第198話 こんなの露店じゃ売れないよね、普通は…
おいらが、買い取った剣を眺めていると…。
「おお、嬢ちゃん、凄い剣を持っているじゃないか。
鍛冶屋の露店なんて、珍しいな。」
見知らぬおっちゃんがそう言って、ノーム爺が広げた露店をつらつらと眺めたの。
そして、…。
「うおっ、何だこの値段は!
これは、露店で売るモノの値段じゃないな。
どれも高くて手が出ねえや。」
並べられた品物についた値札を見て驚いてたよ。
うん、うん、わかる、その気持ち。
銀貨千枚なんて品物、露店で売るモノじゃないよね。
その後も、ずらりと剣を並べている珍しさも手伝って、露店を見ていく人は多かったけど。
値札を見るとみんな退散しちゃった。
結局売れたのは、おいらが買った剣と包丁の二つだけ。
…って、買ったのおいらだけじゃん。
「こんな、片田舎で銀貨四十枚もする鍋釜が売れる訳ないじゃない。
この町の金物屋に行くと、銀貨数枚で買える安物しか売っていないわよ。
そんなの使うのは、道具に拘る料理人くらいよ。
王都辺りにいる貴族に仕える料理人とかね。」
アルトはノーム爺の並べた品物を見ながら呆れていたよ。
「仕方ないわね。
木炭を沢山買ってくれるそうだから、少し相談に乗ってあげるわ。
ついてらっしゃい。」
全然売れなくてガッカリしているノーム爺に、アルトはそんな声を掛けたんだ。
それで、やって来たのはおいらの家。
タロウは、シフォン姉ちゃんにカモを捌いてもらうと言って帰っちゃった。
おいらの家に入ると、アルトはノーム爺に売り物を全部出させたの。
「マロン、まずは、あなたが欲しいモノを買ってしまいなさい。」
アルトは、おいらにお値打ち品を買ってしまうように勧めたんだ。
本当は、露店で買うつもりだったんだけど、…。
剣を買うのに銀貨千枚出したら周りがざわついちゃったんで、後は止めておいたの。
八歳のおいらが、何千枚もの銀貨を持っていると狙われるもとになるし。
そもそも、何千枚もの銀貨と言えば、木箱に入れて馬車で運ぶものだもの。
とうてい、人が持ち運べる重さじゃないからね。
おいらが、『積載庫』を持っていることが周りにバレちゃう。
アルトもそれに気付いたようで、ノーム爺をおいらの家に連れてきたんだね。
おいらは、さっき、アルトに指示された逸品で格安と言われるモノを買うことにしたんだ。
剣を中心に十点ほど、全部で銀貨五千枚を切るくらいになったよ。
おいらが、『積載庫』から銀貨を取り出して、その品を買い取ると言うと。
「こりゃ、ビックリだ。
人族で『積載庫』持ちがいるとは思わなんだ。
五千枚もの銀貨をホイホイ出せるのも驚きだが。
嬢ちゃん、徒者じゃないな。」
銀貨を受け取りながら、ノーム爺は心底驚いたという顔をしていたよ。
そんな、ノーム爺に対して。
「マロンはごく普通の女の子よ。
ただ、偶然、『積載庫』の秘密に辿り着いただけのね。
言うまでも無いけど、このことはナイショよ。
もし、他言したら、死ぬほど酷い目に遭わせるからね。」
おいらが『積載庫』持ちだと言うことを漏らさないように、アルトは釘を刺したんだ。
「分かってるって。
儂ら『山の民』も『積載庫』のことを人族に漏らすのはご法度だからな。
人前では絶対に口にしないわな。」
戦好きの人族が積載庫なんか持ったらロクなことが無いと、ノーム爺は言ってたけど。
『山の民』の人達は、人族に積載庫の秘密を気付かせないようにしているんだって。
でも、『山の民秘伝の蔵』だなんて言って、人前で使って見せちゃうと拙いんじゃない。
『山の民』を捕まえて、荷物持ちとして酷使しようとする輩が出て来そうだよ。
おいらが、そんな疑問を口にすると。
「儂ら、『山の民』が人族なんぞに後れを取りはせんわ。
伊達に、山の中に暮らしておる訳ではないんだぞ。」
『山の民』は鉄を掘ったり、鍛えたりするのを生業としているんで体の鍛え方が違うって。
それに、長老のほとんどは『積載庫』持ちで、『生命の欠片』の結晶化が出来るから。
里の者全員に幼少の頃から、少しづつ平等に『生命の欠片』を分け与えているそうなの。
里の人々は全員が小さな頃からレベル持ちなんだって。
更に、山の中は人族の町と違って魔物と遭遇することも多くて、みんなそこそこのレベルに上がるらしいよ。
『積載庫』を持っているのはけっこう年齢が上の人が多いから、レベルもそこそこ高いらしいの。
その辺にいるゴロツキ冒険者なんかじゃ手も足も出ないって。
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その後、おいらが買わなかった品の中からアルトが数点目ぼしいモノを買ってたんだ。
銀貨二千枚分くらい。
「それで、トレントの木炭はどのくらい欲しいの。
幾らでも売ってあげるわよ。
この大きさの袋で、一袋銀貨千三百枚。
これは、領都でも同じ値段よ。
トレントの木炭を作っているのは、私とマロンの二人だけだから。」
そう言って、アルトは木炭を詰めた大きな布袋をデンっとノーム爺の前に出したの。
「ねえ、アルト。
トレントの木炭の販売は、必ずライム姉ちゃんを通すんじゃないの。
ライム姉ちゃんを支援するために。」
おいらは、そう思ったから手持ちの木炭を少しだけしか売らないつもりだったんだけど。
「もちろんそうするわ。
このスケベ爺に対する木炭の販売もそうするつもりよ。
でも、杓子定規に領都まで行ってもらう必要も無いわ。
ここから二日も掛けて領都へ買い付けに行くのも大変だからね。
ここで売って、三割をライムに渡せば済む話でしょう。
もし、今後も『山の民』が定期的に買い付けに来るようなら。
ライムに伝えて、この町に支店を出してもらいましょう。」
トレントの木炭に関して売上げの三割をライム姉ちゃんの取り分にするってアルトは宣言しているんだ。
だから、三割をライム姉ちゃんに渡しさえすれば、ここで売っちゃっても問題ないだろうって。
おいら達がそんな話をしている間、ノーム爺は目の前に置かれたトレントの木炭を吟味していたの。
「こいつは凄えや! 最上級品じゃねえか。
これが一袋銀貨千三百枚? それが幾らでも買えるって?
それは、有り難てぇや。
とは言うものの…。
儂は今、あんたらが買ってくれた銀貨八千枚しか手持ちが無くてな…。
たった、六袋しか買えねえ…。
せっかく十日も掛けてここまで来たと言うに…。」
ノーム爺はそう言って、恨めしそうに売れ残りの山を見ていたんだ。
「安心しなさい。
この品、全部捌けるようにしてあげるわ。
私に任せておきなさい。」
アルトは自信満々に言ったの。
何処か、売り先にアテがあるみたい。
お読み頂き有り難うございます。




