第461話 当然、変わらない人もいる訳で…
その日おいらは、妹のミンメイを連れて街へ散策しに出かけたの。
「朝の広場に異常な人だかりが出来ているのも驚きでしたが。
昼間でも随分と賑わっていますね。
とても、辺境の地とは思えない反映振りです。」
護衛のトルテ姉ちゃんが辺りを見回しながら目を丸くしてたよ。
ウエニアール国の王都で生まれ育ったトルテ姉ちゃんは、辺境の町と聞きどんな片田舎なのかと想像していたらしいの。
「こんなに賑やかになったのは、ここ数年のことだよ。
大昔は、凄く栄えた町だったらしいけど。
おいらが住んでいた頃は寂れてて。
ガラの悪い冒険者が、肩で風切って歩く無法地帯だったんだ。」
「とてもそうは思えないですね。
これも、ダイヤモンド鉱山を再開して、鉱山で人を沢山雇ったおかげですか。」
そう思うのも仕方がないね。
トルテ姉ちゃん達には、ダイヤモンド鉱山のことくらいしか知らせてないもの。
「もう二年以上前になるかな。
アルトがこの町で芸人の公演を始めたの。
トレント狩りで一緒になる連中だよ。
この辺り、何も娯楽が無い場所でしょう。
冒険者ギルドが送迎の駅馬車の運行を始めたのも手伝って。
周辺の村や町から見物客が押し掛けてくるようになったの。
そしたら、見物客目当ての屋台や宿屋を始める人が出て来て。
この町が賑わいを取り戻す切っ掛けはそれだね。」
「ああ、分ります。
あの人達、連携が見事ですよね。
一糸乱れぬって感じの動きがきれいでした。」
「連中の稽古で狩ったトレントを使って、アルトが木炭を作ってね。
領地の特産品にしたらどうかって、ライム姉ちゃんに持ち掛けたんだ。
そしたら今度は、木炭を仕入れに来た山の民がこの町に作品を卸すようになったの。
トレントの木炭も山の民の作品も貴重品でしょう。
国中だけじゃなくて、隣のシタニアール国からも買付けに来るようになったんだよ。
それで、本格的に賑わいを取り戻し始めたの。」
周辺から人が集まって来れば、宿屋の他に飯屋や酒場、それに風呂屋なんかも繁盛するからね。
お店が繁盛すればそこに働く人も増えるし、良い感じの循環が出来つつあったんだ。
ダイヤモンド鉱山は復興の総仕上げだった訳だね。
「へえ、そう聞くと、この町の復興って全てアルト様が仕掛けられたのですね。
物語で聞く妖精さんって、人の世界にはあまり関与しないって印象なのに意外です。」
「まあ、アルトも最初から関わろうとしてた訳じゃなくて。
成り行き任せにしたら、こうなったって感じだけど。
それでも、アルトには感謝しないとね。」
アルトの機嫌を損ねるおバカが居て、お仕置きをして回ってたら偶然そうなった気がしないでもないけど。
少なくとも、アルトの存在なしにはこの町がこんなに賑やかになることは無かったね。
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そんな会話を交わしながら散策していると、ちょうどその日は『STD四十八』の公演日だったみたいで。
アルトが広場の隅に大きなステージを設置しているところだった。
ステージの裏では、STD四十八の連中が公演の準備をしていたよ。
いつの間に頼んだのか、宙に浮かんだアルトの隣でシフォン姉ちゃんが打ち合わせをしていたよ。
『きゃんぎゃる』の格好をしているので、久し振りに公演の司会をするみたい。
ステージの準備が整う頃には、見物人も大分集まっていて広場は朝ごはん時以上の賑わいになったよ。
そして、司会のシフォン姉ちゃんが現れると広場が沸いたよ。
胸と腰の周りを最小限しか隠してない『きゃんぎゃる』の服を着たシフォン姉ちゃん。
単なる司会進行役なのに、何故か見物人に大人気なんだ。
前座でハテノ家騎士団の一小隊による歌の披露があったけど、五人とも見覚えが無いお姉さんだった。
きっと、また騎士団の増員を行ったんだね。
そして、メインとなるSTD四十八の剣舞が始まり・・・。
「しゅごい、しゅごい、おもしろい!」
細身の真剣を片手に舞台の上を飛び回る連中を見て、ミンメイがはしゃいでたよ。
初めて見せたのだけど、一糸乱れぬ動きで舞う連中の姿は幼いミンメイの目にも楽しく映ったみたい。
連中、観客に飽きられないように常に新しい技を磨いていると言ってたけど。
その言葉通り、観客たちから上る歓声は一年前以上だったよ。
そして、こんな連中も健在で…。
STD四十八の剣舞や歌の合い間に、ハテノ家騎士団『花』小隊のみんなが出て来ると。
「せ~の~」
リーダーの掛け声に続き…。
「「「「「「ペンネちゅあ~ん!」」」」」」」
親衛隊の連中が声を揃えて一斉にペンネ姉ちゃんの名前を叫んでた。
親衛隊のリーダーはにっぽん爺から若い人に交代したようだけど、以前と同じように統率はとれてたし。
第一コーラスと第二コーラスの間奏でも。
「「「「「「「L・O・V・E・ラブリーペンネ」」」」」」」
って、声援は健在だったよ。
相変わらず、おへそとパンツ丸出しで歌っているペンネ姉ちゃんの人気は凄かった。
で、演目と演目の間には、シフォン姉ちゃんが集金箱を抱えて見物人の間を飛び回ってた。
シフォン姉ちゃんも人気者で、観客の方から寄って来て次々にお金を入れてたよ。
直ぐにいっぱいになって、舞台袖と観客の間を何度も往復してた。
そして、一人、ペンネ姉ちゃんの親衛隊から離れた広場の隅で、露店を広げている兄ちゃんがいたよ。
『L・O・V・E ペンネ!』と大きく背中に書かれた親衛隊のハッピを着て。
「やや、そこにいるのは、マロン嬢ではござらぬか。
お久しぶりでござるよ。
元気だったでござるか?」
相変わらず変な口調で話しかけてくる兄ちゃんは、ウエニアール国から連れて来たセーナン兄ちゃん。
小太りで二重アゴ、お世辞にもイケメンと言えないけど、どことなく愛嬌があって憎めないない兄ちゃんなの。
セーナン兄ちゃんの露店には、ズラリと騎士団の姉ちゃんの人形が並んでたよ。
「セーナン兄ちゃん、久し振り。
また、露店を出してるの。
そこの一等地にお店を出してるんでしょう。
上手くいってないの?」
「違うでござるよ。
おかげさまで、商売は順調でござるよ。
ハテノ家騎士団が増員してくれるおかげで、新製品のネタには事欠かないでござる。
常連さんは、騎士団員全員の人形を買ってくれるので助かるでござるよ。
この露店はお祭り気分を盛り上げるためと、お店の宣伝のためでござるよ。
こうして露店を出しているのは、公演のある日だけでござるよ。」
これだけ観客が集まると初めて見物に来る客が一定数いるので、露店を出して商品の宣伝をしているらしいよ。
以前と同じように、露店を覗いた人には店舗の宣伝チラシを配布しているんだって。
お店の方は本当に順調らしくてね、特に等身大実用モデルは生産が追い付かなくて三ヵ月待ちだとか…。
「こちらにいたんですか。
先ほど、お店に伺ったんですけど。、
本日休業中の看板が掛かっていたので、引き返してきたところですよ。」
聞き覚えがある声に振り向くと、そこにいたのはイナッカ辺境伯領から来ている雑貨商の若旦那だった。
イナッカの町に大店を構えているらしいけど、この町が気に入って定期的に仕入れに来ているんだ。
「やや、それは失礼したでござる。
貼り紙に書いておいたでござるが。
今日は夕方までここで露店をしているでござるよ。
しばらく、この町に滞在していくのでござろう。
申し訳ないが、今日の夕方にでも来てくださらぬか。
注文の品は全部揃っているでござるから。」
どうやら、若旦那は以前この町に来た時に、セーナン兄ちゃんに注文を出して帰ったみたい。
今日は注文の品を取りに来たんだね。
若旦那は、露店に並ぶ人形を見回しながら。
「いつもながら、見事な出来ばえだ。
おや、新顔も幾つかあるな。
これも、仕入れて帰ることにしよう。
悪いが長旅で溜まっているんだ。
今日は夕方から風呂屋にしけ込むつもりなんで。
明日の午前中にでも寄らせてもらうよ。
明日なら、店を開けているんだろう。」
露店の商品の中に新商品を見つけてそんなことを言ってたよ。
「承知したでござるよ。
明日は店に居る故、いつ来ても良いでござる。
しかし、若旦那も好きでござるな。
この町に着いた早々、風呂屋にしけ込むでござるか。」
「決まっているじゃないか。
何で、私が自ら仕入れに出向いているのだと思っている。
貴方の店の人形や、お爺ちゃんのデザインした服など。
確かに、男心をくすぐる魅力的な商品が多いこともあるが。
ここの風呂屋に通うのが一番のお目当てなんだぞ。
私はここの風呂屋のマットプレーを楽しみに長旅を堪えて来るのだから。」
何か、ダメな大人丸出しのこと主張しているよ、若旦那。
だいたい、セーナン兄ちゃんの人形やにっぽん爺の服なんて、ニッチな欲望を満たす品じゃなくて。
トレントの木炭や『山の民』の作品を仕入れるのが、本来の目的でしょうに…。
お読み頂き有り難うございます。




