第51話 お願い!アルトお姉さん!
タロウとクッころさんが、スキルの実を拾い集めている間、おいらが何を考えていたかと言うと…。
目の前に倒れているハニートレントの本体とその『実」、通称『ハチミツ壺』のことなんだ。
トレントの仲間は、『スキルの実』が一番の稼ぎになって、次がその『実』なんだけど、本体も木材として売れるの。
でも、トレント狩りに来る冒険者は多くても十人、それ以上だと一人当たりの分け前が少なくて旨味が無いからね。
トレントは、どれも大木なんでとても持ち帰れないの。
トレント本体は、売れると言っても、『スキルの実』やトレントの『実』ほどのお金にはならない。
だから、大部分の冒険者は倒した本体はその場で放置していくんだ。
でも、おいらの『積載庫』を使えば持って帰ることが出来る。
何より、本体を丸々収納すれば、ハニートレント三体分の『生命の欠片』が一緒に付いて来るからね。
無駄にするには、余りに勿体ないと思うの。
それから、倒れたハニートレントの枝にたわわに実っている『ハチミツ壺』。
その数は三本分併せたら、とても千個ではきかない数が生っている。
一つ一つがけっこう大きいので、頑張ったところで一人百個持てるかどうかだと思う。
『積載庫』の秘密を守ろうと思ったら、せっかくの『ハチミツ壺』の大半を諦めないといけないの。
でもね…、二人の顔を見ていたらとても『積載庫』の秘密を明かせる気がしないんだ。
タロウなんて、迂闊だからどこで口を滑らせるか分からないし。
クッころさんに至っては、お酒が入ると秘密なんてあったもんじゃないからね。
おいら、『積載庫』の秘密だけは明るみになったら拙いような気がするんだよね。
おいらは、何とかこの二人を先にここから立ち去るように持ってけないかと考えてたんだ。
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おいらは、コッソリとタロウに近づいたの。
それで、一心不乱に『スキルの実』を拾い集めるクッころさんに聞こえないように小声で耳打ちしたんだ。
「ねえ、タロウ、おいら、この三人をアルトに頼んで何処か遠くへ飛ばしてもらおうかと思うんだ。
こんな所に放置しておいて、ギルドの連中に見つかったら、おいら達の仕業とバレるかも知れないじゃない。」
「なに、あの妖精の姉ちゃん、そんな器用な事が出来るんか?」
「うん、多分できる。
タロウを森の外に放りだすって言ってたでしょう。
アルトにかかれば、人の二人や三人、簡単に飛ばせると思う。
ただね、妖精って人と関わるのが嫌いでしょう。
あまり、人のいるところには呼びたくないの。
悪いけど、クッころさんを連れて先に帰ってもらえるかな。
クッころさんにはアルトのこと知られたくないから。」
「あっ、そっか、この世界では、妖精と人間は干渉しないって言ってたもんな。
いいぜ、適当な事を言って、俺がクッころさんを連れて先に帰るわ。」
タロウってホントちょろい…、単純で助かったよ。
満足する数の『スキルの実』と『ハチミツ壺』を拾い集めた二人、タロウが何かクッころさんに言っていたけど。
うまく、言いくるめる事が出来たみたいで、首尾よくクッころさんを連れて立ち去ってくれたよ。
二人が十分に離れたのを確認したおいらは、さっそく『積載庫』に収納したよ。
倒したハニートレントとそれにまつわる全てのモノを、確認したらちゃんと『生命の欠片』もあったよ。
『積載庫』にあったのは、ハニートレントが三本と『生命の破片』八千四百個、それに大量の『スキルの実』と『ハチミツ壺』。
やっぱり、『スキルの実』と『ハチミツ壺』は大半を拾い損ねていたよ。
辺りを見回し、拾い残しが無いのを確認したおいら。
目の前にへたり込んで、虚ろな目をして不気味な笑い声を上げている三人を再度紐で縛り上げたんだ。
そして、その紐の先を手に取って…、引き摺ったよ。
何処へ行くかって? もちろん、妖精の森。
アルトに頼んで三人を何処かへ飛ばしてもらうってのは、タロウ達を追い払うだけの方便じゃないよ。
それを口実にしたのは確かだけど、実際にやってもらうの。
だって、この三人、ギルドの連中に見つかったら本当に厄介だもの。
さすが、初期能力八十一倍は伊達じゃないね、大人三人を引き摺っても楽勝だったよ。
それに、タロウとクッころさんがスキルの実を拾っている間、摘み食いしていた甲斐があったよ。
だって、美味しそうだったんだもん、シューティング・ビーンズ狩りの後で小腹が空いてたしね。
レベル三まで上げた『野外移動速度アップ』のおかげで、三人引き摺ってもいつもより速いくらいだ。
スキルの効果、移動速度二十五%アップは結構使い勝手が良いね。
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何の苦も無く、妖精の森の入り口に着いたいおいら。
「アルト!お願いがあるの!
ちょっと出て来てもらえないかな!」
森に向かって、力の限り叫んだよ。
『変な人』を森に入れたらいけないと、この間怒られたからね。
明らかに、この三人は入れちゃダメな人達だよね、頭が壊れちゃってるし。
「そんな、大きな声を出さなくても聞こえるわよ。
この森は私の領域、マロンがここに来たのはすぐに分かったわ。」
アルトの不思議な力は、自分の領域であるこの森の様子は全て手に取るようにわかるんだって。
おいらが、森の入り口にやって来た時点で分かったので、普通に声を掛ければ良かったみたい。
「で、どうしたの? そんな大きな荷物を三つも引き摺って。」
アルトに尋ねられて、おいらは襲われているクッころさんを助けたことを大まかに説明したんだ。
そして、…。
「そんな訳でね、証拠隠滅じゃないけど。
この三人が冒険者ギルドの連中に見つからないように、遠くへ飛ばして欲しいの。
アルトならできるでしょう?」
おいらは、三人の処分をアルトにお願いしたよ。
「まあ、出来る事は出来るけど…。
私だって万能じゃないから、モノを何処から、何処へでも飛ばせる訳じゃないわ。
私が出来るのは、私の領域である森に侵入した者を排除するくらいよ。
今、少しだけその小汚いモノを森に入れて、町から一番離れた森の外に放りだすの。
まあ、今回はそれで十分だろうから、難しいことじゃないけどね。」
アルトの説明では、妖精の森は真っ直ぐ突っ切っても人間の足で三日くらい掛かる広さがあるらしい。
しかも、私以外の人間は妖精の力で拒まれて、森の中を突っ切ることはできないの。
この広い森を大きく迂回するとなるといったい何日かかるのかとアルトは言ってたよ。
「それに、森の反対側は魔物が沢山いるから、人里なんて一つも無いわ。
だから、向こう側に飛ばしたら、まず帰っては来れないわね。
マロンの望む通り、完璧な証拠隠滅が出来るわ。」
「じゃあ、それで、お願いします!」
アルトの説明を聞いたおいらは、考えるまでもなく、直ちにお願いしたよ。
その後、おいらが三人を森の中に突き飛ばしたんだけど…。
三人とも、森には言った途端、パッと姿を消すの。
アルトの力で、森の反対側に飛ばされているらしいけど、ホント一瞬なんでビックリだ。
これで、三人の後始末は済んだのだけど…。
ねえ、アルト、なに、黙って考え込んでいるの?
お読み頂き有り難うございます。