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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十章 続・ハテノ男爵領再興記
200/848

第200話 この町が気に入ったらしいよ

 ノーム爺を冒険者ギルドに連れて行った翌日。

 おいらは、シフォン姉ちゃんと一緒に『STD四十八』の興行の集金係をしていたの。


 すると、そこにノーム爺がやって来たんだ。

 何か、ツヤツヤの顔で、いやに活き活きとした雰囲気を漂わせてね。


「よう、マロン嬢ちゃん、昨日は世話になったな。

 おかげで、懐が温かだってもんでのう。

 『全部のせ』に加えて、オールナイトの贅沢が出来たわい。

 若い泡姫と一晩一緒に過ごしたおかげで、儂まで気分が若返ったわ。

 今日は久しぶりに『森の民』の演奏を堪能させてもらいに来たぞ。」


 どうやら、活き活きしているのは、風呂屋でのんびり保養したおかげみたいだね。

 ノーム爺は風呂屋は人族が考え出したモノの中で最高傑作だって言ってたよ。

 ここの風呂屋も天然温泉らしいし、随分とお気に召したようだね。


 風呂屋って時間制で普通二時間らしいけど、一時間銀貨十枚で延長できるらしいの。

 オールナイトってのは、銀貨百枚で翌日の昼までのんびりできるんだって。

 最初から十時間以上延長するつもりならお得なんだって、宿代も必要なくなるし。


 ついさっきまで、風呂屋でのんびりとお風呂に浸かっていたらしいよ。

 だから、顔がツヤツヤなんだね。


 そんなノーム爺は、おいらの隣にいるシフォン姉ちゃんを見て…。


「おや、風呂屋の泡姫がこんなところで、客引きしておるのか。

 あんたほどの器量なら、こんなところで客引きなんぞせんでも…。

 風呂屋に指名の行列ができるじゃろうて。

 それとも何か、広場で風呂屋の宣伝でもして来いと言われたか。

 あんた、風呂屋には何と言う名前で出ておるのだ。」


 シフォン姉ちゃんの服装を見て、ノーム爺は風呂屋の泡姫さんと勘違いしたみたい。

 たしか、風呂屋の泡姫さんの制服もにっぽん爺がデザインしたと言ってたもんね。

 シフォン姉ちゃんと同じ『きゃんぎゃる』風の服だって。


 今日はシフォン姉ちゃんを指名したいからって、名前を聞いたんだ。

 『全部のせ』とオールナイトを奮発するから、サービスを期待しているとか言ってたよ。


「お爺ちゃん、マロンちゃんの前で何てこと言っているの。

 そんな子供の教育に悪い事言っていると、アルト様に首を絞められちゃうよ。

 それに、あいにくだけど、私、泡姫さんじゃないわ。

 この興行の司会と集金係をしているの。

 これ、司会の制服のなんだ、可愛いでしょう。」


「おお、そうじゃのう、すまん、すまん。

 マロン嬢ちゃんの前でするような話では無かったのう。

 しかし、残念だのう、あんたが泡姫なら毎日でも通うのに…。」


 すまん、すまん、と言いながらノーム爺には全然反省した様子が無いよ。

 まだ、シフォン姉ちゃんに未練たらたらだし…。


       **********


「いやぁ、妖精殿、今日の公演、感服しましたぞ。

 『森の民』の演奏を聞きに来たのじゃが…。

 正直、むさい男の踊りなど見てもつまらんだろうと思っておったのだ。

 だが、どうして、どうして、見事なもんだったのう。

 ありゃ、金を払ってでも見る価値はあったわい。

 それに、あのペンネちゃんは良かったぞ。

 可愛いし、歌も上手かったが。

 あの、見えそうで、見えない、男心をくすぐる衣装が良い!」


 今日の公演が一通り終了して、おいらとシフォン姉ちゃんが集金に回ろうとしてたら。

 最前列で公演を見物していたノーム爺が、おいら達関係者が良いる場所に寄ってきたんだ。


 アルトに向かって、今日の公演を絶賛したノーム爺。

 ジャラジャラと沢山の銀貨を集金箱に入れてくれたよ。

 シフォン姉ちゃんが抱えていた箱に、胸の谷間を凝視しながらね。

 多分、五十枚以上入れてたよ。


「このスケベ爺、本当にぶれないわね…。

 にっぽん爺と気が合いそうだわ。」


 ノーム爺の言動に、アルトは呆れてたよ。

 そんなアルトの態度にはお構いなく、ノーム爺は言ったの。


「儂は、この町が気に入りましたぞ。

 ここに、工房を開いて風呂屋に通おうと、…。

 あ、いや、違った、鍛冶屋をしようと決めましたぞ。」


「はあぁ? それは困るわ。

 昨日約束したでしょう。

 定期的に『トレントの木炭』を買い付けして。

 『山の民』の作った品をこの町に売りに来ると。

 舌の根も乾かないうちに約束を破るつもり。」


 突然、この町に住みつくと宣言したノーム爺。

 アルトはそれに対して、思い切りクレームを付けたんだ。


「いやいや、そう早合点しなさんな。

 誰も約束を破るとは申しておらんだろうが。

 『山の民』の者達も、『トレントの木炭』が手に入らないと困るでの。

 儂が定期的に往復して、『木炭』を持って行って、品物を預かって来ますわい。

 里とこの町のどちらに長く留まるかの違いだけですわ。」


 『山の民』は引き籠り体質で、人の町に出てこようとする人が無いから。

 ノーム爺が、人の町へ行って買い付けをしてこないとみんな困るらしいの。

 それは、『トレントの木炭』の木炭に限らず、生活物資の色々と。

 逆に造ったモノを売らないと、その物資を買うお金が無いしね。


 そんな訳で、ノーム爺は『山の民』の里とこの町を定期的に行き来するんだけど。

 ノーム爺にとっては、どちらで長く過ごすかの違いに過ぎないって。


「でも、良いの、勝手にここに住むなんて決めちゃって?

 あんた、一応、里の長老の一人なんでしょう。

 それに、家族もいるだろうし。」


 昨日の今日でこの町に住むと決めちゃったノーム爺に、アルトの方が心配してたよ。


「儂は、若い頃から人の町への買い付けを任されておってな。

 若い頃に、人の町で風呂屋の味を覚えてしまったら…。

 気の強い里の女と所帯を持つ気になれんでな。

 ずっと、独り身を貫いておるんだ。

 言ったであろう、風呂屋に行くことだけが唯一の楽しみだと。」


 ノーム爺は、定例の長老会にだけ顔を出していれば、人の町に居を移すと言っても誰も文句言わないって。

 奥さんも子供もいない独り身なんで身軽なんだって。


「本当にぶれないスケベ爺ね。

 まあ、良いわ。

 私は、約束さえ守ってもらえるなら文句ないわ。」


 アルトはため息交じりにそう言って、ノーム爺がこの町に住むことに納得してたよ。


     **********


 『STD四十八』の興行の後片付けを終えて。


「まあ、鍛冶屋の工房が開きたいのですか。

 もちろん、ピッタリの物件がございますよ。

 買取と賃貸、どちらがご希望ですか。

 私としては、買い取って頂いた方が歩合が良くて助かるのですが。」


 そう言って、目を輝かせているのは役場のお姉ちゃん。


 おいらは、ノーム爺を案内して役場のお姉ちゃんのところにやって来たの。

 ノーム爺はこの町に工房を開くと言ってるけど。

 肝心の工房の建物を何処で買ったり、借りたりすれば良いか分からなかったんで。

 取り敢えず鉱山住宅の売り買いをしている役場に相談しに来てみたんだ。


 ノーム爺が鍛冶屋の工房を開きたいと言ったら、返って来たのがさっきのセリフだったの。

 この役場、扱っているのは領主が持っている土地建物全般で、別に鉱山住宅だけって訳ではないらしいの。


 ただ、寂れた辺境の町で新たに商売を始めようとする人が少ないのに持って来て。

 街中の目ぼしい物件は、にっぽん爺に買い占められちゃったもんだから。

 残っているのは、町外れの工房用の土地建物が中心でほとんど欲しい人がいないんだって。


 鉱山住宅以外の物件に買い手や借り手が付くと、完全歩合制給金のお姉ちゃんに特別ボーナスが付くんだって。

 買取の方がその金額が大きいらしくて、役場のお姉ちゃんてば鼻息を荒くして買い取りを勧めていたよ。


「何だ、この巨大な工房は…。

 しかも、設備は粗方揃っていて、今でも十分使えそうじゃないか。

 これも全部込みで、銀貨三千枚で良いのか?

 月々の家賃の間違いじゃないのか?」


 役場のお姉ちゃんは、実際に物件を確認してもらうため、町外れの工房用の物件に案内してくれたんだ。

 それが、とんでもなく大きな建物だったんでノーム爺はビックリしてたよ。

 ちなみに、銀貨三千枚と言うのは買取の値段ね。


「ええ、ハッキリ言ってこれお荷物なんです。

 取り壊すのにも、えらいお金が掛かるんで。

 仕方なく、領主様はこの建物の手入れを続けているそうなんです。

 その維持費たるや、取り壊すのとどっちが安上がりかと言うモノらしくて…。」


 役場のお姉ちゃんは、前の領主からとにかく買い手がいたら逃すなと命じられていたそうなの。

 領主がライム姉ちゃんに代わってからも、それは変わらないみたい。

 この工房、元々ダイヤモンド鉱山で使う道具を作っていた鍛冶工房で設備も立派なんだって。

 その分、撤去するにも大金が掛かってしまうため、最低限のメンテを続けて来たそうなんだ。

 使えるようにしておけば、買い手なり、借り手なりが付くかも知れないって。


「よし、買った!

 これから、ここを儂の工房にするぞ。」


 広々とした工房が銀貨三千枚で手に入るのがお気に召したようで、ノーム爺が即決だったよ。

 その日のうちに銀貨三千枚支払っていた。


 こうしてノーム爺は、おいらの住む町に工房を移すことに決めたの。


 それから二日間、『STD四十八』の興行が続く間は、見物のためにノーム爺は町に留まったんだ。

 もちろん滞在したのは風呂屋だよ、オールナイトを二日続けて風呂屋を宿屋代わりに使ったの。

 アルトが、いい歳して良くやるわって呆れてたよ。


 おいら達と出会ってから四日目。

 顔をテカらしたノーム爺は、里に『トレントの木炭』の木炭を届けるべく、一旦町を後にしたんだ。

お読み頂き有り難うございます。

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