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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十五章 ウサギに乗った女王様
405/848

第405話 拙いことが起こりそうな予感だよ…

 おいらに噛みついたマイナイ伯爵家に向かって、呑気に構えていて良いのかと問い掛けたアルト。


「どういう事? 魔物の襲撃はさっきのワイバーンだけじゃないの?」

 

 おいらがアルトの言葉の意味を尋ねると。


「確証は持てないけど、大規模な魔物の襲撃があってもおかしくないと思ってね。」


 確証は持てないと言いつつ、アルトの表情はとても浮かないモノだったの。

 内心では百%、魔物の襲撃があると思っているかのような。


「おい、その珍妙な生き物はいったい何者だ。

 生意気にも人の言葉を話しおったぞ。」


 なのに、伯爵はそんな些細なことを気にしてたよ…。


「殿、口を謹んでくだされ。

 その方にご無礼な口を利きますとこの領地はお終いですぞ。」


 お爺ちゃんは、泡を食って伯爵を諫めたよ。


「何を大袈裟なことを言っておるのだ。

 こんな小っぽけな羽虫のようなモノに何が出来ると言うのだ。」


 でも、伯爵はお爺ちゃんの諫言を意に介する様子も無かったの。

 それどころか、よりによって一番言っちゃいけない言葉を吐いたんだ。・・・『羽虫』って。


「殿、私もお目に掛かるのは初めてですが…。

 そのお姿から推測するに、その方は妖精さんですぞ。

 殿だって、子供の頃から聞かされているでございましょう。

 祟りがあるので、妖精さんの勘気に触れてはならないと。」


「爺は、何を子供騙しなことを言っておるのだ。

 あんなの迷信に決まっておるだろうに。」


 マイナイ伯爵はお爺ちゃんの言葉を子供騙しの迷信と一笑に伏したの。

 何で、ダメな大人って妖精の伝承を迷信だと思っているんだろう。

 おいらが目にしたダメな大人って、殆どが妖精の力を侮っているんだよね。


「殿、隣国トアールの王族は二百年前に滅亡寸前に追い込まれたのですぞ。

 妖精の森に攻め込んで、返り討ちに遭ったのです。

 生き残った王族は唯一人だけ。

 それも、恐怖の余り失禁しながら命乞いしたと公文書に残っておりますぞ。

 今でも、トアール国の真の支配者は妖精さんだと言われてるのです。」


「えっ、…。」


 お爺ちゃんがマジ顔で説明したものだから、伯爵は絶句してたよ。

 そして、血の気を失った顔でアルトに目を向ける伯爵。


「嫌だわ、私はトアール国の真の支配者なんかじゃないわよ。

 人族が妖精族にちょっかい掛けてこなければ、妖精の方から人族に干渉することは無いもの。

 現に、この二百年程トアール国の王とは会うことは無かったし。」


 自分がトアール国の王族を根絶やし寸前にした妖精だと、アルトは言外に仄めかせたの。

 その時のアルトの表情は氷の微笑みって感じで、伯爵は狼狽えて一歩後ずさってたよ。


       **********


 お爺ちゃんの背中に隠れるようにして身を縮こまらせてる伯爵に代わり。


「殿のご無礼な言動の数々、真に申し訳ございませんでした。

 後ほど厳しく進講しておきますので、寛大な御取り計らいを頂けないでしょうか。

 また、殿が話の腰を折って失礼を致しました。

 差し支えなければ私共にもご教示いただけませんか。

 その、魔物が襲撃して来るやも知れないと言われた根拠を。」


 アルトに詫びを入れたお爺ちゃんは、謝罪の言葉に続けて話の続きを聞きたいとお願いしたんだ。


「ああ、そうだったわね。

 そこのおバカさんが話の腰を折るものだから、忘れるところだったわ。

 さっきから、あんた達二人の話を聞いてたけど。

 この領地はしばらく魔物の襲撃は無かったそうね。

 でも、それって変な話だわ。」


 アルトが上空から見る限り、裏手にある川の対岸はすぐに魔物の領域になってるみたいなの。

 そして、裏手の川程度の川幅なら魔物の侵攻には何の障害にもならないって。

 こんな立地だと、本来なら頻繁に魔物の被害があっても良さそうなモノなんだって。

 なのに長いこと魔物の襲撃が無いのは不自然だと、アルトは言うの。


「それはもしかして、何代にもわたって慣例にしてきた騎士の訓練の賜物かも知れません。

 私が仕えて来た先々代、先代共に、毎年二回必ず魔物領域で魔物相手の訓練をしておりました。

 一度魔物の領域に入ると、五日ほど森で寝泊まりして魔物を狩り続けるのです。

 歴代の領主や騎士は、そうやって剣の技量とレベルの向上に努めてきたのですが…。」


 お爺ちゃんは、暗に目の前の領主に代替わりしてからはしてないような口振りで、最期に言葉を濁したよ。


「そう、きっと、それが魔物の適度な間引きになっていたのね。

 魔物の個体数がかなり少なく抑えられていたので、人の領域への侵入が無かったのでしょうね。

 ところで、最近はその騎士の訓練はしてないのかしら?」


 お爺ちゃんの説明を聞き魔物の襲撃がなかったことに納得した様子のアルト。

 最近の魔物狩りの状況を尋ねたの。


 するとお爺ちゃんはバツの悪そうな顔で伯爵の方に視線を向け…。


「それが…。

 殿の代になってから魔物狩りなどと言う危険な訓練は止めだと仰せになりまして…。」

 

 歯切れの悪い言葉で話すと、途中で言い淀んだの。 

 

「儂は悪くないぞ。

 魔物狩りだなんて危険な事をして、大事な騎士が怪我をしたらどうするのだ。

 何よりも、あの訓練の指揮は代々領主が陣頭指揮をとるのが習わしではないか。

 儂は山中で野宿などやりとう無いわ、何が悲しゅうて貴族がそんなことをせにゃならん。」


 先代が亡くなってから十年近くなるそうだけど、目の前の伯爵は一度も魔物狩り訓練はしてないそうだよ。

 さっき、コッソリ聞いていたことと同じことを言ってたよ。

 領民の間で一揆が起きたら速やかに鎮圧しないといけない騎士を、一人たりとも失う訳には行かないって。

 領民を相手するなら、騎士達は今のレベルで十分なので。

 危険を冒してまで、剣の技量とレベルの向上させる必要は無いなんてことも言ってた。


「呆っきれた…、魔物狩り訓練の本当の意義を理解してなかったのね。

 魔物領域のこんな近くで、十年も間引きをしてないなんて…。

 いつ、スタンピードが起こっても不思議じゃないわ。」


 アルトの話では、この辺りに『魔王』はいないそうなの。

 『魔王』が統率してれば、スタンピードは起こらないのだけど。

 魔王がいない魔物の領域では、一定数以上に魔物が増えるとしばしばスタンピードが生じるらしいの。

 だからこそ、おいらが住んでた辺境の町の様に、魔物の領域からは相当距離をとって町が造られてるんだって。

 安全距離ってやつ。

 

 アルトは十年間スタンピードが怒らなかった方が、むしろ奇跡に近いと言ってたよ。


「ええい、別にスタンピードが起こっても問題ないではないか。

 この町は、これだけ堅固な城壁で囲まれておるのだ。

 スタンピードなど怖くも無いわ。」


 そんな虚勢をはる伯爵。

 でも、さっき、ワイバーンが飛び込んで来たよね。

 ワイバーンやギーヴル、空飛ぶ魔物に城壁は役に立たないと思うよ。

 なんなら、ハエや蚊、ゴキブリの魔物なんかでもね。


「殿、そうは参りませぬ。

 この領地の最大の財源は裏の川でとれる砂金。

 砂金取りが魔物に襲われようものなら。

 今後安心して砂金を採ることが出来なくなるでしょう。

 砂金取りが減れば領地の財政は一気に傾きますぞ。

 いえ、砂金取りが続けられれば良い方です。

 もし、川岸に魔物が住み着こうものなら。

 砂金取りそのものが不可能になります。」


 そうだね、ハテノ男爵領はまさにそれで領地が傾いちゃったんだものね。


「それだけじゃないでしょう。

 空飛ぶ魔物は城壁などものともせずに侵入して来るわよ。

 そしたら、どれだけ大きな被害が出る事か。

 他にも、周辺の農村が襲われたらどうするの?

 食糧事情も一気に悪化するわよ。」


 お爺ちゃんの言葉に加えて、アルトが起こりうる魔物の被害を警告したんだ。


「分かった、分ったから、どうせいと言うのだ。

 儂に何をしろと言うのだ。」


 お爺ちゃんとアルトに脅されて、伯爵は渋々そんなことを言ったんだ。

 

「決まっているでしょう。

 あんたが騎士を陣頭指揮して魔物を討伐するのよ。」


「妖精さんのおっしゃる通りですな。

 古来、魔物の襲撃に対しては領主が騎士を率いて戦うのが習わし。

 そのために、領主のレベルを領内で一番高くしているのですから。

 殿、ここが正念場ですぞ。」


 アルトとお爺ちゃんは、伯爵に先陣を切って戦えと迫ったよ。


「儂に戦えと言うのか?

 儂は剣など握ったことも無いのだぞ。」


 伯爵は腰が引けて、そんな情けないことを漏らしてたよ。


 こいつ、大丈夫か?

お読み頂き有り難うございます。

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