第280話 血生臭い一族だな、まったく…
「セーナン、おまえ、王族だったのか!」
セーナン兄ちゃんの身の上を聞いて、タロウが驚嘆してたよ。
すると…。
「いや、それが、ややこしいことになってるでござる。
この国の法、書面上では拙者が親父殿に次いで王位継承権第二位なのでござるが…。
拙者、この通り隠し子でござるゆえ、民は拙者の存在を知らぬでござる。
世間一般では、先程刺客を差し向けて来た弟が次々代の王と認識されているござるよ。」
「何だ、そりゃ? 訳わかんねえぞ。」
「それも、これも、浅学で浅慮な親父殿が場当たり的に行動したせいでござる。
拙者、王になりたいなどと一つも思ってないのに、迷惑な話でござるよ。」
セーナン兄ちゃんの父親だと言う今の王太子、名前をセーヒと言うそうなんだけど。
セーヒは子供の頃から貴族の間では、手の付けられない乱暴者と評判だったらしいよ。
貴族の素養として身に付けないといけない法や政を学ぶのが大嫌いだったようでね。
家庭教師を打ちのめしては、家を抜け出して街を練り歩いていたらしいの。
セーナン兄ちゃんのお母さんに目を付けた時も、家を抜け出して演劇を見てたらしいよ。
セーヒが言い寄っても、お母さんは夫と子供がいると言って断ったらしいけど。
逆上したセーヒは、お母さんの家に剥き身の剣を携えて押し掛けてきたんだって。
そのまま、旦那さんと子供を惨殺して、セーナン兄ちゃんのお母さんを手に入れたそうなの。
セーヒは、後先考えないで行動するタイプだからね。
セーナン兄ちゃんのお母さんを手に入れてから、ハッと我に返ったらしいの。
やってしまってから気付いたみたいだよ。
人妻を手に入れるためにその旦那と子供を惨殺したなんて醜聞もいいところだとね。
何よりも、家の名に泥を塗ったとセーヒの父親から叱責されるのを恐れたんだって。
セーヒの父親は言うまでもなく今の国王で、当時は騎士団長だったみたい。
名門キーン伯爵家の当主で、名前はヒーナル・ド・キーンだそうだよ。
更に、セーナン兄ちゃんのお母さんのことを、当主ヒーナルから嫁とは認めてもらえないのではと危惧したらしいの。
キーン伯爵家は代々騎士団長を輩出している名門の家柄で、奪った人妻は平民だものね。
そこで、何事にも浅慮なセーヒは取り巻きの悪共に証拠隠滅を指示すると。
この屋敷を手に入れ、セーナン兄ちゃんのお母さんを監禁したんだって。
それからセーヒは、既成事実を作るために王宮へ行ったそうだよ。
貴族籍の管理をしている部署で、セーナン兄ちゃんのお母さんを正室として届け出たらしいの。
その際、役人に内密にするようにと命じたらしいよ。
特に父ヒーナルの知るところになったらその役人を殺すと脅してね。
セーヒは、セーナン兄ちゃんのお母さんを溺愛していて是が非でも自分の正室にしたかったらしいの。
当時、セーヒは平気で人殺しをするアブナイ人間だと評判だったんで、その役人は必死で首を縦に振ったらしいよ。
で、その約一年後、セーナン兄ちゃんが生まれた訳だけど、律儀に王宮に届けを出していたそうなの。
嫡出の長男としてね。
この時も、勝手な事をしたことが当主ヒーナルにバレないように、役人を脅して口を噤ませたそうだよ。
そんなの貴族名簿を調べられたら一発でバレそうな気がするけど、意外と長いこと隠し通せたんだって。
貴族名簿ってのは、王宮に原簿があるだけで各貴族の家に写しがある訳じゃないんだって。
だから、届け出さえ受理されてしまえば、後は気にしない人が多いみたい。
閲覧は出来るらしいけど、自分の家の名簿がどうなっているかをわざわざ見る人もいないみたい。
セーナン兄ちゃんが生まれた翌年、父セーヒは当主ヒーナルが決めた有力貴族の娘と結婚したそうなの。
当主ヒーナルは当然、その奥さんが正室だと考えていたし、豪華なパーティを催して盛大にお披露目したそうだよ。
ここでも、セーヒはこっそり細工してその奥さんを側室として届け出ていたみたい。…姑息なことするね。
この結婚、あからさまな政略結婚で、さして美人でもない奥さんにセーヒは不満だったみたい。
その後も当主ヒーナルの目を盗んではちょくちょくセーナン兄ちゃんの住む家に入り浸ってたみたいだよ。
世間的には絵に描いたような人間のクズだけど、セーヒはセーナン兄ちゃんにはベタ甘らしいよ。
溺愛する女性との間に出来た子供なので、愛されているのだろうとセーナン兄ちゃんは言ってた。
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この屋敷に閉じ込められながらも、生活には何不自由なく平穏な暮らしを送って来たセーナン兄ちゃんだけど。
風向きが変わったのは、つい最近のことらしいの。
四つ年下の腹違いの弟セーオンが十五歳となり、成人を迎えたそうなんだ。
「この国の貴族は、十五歳の誕生日を成人した記念の日として盛大に祝う習わしとなっているでござる。
国王ヒーナルは、セーオンが成人を迎えたことを盛大に祝うと共に。
王位継承権第二位の者として、次々代の王と民に広く知らしめようとしたでござる
そこに、貴族籍の管理をする役人から待ったが掛かったでござる。
セーオンの成人に向けて貴族名簿の確認をしていて、お袋と拙者の存在が発覚したでござるよ。
そして、セーオンの継承権が二位で無いことも。」
父セーヒは場当たり的な対応で小手先の誤魔化しを続けていたけど、とうとう誤魔化しきれなくなったみたい。
国王ヒーナルは烈火の如く怒ったらしいけど、セーヒは居直ったらしいの。
自分の正妃はあくまで、セーナン兄ちゃんのお母さんだし、世継ぎはセーナン兄ちゃんにすると宣言したみたい。
予想通りヒーナルは、平民生まれのセーナン兄ちゃんのお母さんを正妃とは認めないと言ったそうなんだけど。
王太子のセーヒは、頑として折れなかったようなの。
このことが発覚する頃には、セーヒは王太子として立場を固め、自分独自の派閥を持っていたんで父王に屈しなかったらしいの。
その派閥と言うのも、人妻を奪うために夫と子供を惨殺するような人間を担ぐ人達だから推して知るべしで。
汚れ仕事上等の連中ばかりだということで、国王ヒーナルも迂闊にセーヒを刺激することが出来なかったみたい。
それともう一つ、どんな人間かも定かでないセーナン兄ちゃんを王継にと推す貴族が意外と多いらしいんだ。
それは、セーナン兄ちゃんが良いという訳では決してなく、どんなうつけでもセーオンよりはましだろうと思われたからだって。
「拙者の命を狙っている弟セーオンは爺殿や親父殿に似て人の命を平気で奪える人間でござるし。
セーオンが十三の時に、自分が王位に就くために年子の実兄を葬ったでござるから。
そんな殺人鬼が王になるよりは、拙者の方がなんぼかマシと思われても不思議ではないでござる。
お袋が平民で有力な後ろ盾が無いのも好都合なのでござろうな。」
セーオンには、一つ年上の兄がいたらしく、幼少の時から兄の方は次々代の当主として優遇されていたらしいの。
何事にも『俺様』な性格をしているセーオンは僅か一歳の差で、自分よりチヤホヤされる兄が気に入らなかったみたいだよ。
幼少の頃から何かにつけて、セーオンは兄に突っかかっていたそうなの。
成長するにつれ、セーオンは自分の兄が次々代の王になると言うことを理解するようになったみたいで。
自分は兄の臣下になるのだと分かった時、『俺様』のセーオンにはそれが我慢できなかったそうなの。
それで、兄が十四歳となり、成人するまで後一年となった時のこと。
このままでは兄が次々代の王となる事が既定路線となってしまうと、セーオンは焦ったのではないかとのことだけど…。
ある日、食事中に兄が急に苦しみ出し、血を吐いて倒れたそうなんだ。
それまで元気だった兄が急に悶え苦しむのを見て、一緒に食事を摂っていた家族が動揺したらしいけど。
一人、平静を保っていたセーオンがやおら剣を持って厨房へ駆けこむと。
「この薄汚い反逆者め!
次々代の王を亡き者にしようとは、断じて赦さぬぞ!」
そう叫ぶやいなや、厨房の料理長を問答無用で斬り捨てたそうだよ。
その時、料理長が最後に発した言葉が…、「約束が違うじゃないか!」なんだって。
このやり取りは、厨房のスタッフがみんな聞いていて、瞬く間に巷に広まったらしい。
ちなみに、どんな結末になったかと言うと、兄は悶え苦しんだまま息を引き取り。
公式には料理長が犯人とされ、王族を弑した罪で一族郎党が死罪になったらしいの。
巷では、料理長がセーオンに脅されて兄を毒殺し、口封じのために料理長一家が皆殺しにされたと噂されているそうだよ。
そもそもおかしいのが、なんでセーオンが家族そろっての食事の席に剣を持ち込んでいたかと言うこと。
普段から、剥き身の剣を持ってごはんを食べる家族なんかあったらイヤだよね。
それと、一切の尋問もせずに料理長を犯人と決めつけてその場で斬り捨ててしまったことも異常だよね。
普通なら背後関係が無いか尋問するはずだし、官憲に身柄を押さえられる前に口封じしたとしか思えないよね。
でも、相手は『俺様』のセーオンだからね、誰もが飛び火を恐れてそれ以上は突っ込まなかったみたいだよ。
と同時に、国内の貴族達は、セーオンのようなならず者を国王にしたら国が亡ぶと危機感を覚えたそうなんだ。
そんな時に、発覚したセーナン兄ちゃんの存在は渡りに船だったみたい。
そんな訳で、王宮内は次々代の王を巡ってセーオンを推す国王派とセーナンを推す王太子派が対立しているようで。
次々代の王をどうするかの結論は、先送りされているそうなんだ。
「王位を手に入れるために、血の繋がった兄を殺すような気の狂った男でござる。
次々代の玉座を手にしたと悦に入っていたところに水を差されたのでござるから。
さぞかし、腸が煮えくり返る思いをした事でござろうな。
しかも、相手が、どこの馬の骨とも分らない平民の子だと言うのでござるから。
いつか、襲ってくると思っていたでござるよ。
これからは、屋敷をこっそり抜け出すことも出来ないでござる。」
そう言って、セーナン兄ちゃんはため息を吐いていたよ。
まあ、襲撃者は、「汚らわしい不義の息子、死にさらせ!」って叫んで斬り掛かって来たからね。
セーナン兄ちゃんの存在は民には知られて無いようだし、十中八九、襲撃はセーオンの仕業だよ。
お読み頂き有り難うございます。




