

 こうしてみると、本当に美しいものだのう。

 どうやら、裏門から海へ降りることが出来るらしい。

 下の砂浜はこの屋敷の私有地らしいから。

 後で散歩にでも行ってみるかのう。」


「それは素敵ですわ、是非行ってみましょう。 

 聞くところによると、海で採れるお魚は美味とのこと。

 砂浜で採ることって出来るのかしら?

 私、新鮮なお魚というものを是非食してみたいものですわ。」


「分かった、分かった。

 では、今晩にでも、魚料理を出すように料理人に申し付けておこうか。」


 海を見下ろす館のテラスで、二妃、三妃と仲良く景色を眺めながら呑気な会話をしていたよ。

 二妃、三妃と顔をあわせたのは、今回初めてだったけど。

 和やかに会話を交わす三人を見ていると、ミントさんとは違い、王様との中は悪くなさそうだね。


 三人共ここが気に入ってくれたようで良かったよ。

 王様には、是非長生きしてもらって、ここで末永く暮らして欲しいからね。

 なんて言っても、高額な家賃と警備費を、毎年この国に落してくれるのだから。

 それに、この王様、金遣いが荒いみたいだから。

 この町の商人達にも貢献してくれるのではと、おいら、密かに期待しているんだ。


     **********


 さて、ここに居ないもう一人の王様の后ミントさんだけど。

 実母としてカズヤ陛下の補佐をするとの名目で、王様とは別れて暮らすことになったんだ。

 ミントさんと王様の夫婦中は良くなかったから、王様も不平は言わなかったよ。

 むしろ、ミントさんが居ない方が勝手気ままに出来て良いって。


 でも、実際はと言うと…。


「ミントさん、どうしたのそんなににやけちゃって。

 何か良いことでもあったの?」


 トアール国を後にする数日前の夜、偶々夜空を見上げて嬉しそうな顔をしているミントさんを見かけたんだ。


「あら、マロンちゃん、こんばんは。

 今日はルナがきれいなの、ほら、真ん丸。」


 ミントさんは、夜空に輝く一際大きな星を指差して言ったの。

 ウサギが格闘する星、ルナ。

 昼に輝くお日様くらいの大きな星で。

 表面の模様があたかも二匹のウサギが取っ組み合いの喧嘩をしているように見える星。

 正確に二十八日周期で満ち欠けを繰り返し、暦にも使われているんだ。


「うん、今日はルナが満ちて綺麗だね。

 でも、ミントさん、それがそんなに嬉しいの?」


「それは勿論よ。

 マロンちゃんは気にしてなかったかも知れないけど。

 辺境の町からここへ戻ってきた日も、ルナが満ちた日だったの。

 あれから、ルナの満ち欠けが一巡した訳だけどね。

 今回はルナからのお客さんが来なかったのよ。」


 おいらの問い掛けにミントさんは意味不明な事を言ったよ。

 ルナって夜空に輝くお星さまだよ、そんなところからお客様が来る訳ないじゃない。


「ミントさん、おいらが子供だと思ってからかっているでしょう。

 ルナから人が来るなんて話は聞いたことが無いよ。」


「あら、マロンちゃんにはまだ早かったかしら?

 そうね、マロンちゃんも、もう少し大人になると身をもって知ると思うわ。

 あと、三、四年かしら…。

 マロンちゃんに、ルナからのお客さんが来るのは。

 まあ、今日のところは、お客さんが来なくて喜んでいたと思っておいて…。」


 ミントさんは、お腹に手を当てながら、そんなことを言って誤魔化していたよ。

 おいらに教える気は無いみたい。


 その翌日、おいらがライム姉ちゃんやハテノ領の騎士のみんなとお茶をしていると。


「アルト様、マロンちゃんをウエニアール国へ送っていった後のことですけど。

 帰り掛けにこの町にも寄りますよね?」


 ミントさんがやって来て、おいらの肩に座っているアルトに向かって尋ねたの。


「もちろん、寄るわよ。

 マロンをウエニアール国へ送ったら、次はライム達を辺境の町に送って…。

 そこから、オランの両親をシタニアール国へ送っていかないといけないもの。」


 一月の休みが二月に延びちゃったから、おいらの仕事が沢山溜まっているって宰相から告げられたんだ。

 なので一連の式典が終わったら、真っ先においらを送ってもらうことにしたよ。

 おいらを送った後、アルトは一旦この王都へ戻って反対方向の人達を送ることになってたの。

 

「それでは申し訳ございませんが。

 その時、私と私の付き人も一緒に辺境まで送って戴けませんか?」


「どうせ辺境の町は寄るから、乗せていくのは別にかまわないけど…。

 良いの? カズヤの仕事を補佐するんじゃないの?」


「先ほど、カズヤ、ネーブルちゃん、それに宰相とお父様を交えて話し合って来ました。

 私、正式に公務を退くと共に、王族を離れて公爵家に籍を戻すことになりました。

 ついては、しばらくの間、カズト様の許で暮らしたいと思いまして。

 もちろん、父上からの了承は得ています。」


 ミントさんはとんでもない事を言ったよ、王族から離脱するって。

 カズヤ陛下を王位に就けたので、もう自分が王族に留まる必要は無いなんて言ってたよ。

 公爵はまだ七十前で、今のところお元気なんだけど。

 公爵にもしもの事があれば、中継ぎでミントさんが公爵になるつもりなんだって。


「中継ぎで公爵って、公爵家には後継ぎが居なかったの?」


「ええ、私が公爵家の一人娘で…。

 今までは、カズヤに一旦公爵家も継いでもらう予定でした。

 カズヤが子を複数儲ければ、いずれかに公爵家を継がせるつもりで。

 ですが、私が公爵家に戻れば、その必要も無くなりましたので。」


「どういう事?

 中継ぎってことは、…。

 ミントさんが公爵家を渡す相手が決まっているってことだよね。」


 おいらの問い掛けに対して、ミントさんはニコッと微笑み…。


「マロンちゃんは、また、辺境の町に遊びに来るつもりなのでしょう。

 次に休みを取るのは、何時になるかしら?」


 ミントさんは何の答えにもなっていないことを口にしたんだ。


「そうだね、大分仕事も溜まっているみたいだし…。

 やっぱり、年に二回長期休暇をとるのは無理かな。

 多分、来年の今頃になると思うよ。」


「そう、じゃあ、カズト様のお屋敷で紹介できると思うわ。

 私の次代を担う公爵家の世継ぎをね。」


「誰、それ?」


「それは、来年、遊びに来た時のお楽しみね。

 マロンちゃんに紹介できるのを楽しみにしているから。

 必ず遊びに来るのよ、待ってるから。」


 ミントさんは、それっきり、答えを教えてくれなかったよ。

 おいらの他はみんな分かった様子で、納得したように頷いていたんだ。

 なのに、誰もおいらには教えてくれないの。


 そんな訳で、ミントさんはお付きの者を従えてにっぽん爺の家に転がり込むことになったの。

 最低でも、二年間はにっぽん爺の屋敷で暮らすつもりだと言ってた。

 カズミ姉ちゃんは苦笑いをしながら、それを受け入れていたよ。


 こうして、おいらの一年振りの里帰り休暇は幕を降ろしたんだ。 

お読み頂き有り難うございます。

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