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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十五章 ウサギに乗った女王様
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第384話 タロウが重要なことを教えてくれたよ

 トレントの木炭の件が済むと、タロウはアルトに向き直り。


「アルト姐さんにお願いってのは二つあって。

 一つは『ゴムの実』を譲って欲しいんだ。

 『風呂屋』で使おうと思ってな。」


 二つある頼みの一つを口にすると、アルトの表情が険しくなったよ。


「あんた、アレを『風呂屋』の客に使うつもりなの?

 アレの危険性はあんたも聞いているはずよ。

 アレの強過ぎる催淫効果は依存性があるのを知っているでしょう。」


 そう言えば、『ゴムの実』の発見者のにっぽん爺はそれで王都を追われたんだっけ。

 建て前は『ゴムの実』の常習性が問題になったんだよね。

 本当のところは、王妃のミントさんと仲良くなったことが王様の逆鱗に触れたみたいだけど。


「あの実の恐ろしさは、身に染みて知っているよ。

 シフォンがあの実を食べた晩は朝まで搾り取られるからな。

 果肉部分を客や泡姫の姉さんに食べさせるとは言ってないじゃないか。

 俺が欲しいのは、『皮』の部分だよ。」


「『皮』の部分なら、服の材料にシフォンに卸しているじゃない。

 かなり多めに卸しているから、手持ちがダブついてるんじゃないの。

 それを使えば良いじゃない。」


 ゴムの実の皮の部分は、シフォン姉ちゃんの作るパンツの材料になってるんだ。

 だから、アルトは定期的に沢山届けてくれるみたいなの。

 タロウにはそれを使えば良いんじゃないかと言うのだけど…。


「あんな乾燥してゴワゴワになってる物を(かぶ)せられる訳が無いじゃないか!

 俺は乾燥させる前のしっとりした感触の『皮』が欲しいんだよ。

 潤滑剤代わりにゼリー状の果肉が少し付着している『皮』が理想的なんだ。」


 何に被せるのか分からないけど、乾燥されたモノではタロウの目的にそぐわないみたい。


「乾燥される前の『ゴムの実』の『皮』?

 そんなものをいったい何に使うのよ?」


 アルトからその具体的な用途を尋ねられると、タロウは…。


「そんなこと、マロンの前で言えるか!

 言ったら、アルト姐さん、絶対俺にお仕置きするだろう。」


 どうやらおいらの教育に悪い話のようで、アルトに耳打ちして聞かせていたよ。


「そういえば、あの色事爺が言ってたわね。

 アレに、アレを被せると子種を遮断できると。

 タロウは泡姫がお客の子を孕むのを防ごうと言うのね。」


「ああ、そうなんだ。

 爺さんが言ってたんだ。

 あの『皮』は正しく使かえばほぼ完璧な避妊効果があるってな。

 それだけじゃねえぞ、シモの病気の大部分も防げるらしい。

 さっき話した部屋の衛生面の改善と併せて、避妊と病気予防ができれば。

 泡姫の姉さん達は安心して働けるし。

 お客さんの方の安心して遊びに来れるだろう。」


 どうやら、タロウなりに風呂屋で働く泡姫さんの待遇改善を考えての相談だったみたいだね。

 アルトも感心している様子でタロウの言葉に耳を傾けてた。


「分かったわ。

 悪いことを企んでいるようじゃないから、協力してあげるわ。

 乾燥防止のために果肉を適度に塗した『ゴムの実』の『皮』。

 適当な大きさの壺にでも入れて渡せば良いのね。」


 アルトは、壺に付着した果肉を集めて食べる事はするなとタロウに釘を刺していたよ。

 特に、シフォン姉ちゃんが目を盗んで摘み食いしないように、目を光らせておけってね。


      **********


「それで、もう一つ、お願いがあるんだ。

 『妖精の泉』の『水』を風呂屋でも使わせて欲しいんだ。」


 万病に効くと言う『妖精の泉』の『水』。

 実は、おいらと父ちゃんとタロウの家族は使い放題なの。

 辺境の町に住んでいた時も、アルトの森にあった泉から貰い放題だったんだけど。


 この王都に隣接してアルトが作った大きな森。

 その一部は、冒険者が稼ぐためのトレントの森になっているんだけど。

 森全体がアルトの別荘のようなもので、許可のない者は結界に阻まれているんだ。


 トレントの森の部分は『ひまわり会』のお姉さん達も入れるようにしてあって。

 お姉さんが操る馬車で冒険者を森に連れて入り、狩りをさせる仕組みになっているの。

 トレントの森のさらに奥は、アルトのプライベートスペースになっていて。

 そこへ入る事が許可されているのは、六人だけなんだ。

 おいら、オラン、父ちゃん、ミンミン姉ちゃん、ミンメイ、タロウ、シフォン姉ちゃん。


 そこには、『泉』が湧いていて、その水にはやっぱり万病に効く効果があるんだ。

 アルトからは、立ち入りを許可された六人とその家族だけに使って良いって許可されていたの。


「風呂屋で使うって、病気の予防ならゴムの実の皮で十分なんじゃないの?

 妖精族が秘匿してきた訳は想像がつくでしょう。

 大っぴらになると、きっと欲深い者が手に入れようとすることでしょう。

 それによって争いごとになりかねないからね。

 だから、分け与えるのは私が心を許せる者だけと決めているの。」


 アルトは、泉の水を巡って面倒事が起こるのを危惧してタロウのお願いに難色を示したんだ。

 でも、今日のタロウは何時になく真剣な表情で引く様子を見せなかったの。


「そこを何とかお願いできないか、アルト姐さん。

 ゴムの実の皮で予防できるのは、ナニの接触で感染するシモの病気だけなんだ。

 風呂屋は密閉された狭い空間で、濃密な接触があるだろう。

 シモの病気以外も、うつり易いんだよ。

 特に、ここは港町だろう。」


 そう言って、尚もタロウはアルトを説得していたんだ。

 その時のタロウの言葉に、おいらは引っ掛かるモノがあったんだよ。


「タロウ、この町が港町だって、どういう関係があるの?」


「あっ、流石に、アルト姐さんや親父さんから英才教育を受けているマロンでも知らねえか。

 最近増えてきたとはいえ、辺境の町は人の行き来がまだまだ少ないし。

 交易の範囲も似たような気候風土の場所に限られているものな。

 港町は、海を越えて気候や風土が異なる遠い場所との交易があるだろう。

 気候風土が違うと、その地に特有の流行り病があるもんなんだ。

 実際今までも、遠隔地からこの国にはない流行り病が持ち込まれたみたいだしな。」


 そう言ってタロウは教えてくれたんだ。

 タロウの故郷でも、大昔に大航海時代って呼ばれる人の交易が一気に拡大した時期があったそうなの。

 その人の流れに乗って、一地方の病気だった『天然痘』や『梅毒』といった質の悪い病気が世界中に蔓延したらしいよ。


「アルト、タロウの言う事は本当なの?」


 タロウの故郷はこの辺りとは大分違うみたいなので、念のためアルトに確認を取ると。


「まあ、タロウにしてはまともな事を言ってるわね。

 古来から旅人が病を運んで来るとは言われているわ。

 それは、別に港町に限った話ではないの。

 この国の辺境で発生した『黒死病』だってそうよ。

 隔離しないで人の往来を放っておけば、国中に広まったでしょうね。

 港町が常にその危険性を孕んでるのは、タロウの指摘通りだと思う。

 気候風土の異なる遠方との交易が盛んだから、どんな病が入り込んでくることやら。」


 『風呂屋』は、密閉空間とか、濃厚接触とか以前の問題だって。

 長い船旅を終えた船乗り達が、溜まった欲望を吐き出すために大挙して訪れるらしくて。

 港町の泡姫さん達は、気候風土の異なる地から来た人との接触機会が飛び抜けて多くなるそうなの。

 それだけ、この国には無い流行り病を貰う危険性が高いし。

 更には、それを他のお客さん(この国の男達)に移す危険性も高くなるそうだよ。


「少なくとも、『ひまわり会』が経営する風呂屋が(たち)の悪い病の感染源になりたくはないからな。

 なあ、頼むよ、『妖精の泉』の水をうちの風呂屋で使わせてくれよ。」


 タロウは、お客さん全員に『泉の水』を飲ませるつもりらしいの。

 蒸し風呂から出て喉が渇いている時に、何も言わずに差し出せば誰もが普通の水だと思って飲み干すだろうって。

 『泉の水』だと言わなければ、バレやしないって言ってたよ。

 もちろん、泡姫さんにも一緒に飲ませるようにするって言ってた。


「そうね、あの水を殊更に万病に効くと宣伝しなければ良いわ。

 病気予防のために、コッソリ飲ませると言うのならね。」


 結局、アルトはタロウの願いを聞き入れ、風呂屋で泉の水を利用することを認めてくれたよ。

 『妖精の泉』の水だとは知らせないないこと、万病に効くとも知らせないことを条件にね。


「ねえ、アルト、タロウの風呂屋の話は良いとして。

 この国に流行り病が持ち込まれるのは困るよ。

 おいらも一つお願いがあるんだけど。」


 おいらは、タロウに便乗して一つお願いをしてみたんだ。


      **********


 そして、数日後。


「ようこそ、ウエニアール国の王都ポルトゥスに。

 ポルトゥスは、武器一切の持ち込みが禁止になっています。

 持ち物検査を致しますので、こちらの列にお並びください。

 ポルトゥスの治安向上にご協力ください。」


 ポルトゥスの港の入り口、街との境にフェンスと検問を設けたよ。

 それまで町と繁華街を自由に行き来できたのだけど、検問を通らないといけないようにしたんだ。

 表向きは、剣、その他の武器の持ち込みを禁止するためだけど…。


 スムーズに運用できるかと、おいらが検問の様子を視察していると。


「長い航海お疲れさまでした。

 持ち物検査に少々お時間が掛かりますのでこちらでお待ちください。

 これ、汲み立ての真水です、よろしかったらお飲みください。」


 検問の運営を委託した『ひまわり会』のお姉さんが、列に付いた船乗りさんを順番待ちの席に誘導してた。

 船乗りさんが席に着くとすかさず、お姉さんは飲み水の入ったカップを手渡したんだ。


「おっ、気が利くね。

 今まで無かった持ち物検査をするなんて言われて、少し腹が立ったんだけど。

 キレイな姉ちゃんに、貴重な真水をタダで振る舞ってもらえるんじゃ文句も言えねえや。

 こりゃ、本当に美味い水だな。

 体の芯まで染み渡って、体調の悪いところが癒されるようだぜ。」


 うん、その水、実際に体の不調を治しているから。

 そう、これがアルトにお願いしたことなの。


 宰相にも確認したんだけど、やっぱり王都では原因不明の流行り病が起こる事があるんだって。

 そんなに頻繁じゃないようだけど。

 船乗りが持ち込んだんじゃないかという噂はあるけど、確たる証拠は掴め無いんだと宰相は言ってた。


 それで、おいら、思い切って港からこの国に入る全員に『妖精の泉』の水を飲ませてしまうことにしたんだ。

 検問の待ち時間に飲み水を無料で配れば、誰しも要らないとは言わないと思ってね。


 何と言っても、真水が貴重なこの町では、住民以外は飲み水もお金を出して買っているからね。

 王都の住民が飲み水を汲む井戸は、余所者が入れないような場所にあって、囲いまであるんだから。 


 国に入る余所者に『妖精の泉』の水を飲ませる事で病気が侵入するのを防ごうって狙いなの。


 その役割を『ひまわり会』のきれいなお姉さんにお願いしたのも良かったんだろうね。

 おいらが見た限りでは、何のトラブルもなく、滑り出しは順調のようだったよ。

お読み頂き有り難うございます。

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