第170話 騎士団のお仕事?
結局、町の人の報復刑に科せられた十五人は三日間晒し者になったよ。
三日目の午後には、報復する者は誰もいなくなったし。
初日に涙目で訴えてきたお姉ちゃんも。
「もう気が済みました。
あのことは野良犬に噛まれたとでも思って忘れます。
これからは、前向きに生きていけそうな気がします。」
そう言って帰って行ったので、放免することになったんだ。
当初の予想通り誰一人として命を落とした者はなかったよ。
やっぱり、冒険者と違って、堅気の人は人殺しは躊躇するから。
歯が一本もなくなちゃって、物を食べるのに苦労しそうなのはいるけどね。
全員、歩くのも困難な感じだったけど。
縄で拘束したまま町の外まで引き摺って行って放り出したよ。
もちろん、『監禁部屋』の中にいて現行犯で捕まった奴らは裸のままでね。
この十五人を見せしめにしたのは、ものすごく効果的だったみたい。
その日までは、肩で風切って歩いていた冒険者共が身を縮こませて歩くようになった。
町の中でカツアゲする冒険者もいなくなったし、…。
女の人を裏路地に引き摺り込む冒険者は…、どうだろう、いなくなったのかな?
ともかく、自分達が町の人に凄い恨みをかっているとわかったみたい。
騎士団のお姉ちゃん達が無茶苦茶強くて、冒険者達では敵わないこともわかったみたいだから。
悪さをしたら、騎士のお姉ちゃんに捕まってあの十五人みたな目に遭わされると理解した様子だったよ。
ライム姉ちゃんは、その様子を確認してこれからも重い罪には死罪ではなくこの刑を科すって言ってた。
防犯に効果的だし、人を死罪にすると言う負い目を感じないのが良いと言ってたよ。
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そして、十五人を町の外に放り出した翌日。
騎士団のお姉ちゃん達とライム姉ちゃんを前に、アルトが言ったの。
「あら、騎士団のみんな、五人ずつの小隊に分かれているのね。
ちょうど良いわ、じゃあ、その六小隊で任務のローテーションを組みましょう。
騎士団長のエクレアは、常時ライムの側にいて護衛と騎士団全体の指揮ね。
小隊は、ライムとこの屋敷の護衛に一つ、この町の市中警備に一つ、領内の巡回に二つね。
後の二つだけど、一つはマロンが住む町の警備に一つ、そして訓練に一つね。」
領主のライム姉ちゃんを護衛するのと領都の市中警備は当然だとして。
領内の巡回というのは、ゼンベーじいちゃんが領主をしていた頃はずっとしていたみたい。
領内に盗賊みたいな不逞な輩が住み着いてないかとか、魔物の被害が出ていないかとかを見回るの。
町や村を回って、困っていることが無いかを聞いて回るのも仕事だって。
この間までの騎士団の連中はそれを止めちゃったの。
前の領主が、住民のご機嫌取りは騎士団の仕事じゃないって言って止めさせちゃったみたい。
それで、昼間からお酒を飲んで博打を打っているなんて、単なる無駄飯食いだよね。
で、良くわからないのが、おいらの町の警備っての。
おいら達が住む町は、領主が統治を放棄しちゃった無法地帯で警備なんかいなかったのに。
その代わり、税金が取られないので、おいらは助かってたんだけど。
「ねえ、アルト、おいらの町に警備の騎士が配置されるの?
その代わりに税金を取ると言われるとおいら困っちゃうんだけど。」
おいらが、正直な気持ちと共に尋ねると…。
「安心しなさい、騎士団の駐留費は私がライムに支払うわ。
騎士団の駐留目的は、耳長族の保護と町の治安維持よ。
『STD四十八』の興行が盛り上がるのは歓迎だけど。
それに伴って、余所者の出入りが多くなっているでしょう。
そうなると不心得者が入って来て悪さをしないとも限らないからね。」
今は、アルトが冒険者ギルドを脅して手弁当で取り締まりをさせてるけど。
何時までもタダで扱き使う訳にはいかないってアルトは言うの。
だからといって、お金を払って警備をさせるには連中だと力不足だって。
だから、一小隊、駐留させて町の巡回警備をさせるんだって。
「よろしいのですか?
領内の治安維持は本来なら、領主である私の仕事なのに。
一小隊分の維持費をアルト様に負担して頂いて…。」
アルトの言葉にライム姉ちゃんは申し訳なさそうに言うけど。
「良いのよ。
治安維持をキチンとするなら、その分税金も取らないと。
あの町は税金を取ってないのだから、本来は護ってあげる義理も無いわ。
そこに、私の希望で駐留してもらうのだから、私が経費を負担するのは当たり前よ。」
そう言ってアルトはカラカラと笑っていたよ。
騎士団の駐屯地は空いている鉱山住宅を使うことになったんだ。
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「それで、訓練に一小隊を割くと言いますが具体的にどんな訓練をさせれば良いのでしょうか。
ローテーションで訓練にあたった小隊は、その間、訓練ばかりするのでしょう。」
騎士団長のクッころさんがアルトに尋ねたんだ。
仮にもプロの騎士になったのに、訓練方法を妖精のアルトに聞くなんてそれで良いの。
おいらはそう思ったんだけど、クッころさんの尋ねたことはそう言う意味ではないみたい。
この国の騎士団は、巡回なんかの仕事の合い間に訓練の時間を取るんだって。
ローテーションの間、ずっと訓練ばかりすると言うのが想像できなかったみたい。
「訓練にあたった小隊は私に預けてもらうわ。
安心して、実践的な訓練をしてあげるから。」
アルトの言う実践的な訓練ってあれしか思い浮かばないんだけど…。
「はあ、その実践的な訓練とはどのようなモノでしょうか?」
「トレント狩りよ。」
ほら、やっぱり…。
「トレント狩りですか、一日中?
確かにトレントは手強い魔物ですが…。」
「トレントは素早い八本の枝を巧みに操って攻撃してくるのからね。
小隊の連携を強化するのに丁度良い相手なのよ。
騎士の娘達、いくらレベル二十にしてあげたと言っても。
実戦経験に乏しいからね、トレントくらいから始めないと厳しいと思うわ。
レベル二十でも気を抜くと怪我をする相手よ。
それに、トレントは副産物がお得でしょう。
シュガートレントなら、『スキルの実』の他に、『シュガーポット』も採れるし。
何より、これからこの領地を支えるトレントの木本体が手に入るわ。
『スキルの実』、『シュガーポット』は売って領地の収入にすれば良いし。
トレントの本体だって、私が無償で木炭に加工してあげるわ。
良い訓練になる上に、領地の収入にもなってお得でしょう。」
アルトはトレント狩りが色々な意味で効果的だと説明したんだ。
「なんか、ますます申し訳ないです。
何から、何までお気遣いをして頂いて。」
アルトの話を聞いてライム姉ちゃんはまたまた恐縮しちゃったんだけど。
「気にしないで良いわよ。
訓練に当たった小隊にしてもらうのは、それだけじゃないから。」
「はあ、それは何をさせようと言うのですか?」
「決まっているじゃない、歌と踊りの練習よ。
そのために、容姿を重視して選抜してもらったんだもの。
面接の時に、私が聞いたでしょう歌とダンスは得意かと。」
「?????」
アルトの返事を聞いて、ライム姉ちゃんは混乱しちゃったよ。
「見目麗しい女性騎士団を使って領地に人を呼び込むのよ。
定期的に、この領都で騎士団の歌の公演をしましょう。
もちろん、入場料を取ってね。
伴奏は耳長族の娘にしてもらうから、それだけでもお客を呼べるわよ。」
あっ、あれ冗談じゃなかったんだ。
騎士団に歌わせて領地の名物にするって。
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