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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十章 続・ハテノ男爵領再興記
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第196話 装備もレベルアップしたよ!

「ところで爺さん、まだ名前も聞いてなかったな。

 俺はタロウ、こっちの子供はマロンだ。」


「おお、そうじゃったのう。

 案内をしてもらうのに名乗ってもおらなんだ。

 儂はノームと言う。

 南に見える山脈の奥深くにある里の長老の一人で。

 買い付けの担当をしておる。」


 ノーム爺の話だと、『山の民』の里は幾重にも重なる南の山脈の奥の方にあって。

 人族の国では『シタニアール国』の領域内になるそうだよ。

 ノーム爺は、里で必要とする物資を人里から買い付ける役割を一手に引き受けているんだって。

 『山の民』の人達は、皆職人気質で工房に籠ってモノばかり作ってて、人里に出たがらないそうだよ。

 かと言って、獣道みたいな道しか通っていない里に行商人が来てくれる訳もなく。

 長老の中で一番若いノーム爺にお鉢が回ってきたんだって。


 ノーム爺も、本当は工房へ引き籠っていたいらしいけど、…。

 人の町で風呂屋に行くことだけを励みに、自分を叱咤して山を降りて来るんだって。


「本来なら、この辺りまでなら五日で来れるはずなのに。

 金剛石の鉱山が魔物の巣になっちまったもんだから。

 ぐるっと迂回するハメになって十日も掛かっちまった。」


 普段なら、シタニアール国の町に買い付けに行くらしいけど。

 前回、町に買い付けに出た時に耳にしたそうなんだ。

 ハテノ男爵領の町へ行けばトレントの木炭が幾らでも買えるとの噂を。

 

 『山の民』は鍛冶だけじゃなくてモノ作り全般が得意なんだって。

 炭焼きも得意らしいけど、今の里の近くにトレントの生息地が無いのもさることながら。

 『山の民』の小さな体躯では、トレントを狩るのは大変らしいの。

 トレントの木炭は人の町で買うしかないんだって。

 

 鍛冶を生業とする『山の民』の人々にとってトレントの木炭は垂涎の的らしくて。

 幾らでも手に入るとの噂を聞き付けて早速やって来たみたいだよ。


「ふーん、でも爺さんよ。

 木炭なんて嵩張るモノ、その身一つじゃ大した量も持って帰れねえだろう。

 王都から買い付けに来る鍛冶屋なんて、荷馬車を何台も仕立てて買いに来ているぜ。

 十日も掛けて出て来て、担いで帰るだけじゃもったいなくないか?」


 ノーム爺の話を聞いていて、タロウはもっともな疑問を口にしたんだ。


「おお、そうじゃのう。

 人族は、持っておらんのだったな。

 儂ら『山の民』には、秘伝の蔵を持っている者がおるのだ。

 何処にあるか知らんが、幾らでもしまって置ける蔵でな。

 何処にいても自由に出し入れできるのだよ。

 儂も、蔵を持っている者の一人だ。」


 どうやら、ノーム爺も『積載庫』を持ってるみたい。

 人間が『積載庫』のスキルのことを知らないから、ナイショにしておくつもりなんだね。

 アルトの『妖精の不思議空間』と一緒で、煙に巻くつもりなんだ。


「なんだ、爺さんもアルトと同じチート持ちかよ。

 ラノベでよくある時空収納を持ってるなんて羨ましいぜ。」


 タロウは、またブツクサとこぼしているけど、凄く羨ましいそうだったよ。


「そんな訳だから、良い木炭があればいくらでも買って帰るつもりなのだ。

 売り物もたんまり持って来たしな。」


 行商人も来ない山の中で暮らしている『山の民』が人族のお金をそんなに持っている訳もなく。

 買い付けに行く時は、必ず里から売り物にするモノを持ってくるんだって。

 剣や槍のような武具から、鍋釜、包丁なんかの炊事用品まで。

 買い付けと言っても、売り買い両方するんだね。


 『山の民』の製品は、どれもみな一級品なんで高く売れるそうだよ。

 じゃあ、尚更、領都へ行ってもらわないとね。

 おいら達が住んでいる過疎の町じゃ、そんな高い物が沢山売れる訳ないもんね。


       **********


 ノーム爺を連れて町へ帰ってくると。


「なんじゃ、この人だかりはお祭りでもやっているのか?」


 町の広場に差し掛かると、広場の人通りを見てノーム爺はビックリしてたよ。


 『STD四十八』の興行がある時は、ギルドが運行する駅馬車が近くの町や村から見物人を連れて来るからね。

 宿屋を利用してもらうために、前日に着くように連れて来て、興行の翌日の朝に出発するの。

 ちゃっかりしてるよね。

 でも、そのおかげで町は前日から大賑わいで、屋台も前日から出ているんだ。

 ノーム爺がお祭りかと思うのも無理ないね。


「明日から『STD四十八』の興行があるからね。

 他所の町や村から見物人が来ているんだよ。

 四十八人で披露する剣舞が到底マネできる物じゃないと評判なんだ。

 それと、伴奏している耳長族のお姉ちゃんがキレイだって。」


 おいらが賑わいの理由を教えてあげると。


「何じゃと、『森の民』の演奏が聴けるじゃと。

 それは、是非とも見物していかないとならんな。」


 ノーム爺は、昔、耳長族の演奏を聞いたことがあるみたいで。

 明日は、興行を見物するつもりのようだよ。


「おっ、この世界ではドワーフとエルフは仲が悪くないは無いのか。」


 ノーム爺が耳長族の演奏に関心があると聞き、またタロウが勝手な事を言ってたよ。

 何で、仲が悪いものだと決めつけているの…。


「うん? ドワーフが儂らのことなら、エルフとは『森の民』のことか?

 何で、仲が悪い必要があるのだ。

 儂ら、『山の民』は酒を飲んで騒ぐのが唯一の楽しみと言っても良いくらいだ。

 『森の民』の演奏は、それにピッタリだぞ。

 『森の民』の里が沢山あった時分には、鍋釜と交換で良く演奏をしに来たもんだ。

 人族のバカ共が『森の民』狩りなんてしたものだからすっかり見なくなってしまったわい。

 何十年かぶりに『森の民』の演奏が聴けるのなら、ここまで出て来た甲斐があったわ。」


 山の中でモノ作りに没頭している『山の民』の唯一の娯楽がお酒を飲むことなんだって。

 「引き籠ってばかりいるから、風呂屋の楽しみも知らんのだ。」とノーム爺が嘆いてたよ。


 まだ、耳長族が沢山いた頃は、耳長族の人達が流しで演奏しに来たんだって。

 その時は、里を上げて歓迎して、飲めや歌えやの大騒ぎだったって。


「まあ、『森の民』の女が良いとほざいて、狩り尽くしおった人族の気が知れんがな。

 あんな細っこくて、『山の民』の女とは逆の意味で乳だか腹だかわからん女の何処が良いのか…。

 女子(おなご)は、出るところが出て、引っ込んでいるとこが引っ込んでる人族が一番だろうが。」


 ノーム爺は耳長族には好意的だけど、耳長族の女の人は好みではないみたい。

 まあ、人の好みはそれぞれだからね。


「そうじゃ。

 こんなに人がいるなら、良い商売ができるかもしれん。

 チョイと露店でも広げて、風呂代でも稼いでおくか。」


 ノーム爺って、本当に自由奔放だね。

 昼間から酒をかっ食らって草原で寝ていたかと思えば、今度はいきなり店を広げるって…。

 ちなみに、この町の広場で露店を広げるのは全くの自由だよ。

 王都みたいにお金を払って場所を借りる必要はないの。

 まあ、領主のライム姉ちゃんも統治を放棄した無法地帯だからね…。


 どんなものを売るのか興味があったんで、そのままノーム爺と一緒にいると。

 ノーム爺は何も無い空間から茣蓙(ござ)を取り出して地面に広げたんだ。

 そこに、次々と鍋や釜、それに包丁なんかを並べていったよ。


「へえー、本当に色々なモノを持って来たんだな。」


 何もない空間から色々なモノを出すノーム爺を、タロウは感心しながら見てたんだ。


 でもね…。

 どれもこれも、無茶苦茶高いの。

 包丁なんか一番安いモノでも銀貨三十枚だって…。

 剣に至っては銀貨百枚からとか言ってるし。

 この辺境で誰がそんなモノを買うのってツッコミたいよ。


 そんな中で、おいらの目に留まった一本の包丁…。

 とってもキレイな刃文で、何故か心が引かれるんだ。

 で、お値段はと言うと…、銀貨百枚。


 おいらの食費が一日約一枚だから、百日分ごはんが食べられるよ…。

 でも、最近アルトのおかげで大分稼がせてもらって、『積載庫』の中にはウン千枚の銀貨が眠っているし…。


「おっちゃん、この包丁ちょうだい。

 はい、銀貨百枚。」


 物欲に負けちゃった…。

 おいらは、腰に下げた物入れ袋から出すふりをして、『積載庫』にあった銀貨百枚を差し出したの。


「おっ、嬢ちゃん、小っちゃいのに金持ちだな。

 それに、その包丁に目を付けるたぁ、大した目利きだ。

 その包丁は儂の作品の中でも自慢の一品なんだ。」


 ノーム爺は、嬉しそうにおいらが差し出した銀貨を受け取ると。

 自分が作った渾身の品だから値引きはしないと言いつつ。


「気分が良いから、オマケにこれをつけてやろう。

 護身用に持っておけば良い。

 その包丁ほどではないが、これもまずまずの出来なんだ。」


 おいらが買ったと包丁と一緒に、護身用の短い剣を渡してくれたの。

 懐剣、いやナイフかな。


 おいらの装備品が『錆びた包丁』から一気にグレードアップしたよ。

お読み頂き有り難うございます。

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