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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十三章 女の子には何かと準備も必要だよ
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第315話 スフレ姉ちゃんの受難

 その日、アルトと一緒に辺境の町にある騎士団の詰め所を訪ねると。

 ペンネ姉ちゃんが、駐屯所長の席で何やら書き物をしていたよ。

 今はローテーションで、ペンネ姉ちゃんがこの町に駐屯する騎士のリーダーをしているみたい。

 

「いらっしゃい、アルト様、マロンちゃん。

 今日は、如何なされましたか?」


「今は、ペンネが責任者だったの。

 それなら、話は早いわ。

 ちょっと、これ読んでもらえるかしら。」


 アルトは、ペンネ姉ちゃんに一通の封筒を手渡したの。

 ペンネ姉ちゃんは、騎士の姉ちゃんの中で一番アルトと仲が良いんだ。

 これから頼みごとをするのに、丁度良いと思ったんだね。 


「あら、これはライム様からのお手紙ですか。

 どれどれ、…。

 えっ、マロンちゃん、王様になっちゃったの?

 ふむ、ふむ、…。わかりました。」


 途中、おいらが女王になったと知り驚いたペンネ姉ちゃんだけど。

 ライム姉ちゃんに書いてもらった手紙を最後まで読み終えると、納得したように頷いたの。


 そして、机の上のハンドベルを鳴らすと。


「誰か、スフレを呼んでもらえるかしら。」


 やって来た騎士に指示したんだ。

 待つことしばし、部屋に入って来たスフレ姉ちゃんは…。


「ペンネ隊長、お呼びでしょうか?

 私、何か、叱られるような事しましたか。

 もしかして、昨日、街の方から差し入れに頂いたお菓子を独りで食べちゃったのがバレましたか。

 それとも、さっき、報告書の作成中に居眠りをしていた件でしょうか。」


 おっかなびっくり、ペンネ姉ちゃんに話しかけたんだ。

 気弱なスフレ姉ちゃんは、駐屯所長の呼出しと聞き、何かを咎められるモノだと戦々恐々としていたみたい。


「誰も、あなたがファンから頂いた差し入れを独り占めしても咎めませんよ。

 ただ、居眠りは感心しませんね、少し気を引き締めなさい。

 それより、あなたに特別な極秘任務を与えます。

 あなたには、これより三ヶ月間、ここに居るマロンちゃんの護衛をして頂きます。」


 ペンネ姉ちゃんは、おいらがウエニアール国の女王になったことを伝えると。

 保安上、おいらが王様になったことはナイショで、任務の内容は他言無用だと言ったんだ。

 三ヶ月間、通常の騎士の仕事はしないで良いから、おいらの護衛に専念するようにと。


 実は、おいらの護衛というのは建前なんだけどね。


「えっ、マロンちゃんが王様ですか?

 王様って? あの王様?」


 スフレ姉ちゃんは、極貧生活をしてたおいらが王様になったと聞いても信じられない様子で。

 そんな、要領の得ないセリフをこぼしていたよ。

 あの王様って、他にどんな王様があるっての…。


       **********


 アルトは、戸惑うスフレ姉ちゃんを、おいらと一緒に『積載庫』に乗せると。

 ペンネ姉ちゃんの執務室の窓から、いきなり駐屯所の外へ飛び立ったの。

 向かったのは、おいらの家。


 おいらの部屋に着くと、おいらとスフレ姉ちゃんを『積載庫』から降ろして。

  

「スフレ、良く聞いて、マロンの護衛というのは建前よ。

 あなたには極秘の役割を与えるわ。

 これから話すことは絶対に他言無用よ。

 もし漏らしたら、その命がないものと思いなさい。」


 アルトは、いきなりスフレ姉ちゃんを脅したんだ。


「ふえ、…。

 何なんですか、それ…。」


 アルトに脅されて泣きそうな声を上げるスフレ姉ちゃん。


「マロンがウエニアール国の女王になったことはさっき知ったわね。

 当然、マロンはここを去ることになるの。

 そうなると、マロンが抜けた穴を誰かに塞いでもらわないといけなくてね。

 スフレしか、適任者がいないのよ。」


「はい? マロンちゃんが抜けた穴ですか?」


「そうよ、この領地の特産品、『トレントの木炭』の製造よ。

 今、全体の三分の二を私が、三分の一をマロンが作っているの。

 マロンが作っている分を、スフレにお願いしようと思ってね。」


「でも、私、木炭なんか作ったことがありませんよ。

 作り方も知らないし…。」


「その製造方法が極秘なのよ、ペンネにも言えないね。

 だから、ライムからの指示はマロンの護衛にしてもらったの。

 ライムには、スフレに妖精族の秘伝を教えると言っておいたわ。」


 何の事は無い、スキル『積載庫』の加工能力で勝手にトレント本体を木炭にしてくれるんだけどね。


 スキル『積載庫』は、ゴミスキルの極みと言われるスキル『積載能力増加』が進化したものなの。

 スキル『積載能力増加』が、レベル十になって始めて解禁される能力なんだ。


 ゴミスキルの極みと言われてるだけあって、人族で持っているのはおいらだけじゃないかってアルトは言うの。

 スキル『積載庫』には絶対的なアドバンテージがあるから、他人には秘密にしておくことにしたんだ。

 おいらが、今までこれを話したのは父ちゃんとミンミン姉ちゃんだけ。


 『山の民』はスキル『積載能力増加』の秘密を知っていて、長老を中心に『積載庫』を持ってる人もいるけど。

 やっぱり、人族には秘密にしているとのことなんだ。

 迂闊に知られちゃうと、捕えられて荷物持ちの奴隷にされちゃいそうだから。


 で、スフレ姉ちゃんなんだけど。

 おいらと同様、食べるのにも事欠く貧乏生活をしていたものだから。

 シューティング・ビーンズがドロップする『ゴミスキルの実』を食べて飢えを凌いでいたんだって。

 これも、おいらと同じ。

 だから、所持スキルも二年前のおいらと同じなんだ。


 そして、スフレ姉ちゃんのスキル『積載能力増加』は現在レベル八。

 アルトとの相談で、せっかくだからこれをレベル十まで育てちゃおうってことになったの。

 スフレ姉ちゃんなら、気が弱いから、こうして脅しておけば絶対に秘密を漏らさないだろうからね。


     **********


「それで、私は木炭作りの修行をすれば良いのですか?

 三ヶ月間、どっかに山籠もりでもするのでしょうか。」


 これから『積載庫』の説明をしようと思ってたら、スフレ姉ちゃんはそんな事を尋ねてきたの。

 木炭の産地ってほとんどが山の中なんで、山籠もりをして修行をするものだと思ったみたい。

 

「そんな、無駄な労力は使わないわよ。

 あなたがするのは、これを食べること。

 これから三ヶ月間、私の『特別席』に籠ってひたすらこれを食べ続けてもらうわ。」


 アルトは、そんな言葉と共に姫リンゴに似た『スキルの実』を差し出したの。


「うん? これ、食べたことがあります。

 と言うより、騎士に採用される前はこれを常食にしてました。

 確か、『スキルの実』って言うんでしたっけ?」


「そう、これは、スキル『積載能力増加』の『実』よ。

 レベル十まで上げると、それが『積載庫』と言うスキルに化けるわ。

 あなた達を乗せて来た『妖精の不思議空間』の正体よ。」


 あるとは、ここで初めて『積載庫』の秘密をスフレ姉ちゃんに明かしたの。

 そして、スキル『積載能力増加』がレベル八まで育っているスフレ姉ちゃんがおいらの後釜に適任だって。


「へえ、マロンちゃん、そんな便利なスキルを持っていたんですか。

 確かに、あまり人に知られたくないですよね。

 そんな便利なスキルを持っていると、誘拐されて荷役奴隷にされちゃいそうです。

 で、私はこの『実』を幾つくらい食べれば良いのですか?」


 アルトの説明に納得したスフレ姉ちゃんは、レベル十まで後どれくらいか尋ねてきたの。

 それに対するアルトの返答は残酷で…。


「今、レベル八なんでしょう、そしたら…。

 最大で一万八千個、最小で一万三千個かしら。

 ライムに許可してもらった三ヶ月で達成するためには。

 毎日、百五十個から二百個食べてもらわないといけないわね。」


「えっ…。

 ムリ、ムリ、無理ですよ。

 こんな大きさでも二百個も食べられませんよ。」


 おいらがレベル十にした時はと言えば…。

 三年間、『ゴミスキルの実』を食べ続けて、しかも最初の一年はそればっかり食べていたものね。

 幾ら姫リンゴサイズとは言え、毎日二百個も食べるのは大変かも…。


「泣き言をいわないの。

 平気よ、他の仕事はしなくて良いから。

 居心地の良い部屋で、寛ぎながら日がな一日食べ続けていれば良いわ。

 気分転換に毎日、適当な時間に外に出してあげるし、運動もさせてあげる。

 それに、マロンは明日からシタニアール国へ行くから。

 あなたも連れて行ってあげるわよ。

 旅行気分で、景色でも楽しみながら食べ続けなさい。」


 必死に無理だと訴えるスフレ姉ちゃんに、アルトは無情だったよ…。


 こうして、スフレ姉ちゃんにとって試練の三ヶ月が始まったんだ。

 ゴメンね、おいらのしわ寄せが行っちゃって。

お読み頂き有り難うございます。

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