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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第九章【間章】『ゴムの実』奇譚(若き日の追憶)
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第192話 実は不動産王(?)だった…

「こうして、私は嫁と子供を捨てて王都から落ち延びてきたのだよ。

 その時はまだ、四十五歳で十分働けたからのう。

 この町の近くで食べ物や鉱石の採集をしながらのんびり暮らすことにしたのだ。

 なぁに、『ゴムの実』を見つける前に戻っただけだ、別に苦にも思わなかったさ。

 それに、最近はアルトさんのおかげで、贅沢も出来るようになったからの。」


「私のおかげ?

 また、変なことを言うのね。

 私、まだ、大した報酬は支払ってないでしょう?」


 にっぽん爺が自分がこの町に来た経緯を話し終えて、最期にそう言ったんだ。

 アルトは人間のお金なんて持っていないから、稼いだお金を関与した人に分配しちゃう形をとっているの。

 にっぽん爺が協力しているハテノ男爵領騎士団の公演は、まだ始まったばかりなので大した収入は無いんだ。

 当然、にっぽん爺への分配も少ない訳で…。


「違いますよ。

 アルトさんのおかげで、この町に三件も宿屋が出来たでしょう。

 三件とも土地建物は、私のものなのです。

 今まで空き家で全くの不良資産だったのですが。

 冒険者ギルドが借り上げてくれたので、毎月結構な家賃を稼ぐようになりました。」


 王都を出て来る時に、コンカツが餞別にと持たせてくれた多額の銀貨。

 一人暮らしのにっぽん爺は置き場に困ったと言うの。


 町の外に採集に出てると、数日家を留守にすることがある訳で。

 無法地帯のこの町では、あっという間に、空き巣に入られると思ったそうだよ。

 

 『にっぽん』という国には、『ぎんこう』というお金を預かってくれるところがあるそうだけど。

 この国には、そんな便利なもの無いからね。


 にっぽん爺は、採集専門の冒険者として糊口を賄うくらいの稼ぎは出来たんで。

 コンカツからもらったお金の殆どを使って、この町の不動産を買い漁ったんだって。

 いずれ、また、この町が栄えれば借り手なり、買い手が現れるだろうと思って。


 今もそうだけど、この町には空き家がいっぱいあるからね。

 居住用建物だけじゃなく、立派な建物も二束三文で買えたらしいの。

 にっぽん爺は、空き巣に盗まれるくらいならと、塩漬けになるのを覚悟で買ったんだって。

 しっかりした造りで、保存状態の良い建物は手あたり次第買ったらしいよ。 

 何と、にっぽん爺は、この町で領主のライム姉ちゃんに次ぐ大地主なんだって。


 その後二十年、本当に塩漬けになっちゃったけど…。

 『STD四十八』のおかげでこの町が賑やかになって、宿屋屋が必要になったから。

 三件とも大きくて立派な建物なんで、毎月結構な家賃が入ってくるようになったんだって。


「それに、アルトさんが冒険者ギルドをとっちめて。

 堅気に迷惑を掛けるなと釘を刺してくれたでしょう。

 おかげで適正な家賃で借りてくれたし、毎月キチンと支払いもあります。

 従来の冒険者ギルドなら、私を恫喝して物件を二束三文で買い叩くか…。

 若しくは、スズメの涙ほどの家賃しか払わなかったでしょう。

 いえ、土地建物を不法占拠して勝手に宿屋を始めたかもしれません。」


 冒険者ギルドは、にっぽん爺をおいらの関係者だと調べてからやって来たそうで。

 最初から、凄く丁重に宿屋に使う建物を貸して欲しいとお願いしてきたんだって。

 家賃なんかの条件も、はじめから納得できるものを提示したみたいなの。


 採集専門の冒険者を六十前まで続けて蓄えた小金で、細々と生活したしてきたにっぽん爺だけど。

 毎月の家賃が入ってくるようになったので、少しは贅沢が出来るようになったって。


 この間作った『ペンネちゃん親衛隊』のお揃いのハッピは、にっぽん爺が費用を負担したらしいよ。


「あんた、しっかりしているのね…。

 まあ、私のしたことを喜んでくれているのなら良いわ。

 しかし、たった一人の王位継承権保有者が、この色事爺の息子だったなんて…。

 この国、大丈夫かしら。」


 アルトは、にっぽん爺の話を聞いて、そんな感想をもらしていたよ。


 その後、コンカツは律儀にも、王都に残した家族ににっぽん爺の所在を知らせてくれたそうなの。

 この町が辺境なので定期的にとはいかないけど、この町へ向かう行商人に託した便りがあるらしいよ。

 王都に残した三人のお嫁さんから。


 身を寄せていたおばさん達は櫛の歯が欠けたように数を減らしていって、屋敷はすっかり寂しくなったそうだよ。

 でも、三人のお嫁さんと三人の子供達はみんな元気で、子供達は立派な大人になり…。

 にっぽん爺には、もう孫がいるんだって。


 『ゴムの実』の商売は、売り先を薬師に限定されちゃったんで大分小さくなったみたいだけど。

 それでも、屋敷にいる人達が食べていくのには十分な稼ぎになっているらしいよ。

 みんなで仲良く商売を続けているみたい。


 王様は王妃が産んだ子供に王位を継がせるのが嫌で、今でも『ゴムの実』を食べて頑張っているって。

 でも、やっぱり、三人いるお妃様に懐妊の兆しはなく…。

 王位継承権を持つ男児は、王妃が二十年に産んだ黒髪の王子だけなんだって。


 王様は王位を継がせたくないものだから、黒髪の王子をまだ正式には王太子としてないんだって。

 王子が成人したのだから王太子としてお披露目するべきだと、周囲の貴族からせっつかれているみたい。

 もちろん、旗振り役は公爵だよ。

  

 王様は、最近の相次ぐ失態もあって追い詰められているみたいなの。

 

       **********


 ところで、この話、元々はタロウが新しい武器の材料としてゴムが欲しいという話だったよね。

 別に、にっぽん爺の過去を知りたかった訳じゃないんだ…。


「なあ、爺さんが実はすっごい女好きで…。

 若い頃は、趣味と実益を兼ねて大儲けしたのはわかった。

 それで、ゴムなんだかよ…。

 流石に百分の一ミリじゃ、パチンコには使えないんじゃないか。

 そりゃ、『パ』がなけりゃ、使えるかも知れんが…。」


 タロウは目的を見失ってなかったようで、考えている武器には使えないんじゃないかと尋ねたんだ。

 にっぽん爺の話では、『ゴムの実』の『皮』はすっごく薄いと言う話だったものね。


「どうだろうか、おそらく薄いことは関係なかろうと思うが。

 たしかに、そのままでは強度が足りないかも知れんが。

 糸のように撚りをかければ使えそうな気がするのだが。」


 にっぽん爺は手許にあった紙の端っこを千切ると、クルクルと撚りをかけて見せたの。

 『ゴムの実』の皮を、そうやって使ってみればと言うことだね。


 すると…。


「ねえ、ねえ、タロウ君。

 お姉ちゃん、『ゴムの実』ってすっごく興味あるわ!

 売っちゃいけいないという話だけど、野生の実をとるのは問題ないんでしょう。

 ゴムの実、採って来て欲しいな。

 お姉ちゃん、『皮』は使わないから、その武器を作るのに使えば良いでしょう。

 中身だけ、食べさせてくれればいいから。」


 いきなり、シフォン姉ちゃんがタロウに抱き付くようにしてお願いしたの。

 そうすればタロウが断れないのわかってて、おっきな胸の谷間にタロウの腕を埋めるように。 

 タロウってば、単純だから、にやけちゃって、今にも「うん」と言いそうだよ。


「シフォンさんや、そう無茶を言いなさんな。

 『ゴムの実』の自生地は、王都から半日ほど掛かる山中にあるのだ。

 『野外移動速度アップ』のスキルをカンストしている私の足をもってしてもだ。

 ここからだと、歩けば二十日は掛かると思うよ。

 おいそれと行ける場所ではない。

 それに私の案内無しでは、とてもいけまい。

 そして、この老いぼれには、もうあの山の中は歩けんて。」


 自生地は、王都近くの山中だから、気軽に採りにいける場所じゃないみたい。

 王様は今でもにっぽん爺を恨んでいるだろうから、王都の屋敷に行ってこっそり分けてもらう訳にもいかないだろうって。


 ダメじゃん…、採りにいけないんじゃ…。

 あの長い話って、単に、にっぽん爺が思い出話を聞かせたかっただけなんだ…。


「色事爺、あんた、今でもその場所を覚えているの?

 何なら、私が乗せて行ってあげるわよ。

 私、もう、何百年も生きているけど…。

 そんな奇妙奇天烈な果物は見たことないわ。

 私も少し興味があるの。」


 でも、アルトが協力を申し出てくれたの。


 シフォン姉ちゃんもノリノリで連れて行って欲しいとアルトにせがんでた。

 ということで、おいら達は『ゴムの実』の採集に出かけることになったよ。

お読み頂き有り難うございます。

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