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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第九章【間章】『ゴムの実』奇譚(若き日の追憶)
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第183話 諸悪の根源がここにいたよ…。

 にっぽん爺は『ゴムの実』を発見したころから大量生産することを考えていたそうなの。

 そのためのノウハウをにっぽん爺は持っていたんだって。


 でも、『ゴムの実』を発見した当時のにっぽん爺はカツカツな生活をしてたでしょう。

 看板やチラシを作ると、()()()()()()()にも入れなかったと言うくらいだから。

 資金が無くて、大量生産が出来なかったんだって。


 それで、『訪問販売』が軌道に乗って間もない頃、まだ、冒険者に目を付けられる前のことらしいけど。

 にっぽん爺は、思い切って王都に広い屋敷を借りたんだって。

 

 別に、にっぽん爺は贅沢なく暮らしをしたかった訳じゃないよ。

 王都の中じゃないといけないし、高い壁に囲まれた広い屋敷じゃないといけない理由があったんだって。

 何と言っても、高値で売れる『ゴムの実』を大量生産するのだからね。

 容易に強盗に入ることが出来ちゃう町の外の一軒屋ではダメだったの。

 普段から衛兵が巡回しているような、治安の良い街中じゃないといけなかったんだ。

 それに高い壁に囲まれていないと、『ゴムの実』を大量生産しているのが外から見えちゃうからね。

 盗難防止と秘密を守るために、かなり無理をして屋敷を借りたみたい。


 にっぽん爺は言ってた、せっかく稼いだお金が家賃と屋敷の維持に消えちゃったって。

 いっぱい稼いでも、()()()()()()()に行く回数は増やせなかったらしいよ。


「何だい、じいさん、その大量生産ってのは。

 『ゴムの実』ってのは、木に生る実なんだろう。」


「ああ、正確に言うと『ゴムの実』の大量生産ではなく。

 『ゴムの実』が生る木の、『大量栽培』だな。

 私の母は、ガーデニングが趣味でな植物を育てるのが好きだったのだ。

 近所では、『緑の手』の持ち主と言われるくらいの腕前だったのだよ。

 私も幼少の頃から母と一緒にガーデニングをしていてな。

 母から植物の育て方のノウハウは伝授されていたんだ。」


 それに加えて、にっぽん爺は『食物採集能力アップ』のスキルもレベル十まで育ててあるの。

 『食物採集能力アップ』は山野では、果物とかキノコとか、何処へ行けば沢山採れるかが何となくわかるようになるそうだけど。

 他にも、にっぽん爺に『ゴムの実』の在り処を教えたように、虫の知らせみたいなものもあるみたい。

 畑とかで栽培する作物については、どうすれば良く育つかとか、収穫量が増えるかとかが何となくわかるようになるんだって。

 具体的には、陽当りとか、水捌けとかがどんな場所が良いかがわかるとか。


 そんな訳で、にっぽん爺は母親から伝授されたノウハウと、自らのスキルの力を生かして『ゴムの実』の大量生産に挑んだそうなの。

 『ゴムの実』を発見した当初から、『ゴムの木』の若木を取って来て手製のプランターで育てていたんだって。

 借家の狭い庭がプランターでいっぱいになった頃、『ゴムの実』の訪問販売が軌道に乗ったそうで。

 思い切って広い屋敷を借りたそうなの、直接地面に植えるために。


      **********


 借りた屋敷の日当たりの良い中庭に最初の若木を植えてから五年。

 『ゴムの実』の訪問販売は順調に拡大していて、王都でにっぽん爺の存在を知らない人はいないほどだったって。

 その一方で、にっぽん爺が『ゴムの実』を何処で採集としているかは誰も知ることが出来なかったみたい。

 その頃、焦れた冒険者共が、にっぽん爺を尾行するのではなく、捕らえて採集場所へ案内させようと企てたみたいなの。


 何度か街道で待ち伏せされて、行く手を塞がれたそうなんだけど。

 相手が少人数の内は、『野外移動速度アップ』のスキル能力を活かして何とか振り切ったらしいの。

 でも、待ち伏せする人数が増えて、周りをグルっと取り囲まれた時は生きた心地がしなかったって。

 命からがら、囲みを突破して逃げ切ったらしいの。


 そんな感じで、山に『ゴムの実』を採集に行くのが難しくなった頃、最初に植えた木が『ゴムの実』を実らせたそうなんだ。


「『ゴムの実』が生る木はな、ブドウのようなつる性の低木でな。

 大切な『ゴムの実』が万が一にも地面に着いて大切な『皮』に傷や穴が出来ないように棚に仕立てたのだ。

 若木を植えて五年目、棚に這わせたその木から『ゴムの実』がたわわにぶら下がってるのを見て。

 私は感無量だったよ、やっとここまで漕ぎ着けたとな。」


 『ゴムの実』が生る木、にっぽん爺が不思議そうに言っていたけど。

 一年中温暖なこの辺の気候が生育に適しているみたいで、一年中花をつけ、実を生らすんだって。

 この頃のにっぽん爺は、毎日七、八百個の『ゴムの実』を山から採って来て売っていたらしいのだけど。

 中庭での栽培に成功すると、一気に二千個ぐらいの収穫ができるようになったんだって、もちろん毎日。


 今までは、持ち帰ることが出来る数の制約から販売先を絞っていたそうなんだけど。

 『訪問販売』の会員を思い切って増やしたらしいよ。

 それと大口販売先を確保したんだって。


 その大口販売先と言うのは…。


     **********

     

「『ゴムの実』を栽培しようと思いついた時点で、アテはあったのだよ。

 冒険者ギルドの経営する風呂屋。

 当時、私の飲み友達にな、風呂屋で泡姫のスカウトをしている下っ端がいてな。

 泡姫のなり手がいないと、良く愚痴を聞かされていたものだから。」


 にっぽん爺は、この国に来て早々、冒険者に腕を斬り落とされ、冒険者に良い印象を持ってなかったの。

 その元締め的な存在で、悪さばかりしている冒険者ギルドとも距離を取っていたそうなんだけど。

 ある日、飲み屋のカウンターの隣にいたその男が誰に聞かせるともなく、しみじみと呟いたんだって。

 「結婚してぇ…。」と。

 その男の名は、コンカツと言い。

 広域指定冒険者ギルド『アッチカイ』系列の風呂屋で泡姫のスカウトをしてたんだって。


 にっぽん爺は何処かで聞き覚えのある名前を出してきたんだ。


「私は、冒険者ギルドに良い印象を持ってなかったので。

 なるべく関わらないようにしてたのだが…。

 そいつの呟きが、当時の私の心情を代弁しているようで。

 つい、親しみを感じて声を掛けたのだ。」


 声を掛けて見ると、コンカツは結婚して暖かい家庭を築くのが夢だと言ってたんだって。

 でも、風呂屋のスカウトマンなんてうだつの上がらない仕事をしているうえ。

 『若ハゲ』というハンデもあって、嫁のきてがないんだと愚痴ったらしいの。


 当時、知り合いがどんどん結婚していくのを見て、心底羨ましいと思っていたにっぽん爺。

 自分もお嫁さんが欲しいのに、収入も乏しく、隻腕隻眼というハンデを背負っていてその願いが叶わない。

 そんな自分とコンカツがダブって見えたと言うの、同類相憐れむじゃないけど意気投合したんだって。


「コンカツが言うのだ。

 街中で可愛い()に声を掛けても、みんな警戒して話を聞いてくれないと。

 たまに話を聞いてくれても、風呂屋の泡姫の仕事だと聞くと…。

 病気が怖いとか、知らない男の子供を孕むのは嫌だと言って逃げてしまうと。

 スカウトの仕事は歩合制なんで、自分一人食っていくのがやっとだとな。

 まだ、『ゴムの実』を発見する前でな、身につまされる思いだったよ。」


 その時は、『ゴムの実』なんか発見するとは夢にも思っていなかったにっぽん爺。

 何かのヒントになればと、『にっぽん』で聞いた話をしてあげたんだって。


 ホストクラブのイケメンホストが、自分の常連客をソープに沈めて小遣い銭を稼ぐ話。

 イケメンホストが常連客のお姉ちゃんに気のある素振り(そぶり)を見せて高いお酒なんかを注文させるんだって。

 お姉ちゃんがイケメンに入れ込んじゃってお金に困ると、無審査高金利の裏金融を紹介して借金をさせて…。

 借金が払えなくなると、親切に相談に乗るフリをしつつ、因果を含めてソープに連れて行くんだって。

 それで、イケメンホストはソープから紹介料をもらうの。

 田舎から出て来た世間知らずの『おのぼりさん』がハマり易い罠なんだって。

 にっぽん爺も聞いた話だから、どこまで本当だか分らないと言ったらしいのだけど。

 コンカツはその話に飛び付いたらしいよ。


 『ホストクラブ』、『ソープ』、『裏金融』、意味不明の言葉が並んでいたけど。

 タロウは知っているみたいで、ウンウンと頷きながら聞いてたよ。


 とはいえ、コンカツは若ハゲのブサメンなんで自分では無理、そこで頭を働かせたらしいの。

 風呂屋の支配人を説得して、『イケメン酒場』と『闇金融』を作って泡姫の『サプライチェーン(安定的な供給連鎖)』を組んだらしいの。

 『サプライチェーン』なんて、また意味不明の言葉が…。


「おい、爺さん、あれはあんたの入れ知恵かい!

 あんた、紳士面してとんでもない(ワル)だな!」


 タロウもコンカツのセリフを覚えていたようで、にっぽん爺に思いっ切りツッコミを入れてたよ。 


「そう怒りなさんな。私も反省しているのだ。

 飲んだ席での与太話のつもりだったのだよ。

 私の言ったことが出来るのは相当なイケメンだけで、…。

 不細工なコンカツにそんなことできる訳が無いと思ったのだ。

 まさか、自分では出来ないので、組織ぐるみでやってしまうなんて。

 下っ端のコンカツにそんなバイタリティーがあるとは思わなんだ。」


 にっぽん爺は言ってたよ、コンカツはよっぽど結婚したかったんだろうと。

 そのために高収入を得ようと、虚仮の一念で頑張ったんじゃないかって。


 にっぽん爺の出したアイディアが功(?)を奏し、コンカツはメキメキ出世し…。

 にっぽん爺が『ゴムの実』の大量生産に成功した時には、コンカツは風呂屋の支配人になってたんだって。

 でも、若ハゲと言うハンデは克服できなかったみたいだよ…。


 で、相変わらずにっぽん爺とコンカツはカウンターだけの安い酒場で酒を酌み交わしていたらしいの。


「ある日、コンカツがまた愚痴を零していたんだ。

 サプライチェーンがうまく機能して、若くてキレイな泡姫が定期的に入ってくるようになったが。

 若くて、キレイな娘ほど、お客がいっぱいつくが故に。

 早々に、孕んだり、病気になって辞めてしまうってな…。

 その二つを何とか防げれば、もう少し長い間稼がせることが出来るのにって。

 私はこの言葉を待っていたのだ。」


 渡りに船と、にっぽん爺は、コンカツに『ゴムの実』を売り込んだらしいよ。

 元々、『ゴムの実』の大量生産を目論んだ時に『風呂屋』に売り込むことを真っ先に考えていたんだって。

 風呂屋の泡姫の大敵は『病気』と『孕み』、この二つを防げるのだから絶対に需要があると。


 コンカツの方から言って来なければ、にっぽん爺の方から売り込みに行くつもりだったそうなの。

 でも、にっぽん爺から売り込みに行くと足元を見られるかも知れないでしょう。

 反対に、コンカツの方から言い出したなら恩が売れるからね、まさに渡りに船だったみたい。


 話しはとんとん拍子に進んで、にっぽん爺は『アッチカイ』の経営する風呂屋に毎日大量の『ゴムの実』を納めることになったそうだよ。

お読み頂き有り難うございます。

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