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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第八章 ハテノ男爵領再興記
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第178話 その時歴史は動いた…って、大袈裟な…

 騎士団のローテーションが一巡して、一番最初に歌のレッスンを始めたペンネ姉ちゃんの小隊に再び訓練期間が回ってきたの。

 そろそろ騎士団の歌声を披露しようとなって、ペンネ姉ちゃんの小隊がトップを切ることになったんだ。


 当初の計画通り、『STD四十八』の興行の前座として舞台に立つことになったよ。

 おいらが、アルト、タロウと一緒に初舞台を見にやってくると。


「おっ、爺さん、お揃いのハッピとは気合いが入っているじゃねえか。

 その後ろにいる連中は何者だ?」


 タロウが声を掛けた爺さんというのは、もちろんにっぽん爺。

 その言葉通り、ぞろぞろとお揃いの格好をした男達を引き連れてきたんだ、十人ほど。

 年齢は、タロウぐらいの若い兄ちゃんから少し年配のおっちゃんまでバラバラなの。


「うん、この人達か、私を含めて『ペンネちゃん親衛隊』のメンバーだぞ。

 この日のために、大枚叩いてお揃いのハッピまで作ったのだ。」


 にっぽん爺がハッピという上着を誇らしげに見せていたよ。

 広場の告知板を見に来ていた人から、ペンネ姉ちゃんが一番と言っている人に声を掛けて回ったんだって。

 姿絵だけじゃなくて、ローテーションの中でこの町の警備もしたことがあるからね。

 小柄で、顔がちいちゃくて目がクリっとした小動物系のペンネ姉ちゃんは凄く人気があるんだって。


「フフフ、見ろ。

 今日の初公演のために、五十年間大切にしまっておいたこれを持ち出して来たぞ。

 本当は全員に配りたかったのだが、それほど数がないし。

 明るい野外ステージじゃ、あんまり意味が無いからな。」


 にっぽん爺は何か棒のようなモノを自慢気に出してきたんだ。


「何だ、そりゃ、サイリューム棒か?

 また、何でそんなモノを持ってるんだ。」


「これか?

 私は近所の百円ショップにコレを買いに行った帰り道に、ここへ飛ばされてきたんだ。

 上下スエット姿でな。

 所持品は、僅かばかりの日本円が入った財布と買ったばかりのコレ、そして手提げ袋だけだ。

 充電中で机の上に置いて来ちまったんで、スマホすら持ってないありさまだったよ。

 五十年前、こっちの世界に飛ばされてきて…。

 私はあの時、つくづく後悔したものだ。

 よりによって何でこんなモノを買っちまったんだってね。

 せめて、カップ麺か、レトルトカレーでも買えば良かったってな。

 でも、今、やっとわかったよ、全ては今日のためにあったんだって。」


 なんか、にっぽん爺が凄く感慨深げに言ってたよ。

 その棒ってそんなたいそうなモノなのかな?

 タロウは微妙な顔をしているけど…。


       **********


「さあ、お待ちかね『STD四十八』の公演がはっじまるよー!

 今回も、イケメンたちがノリノリで頑張っちゃうからね!

 でもその前に、今回は何と素敵なゲストが来てくれました。

 最近、この領地の治安向上に多大な貢献をしてくれている華麗なる女性騎士団。

 その、『花』小隊の皆さんです!」


 ノリノリでそう言った司会進行のシフォン姉ちゃん。

 何故か、シフォン姉ちゃんもとっても短いスカートに、これまた胸しか隠せていないジャケットを着ているの。

 色々アブナイ服に見えるんだけど…。


 これもにっぽん爺の発案で、『きゃんぎゃる』風の服なんだって。

 『きゃんぎゃる』とか言われても良くわからないけど、『にっぽん』では珍しくないみたい。

 今、シフォン姉ちゃんが来ている服は、にっぽん爺が『こみけ』って場所で見た服装だって。

 初めて『こみけ』に行った時に目にして感激した服なんで、脳裏に焼き付いていたみたい。


 こんなきわどい服、シフォン姉ちゃんが着るのかなと思ったんだ。

 現に、ペンネ姉ちゃんは舞台衣装を渋ってたし。


 でも、…。


「きゃあ!ステキ!

 この服着て司会するんですか?

 私、頑張っちゃいます。

 公演が終ったら、この服もらっちゃっても良いですか。

 タロウ君とのお楽しみに使いたいんで。」


 意外なことに、差し出されて服を見てシフォン姉ちゃんはすっごく喜んでたよ。

 その服を見て、シフォン姉ちゃんの言葉を聞いたタロウが鼻息を荒くしていてキモかった。


    **********


「『花』小隊?

 ペンネ姉ちゃんの小隊って、第一小隊って言ってなかったっけ?」


 おいらが、アルトに尋ねると。


「それが、おじいちゃんとタロウの二人が数字じゃ味気ないって言い出して。

 小隊に固有の名を付けようって言うのよ。

 最初は、『○○坂』とか言ってたけど、そんなの呼びにくいって却下したらね。

 今度は『花』、『月』、『星』、『雪』、『(そら)』ってのが出て来てね。

 ゴロは良かったんだけど…。

 『雪』ってなに? ってことになって。」


 何で坂の名前をつけようとしたの理解できないと、首を傾げながらアルトが教えてくれたの。


「『雪』? 何それ?」


 おいらが、アルトの言葉をおうむ返しに尋ねると、タロウが教えてくれたの。


「おう、こっちの世界じゃ雪が降らないって初めて知ったぜ。

 女性だけの集団なら、あれで決まりと思ったんだけど。

 まさか、この世界には冬がないなんて…。」


 タロウの故郷では、一年の中に冬と言うとっても寒い時期があって。

 その時期の雨は凍って降るんだって、その凍った雨を『雪』って呼ぶんだって。

 凍るとか、冷たいとか言われても、それも実感が湧かなかったよ。


 ここは、一年中ポカポカ陽気で、暑くなく、寒くなくの気候だからね。

 雨が降った時なんか少し肌寒い日があったり、良く陽が照った時に少し暑いと感じたことがあるくらいだもの。


 ただ、『雪』ってのは、はたから見る分にはとってもキレイなんだって。


「それに、タロウがあげた名前だと五つでしょう。

 小隊は六つあるからね。

 『雪』以外の四つを残して、二つ加えることにしたの。

 音が二つで、印象の良いものをね。

 それで決まったのが、『花』、『月』、『星』、『(そら)』、『風』、『鳥』。」


 そんな訳で、小隊の名前が決まったんだって。

 ペンネ姉ちゃん、ちゃっかりその場で聞いていて、『花』を取ったらしいよ。


      **********


 シフォン姉ちゃんの紹介で、隊長のペンネ姉ちゃんを先頭に舞台に上がった『花』小隊の面々。


「はーい! 初めまして!

 ハテノ男爵領騎士団、『花』小隊でーす!

 私は、小隊長のペンネでーす!

 よろしくお願いしまーす。」


 ペンネ姉ちゃんが元気良く挨拶をした瞬間。


「せ~の~」


 にっぽん爺の掛け声が響いたかと思うと…。


「「「「「「ペンネちゅあ~ん!」」」」」」」


 親衛隊の連中が声を揃えて一斉にペンネ姉ちゃんの名前を叫んだんだ。

 みんな、ビックリ、ペンネ姉ちゃんも目が点になっている。


「あっ、ありがとうございます…。

 それじゃあ、私達、『花』小隊の歌を聞いてください。」


 いきなり、名前を叫ばれて一瞬呆然としていたペンネ姉ちゃんだけど。

 気の取りなおすと、一応、お礼を言って歌に移ったんだ。


 例のぴょんぴょん跳ねるやつ。

 とっても明るい歌詞とメロディーに、ペンネ姉ちゃんの可愛い振り付けも受けて観客は大喜びだった。


 そして、第一コーラスと第二コーラスの間奏…。


 「「「「「「「L・O・V・E・ラブリーペンネ 」」」」」」」


 再び、親衛隊の連中が連中が声を揃えて一斉に叫び声を上げたんだ。

 おいらは、喧しいなと思ったんだけど…。


 お客さんの多くはそうでもなかったようで、一緒になってペンネ姉ちゃんの名前を呼んでたよ。

 それで、にっぽん爺はと言うと赤く光る棒を振り回しながら、親衛隊の連中に声掛けのタイミングを指示してたよ。

 さっき、大切そうに持っていた棒、どういう仕組みか分からないけど光るんだね。


 何度か、にっぽん爺の「せ~の~」を繰り返すと、お客さんにもそれが歓声を送る合図だと気付いたみたい。

 その日、『STD四十八』の出し物の間のつなぎとして、『花』小隊は三曲歌ったんだけど。

 三曲目の時は、にっぽん爺の「せ~の~」を合図に、会場全体から「ペンネコール」が上がったよ。 


 そんな訳で、ペンネ姉ちゃん達『花』小隊の初舞台は大盛況だったの。

 例によって、おいらとシフォン姉ちゃんで箱を持って集金に回ったんだ。

 『花』小隊の歌が一曲終わる毎に。

 そうしないと『STD四十八』の稼ぎと区別できないからね。


 凄い数の銀貨が箱の中に入っていた…。

 特に、シフォン姉ちゃんの持って回った箱は、『きゃんぎゃる』衣装も手伝って、すぐに溢れちゃったよ。


「その衣装、威力抜群ね。

 ペンネ達の実力以上の稼ぎになっているわ。

 シフォンの取り分を増やしてあげるから期待しておきなさい。」


 箱の中の銀貨を見てアルトは感心していたよ。


      **********


 それで、にっぽん爺だけど。

 『花』小隊の歌の間、赤く光る棒を振り回してとても活き活きしていた。

 六十五歳過ぎとは思えないくらい若々しく見えて、そう、まるでタロウくらいの子供に見えた。


 そんなにっぽん爺を見て、タロウは珍しくマジな顔で言ってた。


「五十年前にどっかに置き忘れてきた青春を今頃取り戻してるんだよ、じいさん。」


 五十年前にたった一人で見知らぬ土地に来て、法も習慣も違うこの地で大変な思いをしてきたにっぽん爺。

 こっちに来た頃は、タロウと同じくらいの歳だったらしい。

 タロウは言ってた、一番楽しい時期を楽しむことが出来なかったにっぽん爺が心から楽しむことが出来ると良いなって。


 それで、この日の興行がある意味、分岐点になったんだ。

 おいらには、喧しいだけに聞こえた親衛隊の声援、あれが主流になって来たの。

 この日を境に、町の熱烈なファンのお姉ちゃんを中心に『STD四十八』の親衛隊ができ、騎士団の各小隊にも親衛隊ができていったんだ。

 みんな、にっぽん爺みたいな声援を送るようになったの。


 それと共に、にっぽん爺の周囲も賑やかになったよ。

 それまでのにっぽん爺は、ほら吹きの変人と陰口を言われ、町の人から遠巻きにされてたんだけど。


 最初に『STD四十八』のファンのお姉ちゃんが教えを請いに訪ねて来たんだ。

 親衛隊の組織の仕方とか、応援の仕方とか、お揃いのハッピのデザインとか。

 根が親切なにっぽん爺だから、懇切丁寧に相談に乗ってあげたし。

 応援用の小道具とか、ハッピのデザインとかも手伝ってあげたの。


 それが評判になって、各小隊の親衛隊も相談に来るようなって。

 最近のにっぽん爺の家からは、何時でも若い人達の笑い声が聞こえてくるよ。


「こりゃあ、あの爺さん、本当にこの世界の秋〇康やつ〇く♂になるかも知れんな。」


 活き活きとしたにっぽん爺を見て、またタロウが意味不明なことを言ってたよ。


 『STD四十八』や各小隊のファン以外にも、相談に訪れる人が出て来たよ。


 例えば、冒険者ギルドが経営する風呂屋の支配人。

 風呂屋の泡姫のお姉ちゃんが着る制服のデザインをして欲しいって、シフォン姉ちゃんが着ていた服みたいなの。

 それから、冒険者ギルドが経営する飲み屋のマスター。

 飲み屋の酌婦のお姉ちゃんが着る制服のデザインをして欲しいって、シフォン姉ちゃんが着ていた服みたいなの。


 って、あれ? 冒険者ギルドが経営する店ばっかり?

 なんか、いかがわしい感じがするのは気のせいかな…。


 そのシフォン姉ちゃんだけど、あらから数日顔がテカテカしてたよ。

 それと相反するように、タロウはどんどんやつれていったの。

 なんか、アルトがシフォン姉ちゃんに注意してたよ、「いい加減にしないと、あの服取り上げるわよ」って。


 そんな感じで、最近のにっぽん爺は若い人に囲まれてとっても楽しそうだよ。

いつもお読み頂き有り難うございます。

さて、次章ですが、やや性的な話題が多くなります。

R18的な話にするつもりはございませんので、そのものずばりの描写はございませんが。

作中登場人物にっぽん爺が若い頃に、現代日本の知識を利用して、R18的な仕事を始めた話です。

その時使っていたとある『木の実』が話の本筋に絡むため、一旦そっちの方向に話が進みます。

15話ほどの章になりますが、その手の話が苦手な方は飛ばしてくださっても、その次の章には余り影響のない話の構成になっています。

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