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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど
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第159話 王都興行は大盛況、…だけど

 そんな訳で、『STD四十八』の王都興行が始まったのだけど。

 モカさんが、王宮や騎士団の人達にアルトが興行を打つと触れ回ったようで。

 

 王宮の裏庭で披露した時に見ることが出来なかった人を中心に、王宮勤めの人がいっぱい見に来てくれたの。

 あの時は、王宮勤めの人でも、貴族の当主以外は殆ど見ることが出来なかったからね。

 そして、前回裏庭に集められた貴族の当主から話を聞いたその家族が多数詰めかけたんだ。


 そのおかげで、初日の王立劇場は貴族の人々で大入り満員。

 一般席銀貨五枚、特別席銀貨十枚という強気な見物料を設定したのに、五千席分全部売れちゃったって。

 みんな、『STD四十八』の剣舞よりも、伝説に聞く耳長族のお姉ちゃん達を見に来たみたい。


 そんな満員御礼の初日だけど、お客さんの殆どは貴族の人達だったから何の混乱もなく終わったんだ。

 みんな、耳長族におイタするとどんな目に遭うかを、貴族の当主達から聞かされているからね。

 宮廷の方でも、『耳長族には手出し無用』の勅令を徹底しているようだし。


 でも、二日目、三日目は、そうもいかなかったんだ、言ってもわからないおバカさんがいるから。

 特段、宣伝をすること無く始めた王都興行だけど。

 街中にある王立劇場に貴族が群がっていると目立つから、当然、街の人も何の興行かに関心を示す訳で…。

 翌日には、王都中に幻の耳長族、それも見目麗しい若いお姉ちゃんの演奏が聴けると広まったんだ。


 すると、


「おい聞いたか、何でも、ここ百年以上見かけなかった耳長族がいたらしいぞ。

 しかも、どえらいベッピン揃いだと言うじゃねえか。

 ちょいと、とっ捕まえて裏オークションにでもかければ一財産だぞ。

 裏口辺りで出待ちして、拉致ろうじゃねえか。」


 などと企むおバカさんがいる訳だ。

 もちろん、そんなろくでもないことを考えるのは冒険者くらいだよ。

 ちなみに、アルトが見せしめに前ハテノ男爵を消滅させたあの日、王様は震え上がっちゃって。

 その日中に王都の各所に『耳長族には手出し無用』の勅令を張り出したんだ。

 バカなことを企む冒険者が出て来て、アルトの勘気に触れたら堪らないと思ったから。


 そんな王様の気持ちなど知ったこっちゃないという『勇者』がいたんだな…。それも、一組じゃなくて。


      **********


 興行二日目、『STD四十八』の公演の最中。


「ねえ、ちょっと、あんた達、こんな所にたむろって何をしているんだい。

 サスマタに縄なんて持っちまって、何か捕り物でもしようってのかい。」


 オチョー姐さんが、王立劇場の裏口でたむろっていた十人程のガラの悪い連中を見つけたんだって。

 いかにも冒険者って感じの…。

 

「何だ、このババア、そんなところに突っ立っていると邪魔だ。

 さっさと消えやがれ、こちとら、これから大捕り物が待ってんだ。

 上手くしたら、一生遊んで暮らせるんだからな。」


 サスマタを手にした連中は、問い掛けには答えずオチョー姐さんに消えろと言ったそうだよ。


「呆れたもんだよ、あの妖精さんが用心するはずだね。

 二日目から、耳長族を捕らえて一儲けを企む輩が現れるなんて…。

 まあ、いいわ、そんなところに群がっていると往来の邪魔だしね。

 とっとと片付けちまうとしようかね。」


「このババア、何で、それを知っている!」


 何で知っているって、耳長族が公演をしている裏口を張っているんだもの…。

 普通、誰でも想像つくと思うよ。

 おいら、オチョー姐さんからその話を聞いて、心の中でツッコんじゃったよ。


「さて、みんな、仕事だよ。

 こいつら、全員、のしちまいな!」


 オチョー姐さんが声をかけると、裏口の警備をしていた班が集まって来たんだって。


「何だ、何だ、カタギを五人くらい集めて何をほざきやがる。

 俺達をのしちまうだと、やれるもんならやってみやがれ!」


 『ドッチ会』の人達はみんな、普通のおっちゃんみたいな風体で威圧感は全くないからね。

 サスマタを構えた連中には、カタギにしか見えなかったみたい。得物も木の棒だしね…。

 

 で、結果は瞬殺。

 もちろん、『ドッチ会』のみんなが勝ったよ。

 五人で倍以上のならず者をあっという間にのしちゃったらしいの。

 やっぱり、真面目に鍛錬していたというだけのことはあったみたい。

 どこぞの、コケ脅しだけの冒険者とは格が違うみたいだね。


「全く、口ほどにも無いね。

 堅気のモンにゴロ巻いたり、か弱い女を拉致したり。

 そんなロクでもないことばかりしてないで、少しは鍛えたらどうなの。

 冒険者の本分は、町の外に出て狩りをすることだろう。」


 オチョー姐さん、のされて地べたに這いつくばる連中にお説教したらしいよ。

 興行二日目、三日目の間に都合三回、そんな事があったんだって。


 オチョー姐さんが呆れていたよ。

 あいつら、お触れ書きを見ていないのかと…。

 それと、他所のギルドの冒険者が真っ当な仕事をしないで、犯罪で手っ取り早く稼ごうとすることに。


     **********


 肝心の興行の方はと言うと、三日間とも大盛況だったの。

 お客さんの多くが、幻の耳長族に惹かれてやって来たみたいなんだけど。

 実際に公演を見たら『STD四十八』の剣舞や歌をとっても気に入ってくれたみたいだった。

 耳長族のお姉ちゃん達のキレイさや演奏の巧さにも負けていないって、評判になっていたよ。


 劇場の使用料に、ジロチョー親分に対する警備料を支払っても十分な稼ぎだったようで。

 アルトは、次に劇場を借りるためのお金を残して、全部『STD四十八』とお姉ちゃん達に分けちゃった。


 『STD四十八』の連中も、お姉ちゃん達も臨時収入が入ってホクホク顔だったよ。


 でも、ホクホク顔になれない人が、ここに一人…。


「ひっ!」


 目の前に、何十人もの冒険者を積み上げられて、顔面蒼白にしている王様。

 その横では、モカさんが呆れ顔をしていたよ。


「あんた、あれほどきつく言ったのこれはどういうこと。

 耳長族を捕らえようとした愚か者共がこんなにいたのよ。

 それも、たった二日間で。

 王都の取り締まりくらいきちんとやりなさいよ。

 こいつら、全員冒険者よ。

 冒険者をキッチリ監督しろって、あれほど言ったじゃない。」


 アルトは、捕らえた冒険者を王様に突き出して監督不行き届きを責めたの。


「いや、儂はちゃんとやったぞ。

 そなたに言われた通り勅令で、耳長族への手出しは禁じたし。

 その旨、王都の至る所にお触れ書きを出して周知に努めた。

 これ以上、何をしろって言うのだ。」


 王様はもう涙目だったよ。


「まあまあ、アルト様。

 そんなに陛下を脅さないでください。

 アルト様だって、実際はそう怒っている訳じゃないんでしょう。

 アルト様のおっしゃりたいことはわかります。

 冒険者には想像を絶する愚か者が多いので、気を緩めるなと戒めたいのでしょう。

 通り一遍の対応に済ませずに、徹底的に監督しろと。

 そのために、この者達を有効に利用しろとわざわざお持ちくださったのですね。」


 モカさんの返事を聞いたアルトはとても満足そうだったよ。

 実際、アルトが本当に怒ったら、その日のうちに怒鳴り込むものね。

 三日間が終って、のんびりとやってくるのだから、本気で怒っている訳じゃないね。


「どういうことだ?」


「アルト様が、貴族達に前ハテノ男爵を断罪するとこを見せて、心に恐怖を刻ませたのと同じです。

 冒険者ギルドの愚か者共に、耳長族に手を出そうものならどうなるかを見せつけてやれと。

 王宮が毅然とした態度でこいつらを断罪して、次は無いぞと脅してやれと言うのです。

 そのためのイケニエとして、アルト様はわざわざこいつらを運んで来てくれたのです。」


 いまいち、アルトの真意を理解できない王様にモカさんが丁寧に説明していたよ。

 

 数日後、アルトが突き出した連中は勅令に背いた罪で全員処刑されたの。

 そして、晒し首になったんだけど…。

 晒された場所は処刑された者が所属していたギルドの正面。

 ギルドの連中が勝手に片付けないように騎士が見張りに立っていた。

 その傍らには高札が掲げられ罪状が記されていたんだけど。


 そこには、今後、勅令に背いて耳長族に手を出した者は晒し首にするという事が記され。

 更に、もし、それが冒険者であった場合、冒険者ギルドの長にも連帯責任を負わせると記されていたの。


 この晒し首と高札の掲示は、早朝夜明け前になされたものだから。

 朝ギルドにやって来た冒険者たちはギョッとしたみたい。


 そして、王宮が本気だという事を思い知ったようだよ。

お読み頂き有り難うございます。

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