第146話 またまた王宮へ乗り込んだよ
ライム姉ちゃんを領主にして男爵家の再興を図らないかと、ゼンベーおじいちゃんに誘いかけたアルト。
また何か、面白い事を企んでいるようで、楽し気な顔をしているよ。
「はあ、しかし、この国では今まで女性の領主など聞いたことがございませんぞ。
領主に男の子がいない場合、一族から養子を取って継がせるか、娘婿に継がせるかが慣例ですな。
男子がいない場合、女子でも継げることにはなっていますが、国はそれを良しとしないのですわ。
それに、倅が妖精さんの勘気に触れた時点で、この家はお取り潰しになるのではと思いますがのう。
今の王は保身に長けた方なので、さっさとうちを取り潰して事を収めると思いますが。」
そうだね、あの王様なら、アルトが監督不行き届きで詰め寄った時点で男爵家を取り潰しにかかるだろうね。
自分の責任を逃れることばかり考えている小物だから。
「その点は大丈夫だから安心して、私が男爵家の存続とライムの領主就任を承諾させるから。
あの小物、それこそ、我が身大事だからウンと言うはずよ。」
アルトったら、また王様を脅すつもりだよ。
どうせ王様が不満を漏らそうものなら、『プチっと殺っちゃうわよ。」って凄むんだろうね。
「でも、私に領主など務まるのでしょうか?
自慢ではありませんが、私、生まれた時から農民のような生活をしてたのですよ。
それに、妖精さんは便宜を図れと言いますが、うちには図れるような便宜はないかと。
無茶を言われても困りますよ。」
セバスおじいちゃんもライム姉ちゃんも、男爵家の存続にこだわっていないから食い付いて来なかったよ。
特に、ライム姉ちゃんは賢い。
アルトに対する禁句、『何でもします。』って言わなかったから。
それどころから、無茶を言われても困るって牽制しているもん。
「平気、平気、領主なんて領民に慕われていれば何とかなるものよ。
中途半端に頭が良い領主よりも、歌の一曲でも歌えた方が役に立つくらいよ。
便宜を図れと言っても、無茶なお願いをするつもりは無いわ。」
なんて調子の良い事を言いながら、カラカラと笑うアルト。
「は、はぁ…、なんでそこに歌が出て来るのかは分かりませんが。
そうおっしゃるのであれば。」
ライム姉ちゃんはいまいち釈然としない様子だけど、取り敢えずはアルトの話を聞くことにしたんだ。
なので、アルトが考えている事をゼンベーおじいちゃん達に話したの。
「まあ、うちの倅に関しては自業自得なので諦めますわ。
あの騎士たちについても、全員新参者ですし、みな一人身なのでお任せします。
それにしても、伝承通りですな、妖精さんを怒らせると怖いものです。
くわばら、くわばら。」
アルトの計画を聞き終えたゼンベーおじいちゃん、そんな言葉を口にして少し引いてたよ。
**********
そして、翌日。
「また、そなた等か、勝手に入ってきおって。
ここは、王の執務室、おいそれと平民が立ち入って良い場所ではないぞ。」
アルトの『積載庫』から外に出されると、そこは王様の部屋だった。
どうやら、取り次ぎが面倒なんで、正面からではなく王様の部屋の窓から入ったみたい。
「そんな細かいことは、どうでも良いわよ。
あんた、今日という、今日は許さないわよ。
あんた、分かっているのでしょうね、二百年前の誓約。
この国の者は一切私に迷惑かけないと誓約しているはずよ。
そして、何かあった時は、王様であるあんたが責任を取るって。」
アルトったら、王様の苦言は無視してまくし立てたんだ、強く叱責するような口調で。
本当はそんなには怒っていない癖して、『先手必勝』と言う奴だね。
「ひぃ…!
儂がいったい何をしたと言うんだ。
まさか、儂に詰め腹を切らせに来たと言うのか。」
王様は怯えっちゃって、すっかりアルトのペースにハマってしまった感じだよ。
そんな王様の前に、アルトは『積載庫』から十一人の男を無造作に放り出したの。
ハテノ男爵とその騎士団員十人を。
「いったい、こ奴らは何者だ。
こ奴らが儂と一体何の関係があると言うのだ。」
目の前に蹲る男達を指差して王様が尋ねてんだけど。
「おや、これはハテノ男爵ではありませんか。
ハテノ男爵が、何かアルト様にご無礼でも働きましたか?」
王様の後ろに控えていたモカさんはハテノ男爵を知っていたみたい。
「ハテノ男爵? 何モンだ、そいつは?」
「陛下、常々申し上げているではないですか。
陛下はこの国の隅々まで目を配る義務があるのですぞと。
当主の名前と顔、それに領地の特産品等は覚えておくように進言したでしょう。
この国に領地を有する貴族家は百家にも満たないのですから。
そもそも、貴族は王の監督下にあるのですよ。
当然、貴族がアルト様にご迷惑をおかけしたら、陛下に責任が問われるのです。
きちんと、貴族の情報を把握して、手綱を取っておかないとダメでしょうが。」
王様の一言はやぶ蛇だったみたい、モカさんからコンコンと説教を受けるハメになったよ。
モカさんはこんな時のために、王様に代わって全ての貴族の情報を記憶しているみたいだね。
王様に対してお小言を言い終えたモカさんは、アルトに向かって尋ねてきたんだ。
「それで、ハテノ男爵がいったいどのようなご無礼を働いたのでしょうか?」
「この男、よりによって私の身内を捕らえようとして騎士団を送り込んできたの。
別に私の身内が不始末をした訳では無いわよ。
捕らえてオークションで金に換えようとしたのよ。
騎士団を返り討ちにして、男爵の所に詫びを入れさせに行ったんだけどね。
詫びを入れるどころか、私の身内を捕らえるのを諦めようとしないの。
挙句、私に乱暴を働くしね。
ねえ、これってどうなってるのよ。
貴族ってこいつの監督下にあるのよね。
当然、私に手出し無用って徹底してるんじゃないの?
私、この昼行燈に制裁を加える権利があるわよね。」
モカさんの問い掛けに応えて簡単に事情を説明したアルト。
その上で、昼行燈と呼んだ王様に制裁を加えると宣言したんだ。
「ひっ!」
またもや声にならない悲鳴を上げた王様、青い顔をしちゃったよ。
「まあ、まあ、アルト様、陛下をあまり苛めないでください。
これでも夕暮れの行燈くらいにはマシになって来てるのですから。
時に、ハテノ男爵、アルト様はこうおっしゃられているが本当かね?」
アルトを取り成したモカさん、うずまっているハテノ男爵の横にしゃがんで尋ねたの。
「俺は悪くないぞ!
この羽虫、幻の耳長族を匿ってるんだ。
絶滅したと思われていた耳長族が生き残っていたんだぞ。
しかも、俺の領地にいると言うじゃないか。
欲しいって奴はいっぱいいるんだ、捕らえて売り払って何が悪い。
なんで、みんな、こんな羽虫にペコペコしてるんだよ。
さっさとその羽虫を締め上げて、耳長族の隠れ家を吐かせれば良いだろうが。」
ハテノ男爵は、砕かれた腕の痛みに顔を歪めながらも、自分に非は無いと主張したんだ。
ハテノ男爵の言葉を聞いた王様なんて、もう顔面蒼白だよ。
「黙れ貴様!もうそれ以上口を開くな!
貴様が一言発するごとに儂の命がどんどん縮んでゆくのだぞ。
儂はもう、生きた心地がせんわ!」
王様は、必死になってハテノ男爵を黙らせたよ。
「なるほど、アルト様が身内とおっしゃるのは耳長族でしたか。
確かに、欲に目が眩んだ者が簡単に諦めるとは思えませんな。
アルト様が、今日ここへ来られた目的は分かりました。
勅令で全国の貴族に、耳長族への手出し無用を命じろとおっしゃるのですね。
そして、王の責任においてそれを徹底しろと。」
「さすが、モカね、察しが良いわ。
まあ、それに付随して幾つかお願いがあるのだけど。
それは、大したことではないわ。
今日こうしてやって来た肝は、耳長族が大手を振って街を歩けるようにしたいの。
そのために、国に『耳長族には手出し無用』を徹底してもらおうかと思ってね。
貴族に、冒険者、それに欲深な商人、耳長族を捕らえようとする愚か者は沢山いるわ。
そんな輩を厳しく取り締まって欲しいのよ。
ちなみに、今確認できている耳長族の里は私の保護下にあるものだけ。
つまり、目にする耳長族は全て私の身内だからね。
王様、私の身内に手出しする愚か者が出たら覚悟しなさい、一蓮托生よ。」
モカさんの言葉に頷いて、アルトは王宮を訪れた一番の目的を明かし、王様に釘を刺したの。
王様は、それに不満があるようで。
「そんなバカな、儂に一々そんな末端まで取り締まれと言うのか。
そんなの無理に決まっておるでないか。
儂は一商人が仕出かした不始末まで責任を被るのは御免だぞ。」
「バカね、何のために法があるのよ。
なにも、あんたに直接取り締まれとは言ってないでしょう。
あんたは法を定める権限があるんだから、法で厳しく禁じるの。
そして、その取り締まりは貴族なり、騎士団なりにさせなさいよ。
あんたのするべきことは法を定めること。
そして、貴族や騎士団員、自らが法を守るように徹底させること。
取り締まりに当たる貴族や騎士団員が手を抜かないように監督することよ。」
アルトが王様の不満に対してそう諭すと。
「陛下、アルト様のおっしゃる通りですぞ。
さっそく、陛下の勅命をもって、『耳長族に対して危害を加えること』を一切禁じましょう。
勅に反した者は、事情の如何を問わず死罪で良いでしょう。
それと、貴族には領内の者が耳長族に手出ししないように取り締まる義務を課します。
王家の直轄領については、騎士団に取り締まりを命じます。
貴族なり、騎士団なりがその責務を怠った場合、最終的には陛下に責任を取ってもらいましょう。
そうならないように、陛下は貴族や騎士団をしっかり監督してくださいね。」
モカさんが、アルトの言葉に同調して話を進めちゃったの。
「儂、責任が増すばかりで、ちっとも役得が無いではないか…。
王様ってのは、国で一番偉いのであろう。
ふんぞり返って威張っていれば良いのではないのか。」
王様、涙目でそんな愚痴をこぼしていたよ。
お読み頂き有り難うございます。
 




