表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十六章 里帰り、あの人達は…
508/848

第508話 聞きしに勝る酷い父親だった…



「そちらのお嬢様が俺達を雇ってくださるので?

 いったい、どんな仕事をさせられるんでしょうか。

 まさか、銀山よりも過酷な労働だとか言いませんよね。」


 昼間から博打に耽っている愚か者の割に慎重な人だね。

 『何でもするから助けてくれ』なんて迂闊な事は口にしなかったよ。

 まあ、年端のいかない小娘が雇い入れるなんて言えば、普通の人なら怪しいと思うか。


「おいら、こう見えても隣の国の女王なんだ。

 今、おいらの国では街道整備に全力で取り組んでいるの。

 それで、一人でも多く人手を確保したいんだ。

 銀山よりも働く環境は良いと思うよ。

 雇用期間は最低五年、月々の給金は銀貨二百五十枚。

 それとは別に、一日三食の食事と寄宿舎、それに作業服が無償で支給されるよ。

 食事は美味しいごはんがお腹いっぱい食べられるし。

 二人部屋の寄宿舎も清潔だよ。」


 因みに、強制労働に給金なんて出ないよ。刑罰なんだから、当然だよね。

 だから、人並み以上の給金がもらえるだけでも強制労働より遥かにましなはずだけど…。


「月々の給金が銀貨二百五十枚だって?

 並の仕事より、良い給金がもらえるじゃねえか。

 しかも、メシと宿はタダで当たるってか。

 強制労働よりも遥かにましじゃねえか。

 俺は女王様の下で働くぜ! 命がヤバい強制労働なんて真っ平だ。」


 尋ねてきた男は、おいらの返答に飛びついたよ。

 他の連中もそれに倣おうとしたんだけど…。


 空気を読めない輩が居たの、顔を赤らめた酒臭いオッチャン。

 昼間から酒浸りのこのオッチャンこそ、スフレ姉ちゃんの親父さんなんだ。


「俺に働けってか? 嫌だね、俺は仕事をしたくないんだよ。

 せかせか働かされるなんて真っ平御免だね。

 ちっ、ついてねえぜ。

 家出した娘が騎士になって、活躍したって噂を聞いて。

 せっかく、良い金蔓が出来たと思ったのに。

 これからせびりに行こうと思った途端に捕まっちまうなんて。」


 酔っ払いって怖い物知らずだね。騎士や女王を前にしてこんな暴言が吐けるだなんて。

 でも、スフレ姉ちゃんの懸念通りだった。こいつ、スフレ姉ちゃんに集る気満々だったよ。

 すると、オッチャンは何かを思い付いたようで、ハッとした顔をして…。


「そうだ、娘を呼んで来い。

 俺の娘は王都を救った救世主様らしいから。

 娘の一言があればなんとかなるんだろう。」


 スフレ姉ちゃんの取り成しに期待したんだ。

 この言動は、おいらの予想外だったんだけど…。


「それは出来んな。

 新王は、その様な不正は厳として取り締まるご方針だ。

 お前の娘が例えどのような勲功のある者だとしても。

 お前の罪を揉み消すような事はさせないぞ。

 もし、その娘が不正を働くようなら共に罰せられることとなる。」


 モカさんのご子息は毅然とした態度で、こいつの要求を切って捨てたよ。

 その上で…。


「もう一度言う。

 おまえの選べる選択肢は二つ。

 十年の強制労働を受け入れるか。

 この方の下で真面目に働くかだ。

 あっ、いや、もう一つ選ばせて進ぜよう。

 この場で、私の剣の錆になるかだ。」


 そう宣告して、モカさんのご子息は腰に下げてた剣を抜いて見せたの。

 摘発に入った時、躊躇なく一人を斬り殺しているからね。

 剣が抜かれた瞬間、オッチャンの両隣にいた罪人がとばっちりを恐れて飛び退いたよ。


 喉元に切っ先を突き付けられて、オッチャンも一気に酔いが醒めたみたいで…。


「待て、分かった! 分かったから勘弁してくれ!

 騎士様に無礼な事を言った俺が悪かった。

 分かった、俺はその女王様の下で働くぜ。

 それで良んだろう。剣を納めてくれないか。」


 泡を食った顔をして、後退りながら答えてた。

 結局、七人全員がおいらの下で働くことを選んだの。

 七人の気が変わらないうちに、アルトの『積載庫』に放り込んでもらったよ。


      **********


「と言う訳で、スフレ姉ちゃんの親父さんはおいらのところで預かるよ。

 街道整備の現場は、脱走と怠業を防ぐために騎士が厳しく監視しているし。

 お酒を一滴も飲めないだけじゃなく、規則正しい生活を強いられるからね。

 スフレ姉ちゃんが望む通りに、親父さんを真人間にすることが出来ると思うんだ。」


 おいらが、ことの顛末をスフレ姉ちゃんに報告すると。


「マロンちゃん、有り難う。

 お父さん、あのままだと、きっと罪人になっていたと思います。

 マロンちゃんの下で、厳しく矯正してもらえるのなら安心です。」


 スフレ姉ちゃん、憂いがすっ飛んだって感じて満面の笑みを浮かべたよ。

 これで少しは真人間になるかも知れないって、呟いていた。


 おいらの受けた印象だと、あのオッチャンを真人間にするのは難しいかも知れないけど…。

 おいら、思ったんだ。

 親父さんを絶対にスフレ姉ちゃんと接触できない場所に離しちゃおうって。

 そうすれば、スフレ姉ちゃんに迷惑を掛けることは無くなると思ったの。


 街道整備の現場は辺境の人里離れた場所だし、この王都まではとても歩ける距離じゃないの。

 監獄のような寄宿舎で、厳しい監視の目もあるから脱走するのは無理だと思うけど。

 仮に脱走できたとしたとしても、工事中の街道は駅馬車も通ってないからね。

 ただでさえ怠け者のスフレ姉ちゃんの親父さんが、この王都に戻ってくるのは絶対無理だと思うよ。


 そして、更に数日後。


「捕縛した賭場の元締め、摘発を免れるためかなりの賄賂を送っておりました。

 衛兵隊に摘発しないよう圧力を掛けるために、貴族数人に。

 それと、その貴族の意を受けて、実際にお目溢しを指示していた衛兵隊の隊長ですな。

 賄賂を受け取っていた貴族には蟄居を命じ、衛兵隊の隊長は解雇のうえ強制労働刑に処しました。

 これで、貴族や官吏のモラルが少しは向上すれば、めっけものだと思いますよ。」


 モカさんが良い見せしめになったと、満足気に話していたよ。

 賄賂を貰っていた貴族は、流石にお取り潰しにする程の罪ではなかったけど。

 蟄居させると共に、強制的に代替わりさせたらしいよ。

 これって、貴族にとってはとっても不名誉なことらしくて。

 賄賂を貰うのが当たり前だと思っていた貴族連中は震え上がっているらしいよ。


 当然衛兵隊の方にも激震が走ったみたい。

 貴族連中の言いなりになって、犯罪のお目溢しをした結果が強制労働だもんね。

 多少の賄賂では割に合わないって…。


「ああ、それと、賭場の元締めと結託していた高利貸ですが。

 色々と余罪が明るみに出ましてな。

 高利貸の主人の他、番頭と手代一人を広場で斬首しました。

 もちろん、高利貸の財産は全て没収し。

 その高利貸からの借金は返済不要と御触れを出してあります。」


 まあ、親が娘を勝手に担保に差し出すのを認める高利貸だから…。

 色々と悪いことをしていたんだろうね。


 一応、スフレ姉ちゃんの親父さんの借金の証文はおいらが押さえておいたけど。

 借金をしている人全ての返済を免除したのなら、もう何の心配も無いね。

お読み頂き有り難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ