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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十六章 里帰り、あの人達は…
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第482話 まだこんな貴族が残っていたよ

 その日、おいらが妹のミンメイと一緒に散歩していると。


「しつこいわね、行かないと言っているでしょう。

 その手を放してよ。」


「うるせい、若様がおまえをご所望なのだ。

 四の五の言わずについて来い。」


 若いお姉ちゃんとガラの悪い兄ちゃんが言い争っていたんだ。

 お淑やかそうなお姉ちゃん一人を、ガタイの良い兄ちゃん三人で取り囲み。

 そのうち一人が、お姉ちゃんを逃がすまいと腕を掴んでいたの。

 お姉ちゃんの方は何処かで見た顔なんだけど…。


 最近めっきり治安の良くなった辺境の町でこんな風景を目にするのは珍しいね。

 この町の冒険者は殆ど更生したし、ギルドの門番がガラの悪い人間の侵入を拒んでいる。

 更に、騎士のお姉ちゃん達もこまめに街の巡回をしているから、ゴロツキがのさばる余地が無いんだ。

 ことによると、この国で一番治安が良い町も知れないのに、…。

 どうやってこんなならず者みたいな連中が紛れ込んだんだろう?


「ねえ、そこのお姉ちゃん、何か困ってる?

 ゴロツキに絡まれてるように見えるけど、手助けが必要かな?」


 おいらが、お姉ちゃんに尋ねると。


「関係ないガキが口出しすんじゃねえ。

 誰が、ゴロツキだ、失礼な。

 俺達はれっきとした貴族様の家臣だ。

 若様の御命令を遂行中なのだから邪魔するな。」


 貴族の家臣?

 どう見ても更生前の冒険者と見分けがつかないんだけど…。 

 それにこいつら、貴族の命令なら何をしても良いと思っているのかな。


「ねえ、そこのお嬢ちゃん、あなた、この前ギルドの風呂屋に来てたでしょう。

 ミヤビちゃんを身請けするお金を届けるために。

 風呂屋の支配人は知っているよね?

 支配人に伝えて欲しいんだけど、ウララが助けを求めてるって。」


 何処かで見た顔だと思ったら、この前、カズヤ殿下のお相手をしてた泡姫のお姉ちゃんか。


「うん、それは構わないけど。

 それだけで、支配人は分かるかな?

 おいらが風呂屋に行く間に、連れ去られちゃったら。

 何処に助けに行くか分からないんじゃない。」


「それは、大丈夫、支配人には相談してあるから。

 何日か前から、煩く言い寄ってくるバカ貴族が居るって。」


 どうやら、ウララ姉ちゃん、バカな貴族のボンボンに付きまとわれているみたい。

 支配人が事情を理解してるのなら連絡するだけで良いから、大した手間でもないね。


「分かったよ、バカな貴族の手下に絡まれて困ってるって伝言しておくね。」


 おいらが、ウララ姉ちゃんの願いを聞き入れて、風呂屋へ向かおうとすると。


「ちっ、タダのお節介なガキかと思えば、顔見知りかよ。

 ならば、ここを通す訳にはいかねえな。

 風呂屋の支配人にチクられると色々と面倒だからよ。」


 ゴロツキの一人がおいらの行く手を遮ったの。

 どうやら、おいらが風呂屋に駆け込むのを妨害するつもりらしい。


「ねえちゃ、ねえちゃ、やっちゃえ!」


 ゴロツキに絡まれていると言うのに、ミンメイはやに楽しそうにしていたよ。


「ミンメイ、良く聞いて。

 父ちゃんからも言われていると思うけど。

 暴力はいけないことなんだよ。

 特に弱い者イジメはしちゃいけないことなんだ。

 例えゴロツキ相手でも、出来る限り話し合いで済ませないと。」


 将来、ミンメイが粗暴な大人になったら困るから、しっかりと躾けておかないとね。


「うーん、わかった!

 おいちゃん、よわいから、やっちゃメッなんだ。」


 ミンメイは聞き分けの良い返事をしてくれたんだけど…。


「このクソガキが、大人をバカにするのもいい加減にしやがれ。

 何が、弱い者イジメだ。

 生意気なガキには少しお灸を据えてやらんといかんようだな。」


 ゴロツキの方がキレて殴り掛かって来たよ。

 おいらは、回避スキルに頼るまでも無く、そいつの拳を手のひらで軽く払ったの。


 そしたら、ボキッ!っと、耳障りな音がしてね。


「うがっ!」


 クリティカルで手首の骨を粉砕しちゃったみたいで、うめき声をあげてゴロツキは蹲ったんだ。


「このクソガキ、何しやがる!」


 手首の骨を砕かれた仲間を見て、残りの二人が激昂して襲い掛かって来たよ。

 結局、弱い者イジメをするハメになっちゃった…。


「ねえちゃ、よわいものいじめはメッだよ。」


 三人共手首を粉砕したら、ミンメイに叱られちゃった…。


「お嬢ちゃん、小さいのに強いのね。

 こんな屈強な男三人を一蹴してしまうなんて…。」


 ウララ姉ちゃんは感心してたけど。

 屈強かどうかは分からないな、こういう連中って見掛け倒しの奴が多いから。


         **********


「しかし、困ったわね。

 穏便に済ませたかったのに…。

 貴族の家臣に怪我をさせてしまったら、どんな因縁を付けられるか。」


 ウララ姉ちゃんは、蹲っている三人のゴロツキを見てそんな不安を零していたんだ。

 この国は、貴族の力が強いからね。

 平民が貴族に歯向かったらどんな目に遭うことかと、心配しているみたい。


「そこはあんまり心配しなくて良いよ。

 おいらが何とかするから。

 ところで、もう少し詳しい事情を聴かせてもらえる?」


「あんまり、子供に話す事じゃないんだけど…。」


 おいらの問い掛けに、ウララ姉ちゃんはどう返して良いか戸惑っていたの…。

 子供に聞かせるような話じゃないって。


 そんな訳で…。


「なるほど、王都のエロスキー子爵のどら息子ですか。

 女癖が悪いとの噂ですが、こんな辺境まで女遊びに来るなんて…。

 見下げた放蕩息子ですね。」


 貴族のトラブルなら貴族に相談しようと言うことで、騎士の詰め所に三人を引き摺って来たよ。

 今、この町に常駐している連隊長のペンネ姉ちゃんは、パスタ男爵家のご令嬢だもんね。

 手首を砕いた三人は紐で縛って、文字通りおいらが引き摺って来た。


 ペンネ姉ちゃんが、事情聴取して呆れた内容はと言うと。

 この町の風呂屋は王都辺りにまで評判になっていると、常々聞いているのだけど。 

 そのどら息子も、噂に引き付けられてわざわざ王都からやってきた一人らしい。


 で、数日前、ウララ姉ちゃんがどら息子のお相手をしたそうだけど。

 どら息子はウララ姉ちゃんの事がとてもお気に召した様子で、妾になれと迫ったらしの。


 このどら息子、稀代の醜男(ぶおとこ)で、NGな奉仕を強要するとかマナーも最悪だったらしくてね。

 ウララ姉ちゃんの方は、どら息子の相手なんか二度としたくないと思ったそうなんだ。

 それで、「妾なんって、死んでも嫌よ。」とはっきり断ったらしいの。

 支配人にも報告して、風呂屋へ出禁にしてもらったらしいよ。

 

 どら息子は風呂屋に出禁になると、今度はウララ姉ちゃんの仕事が明けるのを出待ちして言い寄って来たそうなんだ。

 そのため、ここ数日は家まで風呂屋の用心棒に送迎してもらっていたらしいよ。

 今日は街に買い物に出たところを家臣三人に捕まったんだって。

 どうやら、ウララ姉ちゃんの家を四六時中家臣に見張らせて、一人で外出するのを待ち構えていたみたい。


「ねえ、ペンネ姉ちゃん、そのどら息子の要求を断ることは出来るんだよね。」


「はい、この領地は婦人に暴行を加えたり、無理やり妾にしたりすることを法で禁じています。

 これは貴族にも適用され、身分を笠に着て強要することも出来ません。

 ですが、こういった定めはこの国では極めて珍しくて。

 他領や王領などでは、貴族のお召しを断ることが出来ないのが普通です。

 ウララ嬢が拉致されて、ハテノ領から連れ出されてしまえば泣き寝入りするしかありません。」


 どうやら、ギルドの支配人はこの領地の法を盾として、どら息子の要求を撥ねつけていたみたい。

 それでどら息子は、ウララさんを拉致してハテノ領から連れ出してしまおうと企んだんじゃないか。

 そうすれば、この領地の法で裁くことが出来なくなるから。

 ペンネ姉ちゃんはそんなことを言ってたよ。


「それで、おいら、そのどら息子の家臣三人をのしちゃったんだけど。

 問題になるかな?」


「先ずは、この三人がウララ嬢を拉致しようとしていたか否かですね。

 拉致しようとしていたなら、それを阻止すること自体は問題ありません。

 ただ、貴族の家臣に平民が怪我を負わせたとなると…。

 少し面倒ですね。

 まあ、マロンちゃんが身分を明かしてしまえば、何とでもなるとは思いますが。」


 この国では、平民が貴族に怪我を負わせるなんて以ての外で、即座に首が飛んでも文句言えないって。

 今回の場合、おいらが手首を粉砕した三人は家臣で、平民ではあるのだけど。

 貴族の命を受けて行動していて、おいらがそれを邪魔した上に、怪我をさせた形になっているの。

 もし三人が、ウララ姉ちゃんを拉致するつもりは無く、ついて来てもらえるように穏便にお願いしてただけと主張しようものなら。

 おいらの行動はかなり問題になると、ペンネ姉ちゃんは言ってたよ。

 あくまで、おいらが平民だった場合だけどね。


「しかし、厄介ですね。

 エロスキー子爵のどら息子と言えば、筋金入りの女好きで。

 狙った獲物はしつこく追い回すという噂です。

 王都の社交界では、貴族令嬢の間で鼻つまみ者となってまして。

 貴族の娘に素気無くされているものですから。

 平民の娘を強引に召し上げていると、もっぱらの評判でして。

 きっと、ウララ嬢のことも簡単には諦めないと思いますよ。」


 ペンネ姉ちゃんは、王都での評判をもとにそんな懸念を口にしていたの。


 そして…。


「マロンちゃん、いっそこと、一思いにプチっと()っちゃっても良いですよ。

 マロンちゃんが身分を明かせば誰も文句言えませんし。

 私も面倒な貴族の対処をしないで済みます。」


 ペンネ姉ちゃんが悪い笑顔をみせて、おいらを(そそのか)して来たよ。

 厄介事は勘弁して欲しいって、本音を覗かせながら。

お読み頂き有り難うございます。

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