第167話 慰謝料を巻き上げたけど…
ギルドの組長がライム姉ちゃんに完全服従の姿勢を示すと冒険者の一部に不満の声が上がったよ。
でも、このギルドの幹部らしき年嵩の冒険者が、ギロリと睨むとみんな声を静めてた。
こんな辺境のギルドでも幹部になるような人は、おいら達に逆らったら拙いと理解できる人みたいで良かったよ。
「早速、この女性たちを連れて帰ることにいたします。
いつまでもこうして、男達の目に晒しておく訳には参りませんから。
この場で、こちらの女性たちに慰謝料をお支払いいただけませんか。
さて、幾らにすれば良いでしょうか?」
ライム姉ちゃんは、監禁されていたお姉ちゃん達に渡す慰謝料を幾らにしたら良いかで考えこんじゃった。
だから、おいら、教えてあげたんだ。
「うんとね、王都の『ソッチカイ』の総長さん、一人当たり銀貨二万枚渡してたよ。
ここは、同じ『ソッチカイ』の支部なんだから、同じにすれば良いんじゃない。
クッころさんが見ている紙には十分なお金を渡すように書いてあるんでしょう。」
おいらが水を向けると。
「金額の指示は無いですが、十分な慰謝料を支払うように指示はされていますわ。
本部が一人当たり銀貨二万枚を支払ったのなら、私も同額でよろしいと思いますわ。」
クッころさんも同意してくれたんだ。
「ちょっと待ってくれ、この支部には銀貨十万枚も無いぞ。
そんな金額を払うのは無理だ。
だいたい、銀貨二万枚って言ったら俺の稼ぎと変わんないじゃないか。」
この組長、ふんぞり返って威張っているだけで銀貨二万枚も取っているんだ。
じゃあ、酷いことをされたお姉ちゃん達はもっと貰っても良いんじゃない。
組長はそう言って抵抗したんだけど。
「全員で、この建物の中を隅々まで検めなさい。
銅貨一枚残らず、この場に集めてくださいませ。」
クッころさんは、ライム姉ちゃんの護衛とこの場の監視に五人だけ残して家捜しを命じたの。
本当に銀貨十万枚が無いのかを確認するためにね。
「バカ!やめろ!」
組長は、最後の抵抗ではないけど、そう叫んで家捜しを止めさせようとするけど。
騎士のお姉ちゃん達は聞く訳もなく、二人一組となっててんでに散って行ったんだ。
組長は凄むけど、誰一人として騎士のお姉ちゃんの行く手を阻もうとする冒険者はいなかったよ。
みんな、騎士のお姉ちゃんに敵わないことをもう理解しているみたい。
暫くすると、凄い数の銀貨が床に積み上げられたんだ。
それを、騎士の一人が一枚一枚丁寧に、枚数を数えていたよ。
でもね、組長の様子がおかしいの。
有り金を全部積み上げられたというのに、何かホッとしたような顔つきに変わったんだ。
なんか、怪しい…。
「全部で、四万枚と言うところですか。
確かに十万枚には全然足りないようですね。」
枚数を数え終わった騎士がそう言った時に。
「まだ、ここにあるようですわ。
組長の部屋に隠し部屋があって、そこにこれが置かれていましたわ。」
騎士のお姉ちゃんが四人掛かりで大きな金庫を運んできたよ。
「バカな…。
その金庫は大の男五人掛かりでもピクとも動かなかったんだぞ。
何で、女が四人で持って来れるんだ…。」
見た目が華奢なお姉ちゃん達が、大きな金庫を運んで来るのを目にして組長さんは愕然としていたよ。
さすがレベル二十だね、基礎能力が無茶苦茶高まっているからね。
なるほど、さっきから余裕の表情だったのは隠し金庫が見つかってなかったからか。
でも、組長もいつまでも惚けている訳にはいかなかったみたい。
「よせ、その中の金を持って行かれちゃ、このギルドはお終いだ。
ギルドの構成員に給金も給金も払えなくなっちまう。
何より、本部へ納める上納金が払えねえじゃないか。」
さっきより、凄い剣幕で抗議してきたんだ。
よっぽど、この中のお金が大事なんだね。
「エクレア様、この金庫鍵が無いと開かないようですが…。」
騎士のお姉ちゃんの一人が金庫を調べてそう言ったの。
それで、クッころさんが組長に鍵を出せと命じたんだけど。
最後の抵抗とばかりに、組長は命令を無視していたんだ。
ここですったもんだするのは面倒だったから。
「オッチャン、ちょっと、これ借りるね。」
おいらは、冒険者が床に落としていた剣を一振り拾い上げて、
「えいっ!」
金庫に向かって振り下ろしてみたんだ。
あまり力を込めることなく、剣が金庫に吸い込まれていくのに任せるように。
キーン!
剣が金庫に当たった瞬間、澄んだ小気味良い音がしたかと思うと…。
「そんなバカなことがあってたまるか!
その金庫は鋼鉄で出来ているんだぞ。
剣の一振りで、一刀両断に出来る訳ないだろうが!」
組長がそんな風に声を荒げるのも無理ないと思うよ。
流石においらもビックリしたから…。
生き物以外にも『クリティカル』って利くのかわからないから、ダメもとでやってみたんだけど。
ちゃんと『クリティカル』が仕事をしてくれたよ。
おいらの振り下ろした剣が当たって場所を中心に、金庫がパカッと左右に割れたんだよ。
中からは大量の銀貨が零れ落ちてきた。
「エクレア様、どうやら、この金庫の中身だけで銀貨十万枚はありそうです。」
金庫の中に詰められた銀貨の量とさっき数えた銀貨の山の大きさを見比べて、騎士のお姉ちゃんが言ってたよ。
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クッころさんは、ギルドの職員に命じて銀貨を詰める布袋を用意させると。
騎士に二万枚ずつ詰めさせたんだ。
そして、それを一人、一人に手渡して行ったの。
「おい、やめてくれ。
本当にそれをもって行かれちまったら。
冒険者ギルドの連中が生活できねえじゃねえか。
カタギから『みかじめ料』をとっちゃならねえ、蓄えは持ってかれちまうじゃ。
これから、どうやって本部に上納金を納めろってんだ。」
それを見ていて組長が涙目になっちゃったよ。
「オッチャン、『ハニートレント』を一体狩れば、『スキルの実』と『ハチミツ壺』で銀貨三千枚になるよ。
四十体も狩れば、余裕で銀貨十万枚は稼げるじゃない。
オッチャンが一日十体狩れば、四日で元通りになるじゃない。
そんなに悲観しなくても平気だよ。」
どうやってと言うから、おいらが現実的な方法を教えてあげたら。
「一人でハニートレントが狩れる訳ないだろうが。
俺に死ねと言うのか!」
組長ってば、まだそんなに大声を出す気力があったんだねと、感心するぐらいの声を張り上げたよ。
組長なんて言って威張っているのに、トレント一体倒せないなんて情けないね。
実際のところ別に組長が自ら狩る必要はないし、四日なんて短期間で狩る必要もないんだ。
冒険者に狩らせて売り買い一割ずつの手数料をとれば、一月足らずで十万枚貯まるんだからね。
おいらが、それを教えてあげると。
「嬢ちゃんは簡単に言うがな。
この町の冒険者じゃ、全員で掛かっても一日十体のシュガートレントを倒すのは無理だぜ。」
まだ、泣き言を言う組長に、おいらは町の広場に放置する予定の冒険者を差し出して言ったの。
「仕方ないから、このニイチャンを晒し者にするのは止めてあげるね。
今日から、このニイチャンを組長代行にすればいいよ。」
「はあ? 嬢ちゃん、何をいっているんだ?
そんな事をしてどうなるって言うんだ。」
「組長がお金を持っていかれまいと、そんなに必死になっているのは上納金のせいでしょう。
だから、上納金を納められない詫びとして、このニイチャンの指を毎月一本差し出すの。
それで、最大十ヶ月、本部に上納金を免除してもらえるよ。
その間に、冒険者を鍛えて、トレントくらい狩れるようにすれば良いよ。
今まで、堅気の人に迷惑かけていた時間を鍛錬に充てればそのくらい軽いって。」
おいらが住んでいる辺境の町のギルドは半年くらい前からそうしているって教えてあげたよ。
何故か分からないけど、ギルドの連中って本部に上納金を納められないことを凄く恐れてるんだよね。
こうしちゃえば、簡単に上納金の支払いを逃れられるのに。
それを聞いた組長や幹部たちは青い顔をしていたよ。
更に追い打ちを掛けるように、ライム姉ちゃんは冒険者たちに向かって告げたの。
「それが良いでしょう。
本当は今日紹介をするつもりで連れて来たのですが。
ここにいる三十一人が、この領地の新しい騎士団です。
私が定める新しい法に基づき、迷惑行為に対する取り締まりを厳しくします。
町の方に悪さをする冒険者を見逃すつもりはありません。
今日以降、冒険者の本分に立ち返って魔物狩りに精進することを期待します。」
幾らライム姉ちゃんが法で、町の人に対する強請り集りを禁じたとしても。
実際は、領主に取り締まれる訳がないとタカを括っていた連中もいたみたい。
そんな連中は、騎士団が取り締まりをすると聞かされて肩を落としていたよ。
騎士のお姉ちゃんに敵う訳が無いことを思い知らされたみたいだからね。
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ライム姉ちゃん達は、ギルドに監禁されていた五人のお姉ちゃんを保護して帰ることになったの。
捕まっていたお姉ちゃん達、着る服も無くて、宿も無いという事なので。
取り敢えずギルドの構成員から剥ぎ取った服を羽織らせて、数日ライム姉ちゃんの屋敷に泊めることになったから。
それと、お姉ちゃん達を監禁して酷いことをした人も捕らえたまま連れて帰るよ。
ライム姉ちゃんは、絶対に赦さないって言ってるけど…。
誰が処刑するの?
おいらは絶対に殺しはしないよ。
騎士団のお姉ちゃん達に人殺しは出来ないと思うんだけど…。
お読み頂き有り難うございます。




