第177話 大分安全な領地になったよ
一つの任務を十日ずつのローテーションが一巡する頃には、騎士団のお姉ちゃん達は領地に馴染んできたよ。
それも、ペンネ姉ちゃん達、絵姿制作係が頑張ったおかげかも知れない。
領都の広場に据え付けらた告知板には三十二枚の姿絵がずらっと並んでいるよ。
ライム姉ちゃんとクッころさん、それに三十人の騎士の姿絵だね。
ペンネ姉ちゃん達が寝る間を惜しんで作った甲斐があって、姿絵は大好評。
中には盗まれるモノが出てくる程だったよ。
特に、ライム姉ちゃんとクッころさんの姿絵は何度も盗まれちゃって。
ペンネ姉ちゃんが慌てて、刷り増ししてた。
貼り出された姿絵が十枚を超える頃には、新たに貼り出される姿絵を楽しみにしてる人も出て来た様子で。
毎朝、姿絵が貼り出さる時間には、待ち構えたように見物人が集まってきたって。
騎士の誰が一番可愛いとか、そんな他愛のない言い合いが告知板の前で繰り広げられるのは日常茶飯事みたい。
中には、「エクレアお姉さまに踏んで欲しい。」とか意味不明な言葉を呟くお姉ちゃんもいたよ。
おいらは、そのお姉ちゃんの気持が理解できなかったけど…。
おいらの隣にいたペンネ姉ちゃんは、ウンウンと頷いてたよ。
それはともかくとして。
実際、一つの小隊が領都の中を隈なく巡回するようになったら、町の治安が良くなったと評判なの。
騎士団結成早々に、領都の冒険者ギルドにガサ入れしてきついお仕置きをしたから。
この町に拠点を置いている冒険者は大人しくなったんだけど。
渡り歩いている冒険者も多いから、他所から入って来る連中も多いわけ。
そういう連中って、ハテノ領の事情を知らないから、他の領地にいた時と同じように振る舞うの。
町の人にゴロを巻いたり、女の人に悪さをしたりね。
騎士団のお姉ちゃんは、四六時中、領都の中を隈なく巡回しているから、悪さをしている冒険者はすぐ見つかるんだ。
悪さをしている連中の方も、騎士団のお姉ちゃんが女だからと侮っているようで逃げようともしないんだって。
騎士団の実力を知らない他所の冒険者は、女性騎士団をお飾りだと思い込んでいるみたいなの。
こんな話もあったよ。
領都の中を巡回していた小隊が、若い女性を無理やり空き家に引き摺りこもうとしてる冒険者の三人組に遭遇したんだって。
女の人を救助に行くと、冒険者の一人が騎士のお姉ちゃんを見てこんなこと言ったそうだよ。
「おっ、こんな良い女が自分からやってくるなんてついてるぜ。
騎士の格好なんてして、正義味方気取りか?
おう、おめえら、この騎士の真似したいかれた女も姦っちまおうぜ。」
この国には他に女性騎士団なんて無いから、本当の騎士だとすら思っていなかったんだって。
それで、その連中がどうなったかと言うと。
魔獣狩りもしないで町中で悪さばかりしている冒険者なんて所詮雑魚ばかり。
レベル二十揃いの騎士団のお姉ちゃん達に敵う訳もなく、何の苦もなく捕縛されたみたい。
そして、例によってこぶしを潰されて広場に晒されたの、町の人に報復させるためにね。
もちろん、ボコボコにされたよ。
騎士団の発足後、しばらくはそんなことがあったけど、口コミに乗って噂が広まったんだ。
ハテノ男爵領で悪さをすると拙いってね。
小隊のローテーションが一巡する頃には、町にやってくる不良冒険者は姿を消したよ。
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それと、騎士団が設立された時にアルトが、クッころさんとライム姉ちゃんに注意していたの。
「これから、王都や他の町から『トレントの木炭』を買い付けに多くの人が訪れることになるわ。
街道沿いにねぐらを構える野党狩りを徹底的にしておきなさい。
せっかく、外からお客を呼べる特産品を用意したのに、街道が物騒だとお客が逃げちゃうわよ。」
ダイヤモンド鉱山の閉鎖でハテノ男爵家が傾いてから、この辺境はほとんど無法地帯になったから。
王都辺りから流れてきた冒険者崩れが、野盗と化して商人や旅人を襲っているようなの。
まあ、中には野党に襲われたのではなく、用心棒に雇った冒険者の裏切りにより殺されて金品を奪われるケースもあるみたいだけどね。
その辺は死人に口なしだからはっきりしないんだ。
アルトは、野党狩りを徹底的にしろなんて言うけど、それは無理な話だよ。
だって、騎士団は三十人しかいないんだもの。
反面、ハテノ男爵領は辺境だけあって面積だけはだだっ広いからね。
広場に落とした一本の針を探せと言うようなモノだもん。
とは言え、アルトの指摘ももっともなんで、相談の結果、小隊二つを領内の巡回に出すことにしたんだ。
特に、王都とハテノ男爵領を結ぶ街道には、常に一つの小隊が目を光らせておくことにしたの。
それが面白いように効果があったんだ。
広いハテノ男爵領、しかも荒野や森が多いから、野盗を捜すなんて無理だと思ってたのに…。。
騎士団のお姉ちゃん達って、十五から十八の年頃のお嬢さんで、美人ばかりでしょう。
「こんな、人気が無い街道で、若い女ばかりで出歩いてるなんて。
カモがネギをしょって、鍋までぶら下げて来てくれたようなもんだせ。
こちとら、女日照りで参ってたんだ。
久しぶりの極上の女にありつけるたぁ、こりゃついてるぜ。」
なんて言いながら、野盗の方から出て来てくれたんだって。
冒険者って、基本知恵の回らないおバカが多いからね…。
これまでに数組、野盗の集団を討伐したみたいだけど、どれも八人から十人くらいの集団で。
女性五人の小隊を組み易しと侮って出てきた様子だったって。
実際に遭遇したお姉ちゃん達に聞いたところだと、野盗は小隊を騎士だとは思ってなかったみたいだよ。
物好きにも辺境まで旅してきた、頭の足りない貴族のお嬢様だと思っていたみたい。
頭が足りないのはどっちかって、騎士のお姉ちゃんがボヤいていたよ。
もちろん、小隊に返り討ちにされたんだけど…。
小隊五人に対して、野盗は倍近いに人数だから、連行できる訳もなく。
仕方がないので、武器一切を取り上げ、両手のこぶしと両足の甲を潰したうえで、縄で縛り上げて放置しているそうだよ。
万が一にも、再び悪さが出来ないようにこぶしと足の甲の骨は念入りに砕いておいたって。
放っておけば、魔物か肉食の野生動物が始末してくれるだろうって言ってた。
「あら、野盗ホイホイね。
騎士に見目麗しい娘を抜擢した甲斐があると言うモノね。
思わぬ余禄があったわ。」
小隊による野党退治の報告を聞いたアルトが愉快そうに呟いてたよ。
そんな感じで、騎士団が発足してしばらくするとハテノ男爵領内の治安は目に見えて改善していったの。
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