第131話 年少組と、アブナイ(?)男達
さて、売れ残るんじゃないかと心配していた三人が真っ先に旦那さんを決めて。
シンシンさん達、『STD四十八』の連中とほぼ同じ歳のお姉さん方も次々とお相手を決めて行ったんだ。
後は、里で一番若い二十人、こんなことになるとは今日まで思いもしなかったからね。
みんな、里の存続のために父ちゃんの赤ちゃんを宿しているの。
そんな、お姉ちゃん達にお相手が見つかるのかは、里長も心配だったんだ。
だって、父ちゃんの子供の父親になってもらわないといけないんだから。
お姉ちゃん達の方も遠慮しているのか、自分の方から積極的に話しかけに行く人はいなかったよ。
広場に散らばって会話を弾ませているカップルたちを、二十人は広場の片隅で眺めていたんだけど。
「あの、初めまして。
ボク、ギンと申します。
良かったら、少しお話しませんか?」
ギンは、同年代のグループに脇目を振らず広場の隅にいる二十人の方へ寄って来て。
ミンミン姉ちゃんくらいのお姉さんに声を掛けたの、ギンより多少年下って感じで不自然な感じじゃないね。
少なくとも、父ちゃんとミンミン姉ちゃんの夫婦よりは各段にお似合いの年頃だよ。
「あっ、はい、私、ランランと申します。
お誘いいただけるのは嬉しいのですが…。
よろしいのでしょうか。」
ランラン姉ちゃんは、少しだけポッコリとしてきたお腹を撫でながら言ったの。
ランラン姉ちゃん、ミンミン姉ちゃんと同じくらいの歳なんだけど。
元気一杯のミンミン姉ちゃんに比べ控えめな感じで、この場がお見合いの席だということで遠慮しているみたい。
「はい、ランランさんを一目見て虜になったのです。
その慈愛に満ちた穏やかな顔でお腹を愛おしそうに触れる姿。
慈母と言う言葉は、まさに、ランランさんのためにあるようです。
とても温かな母性を感じました。
ボクも赤ちゃんのように甘えさせて欲しいです。」
へっ、今、こいつ、最期に何か変な事を言わなかったか。
すると、タロウが。
「あいつ、ランランさんに『バブみ』を感じてやんの。」
「『バブみ』? 何それ?」
「『バブみ』ってのはな、俺の故郷の言葉でよ。
年下の女の子に母性を感じて、赤ん坊みてえに甘えたいと思う気持ちを言うんだ。
ランランさんって、まだ子供みてえな容姿をしているだろう。
そんな子が、お腹の赤ちゃんを愛おしそうにしてる姿に萌えを感じてるんだな、あいつ。
かなりの上級者とみたぜ。」
タロウったら、ギャップ萌えがなんたらとか訳の分かんないことを言ってた。
いまいちピンとこなかったけど、特殊な趣味嗜好だと言うことは分かったよ。
そんなギンとランラン姉ちゃんだけど、気があったみたいで話が弾んでいるみたいだった。
「いやだ、ギンさんったら、面白い。
私で良ければ、幾らでも甘えさせてあげますよ。
ほうら、ギンちゃん、よちよち、良い子ですねって。」
控え目な雰囲気のランラン姉ちゃんも、打ち解けて来たのかそんなことを言ったと思ったら。
敷物を敷いた広場にならんで座っていたギンを膝枕するようにして、頭を撫で始めたんだ。
本当に赤ちゃんをあやすように。
「ばぶばぶ。
ボク、ランランおかあさんに甘えられて嬉しいな。
ボク、これからずっとランランおかあさんに甘えたい。
この子のパパになったらダメですか?」
ギンは、膝枕された姿勢のまま、ランラン姉ちゃんのお腹を撫でて言ったんだ。
すると、ランラン姉ちゃんは父ちゃんの方を見て言ったの。
「そう言って頂けるのは嬉しいのですが…。
よろしいのですか、この子、あの方の子なのですけど…。
本当にお父さんになってくれますか。
自分の子供のように愛しんでくださいますか。」
「もちろんです。
この子のことは、実の子だと思って愛します。
ランランおかあさんも、ボクとこの子、分け隔てなく甘えさせてくださいね。」
おい、それで良いのかと思ったけど、ランラン姉ちゃんは本当に嬉しそうだったの。
「じゃあ、いつかの日か、この子と、ギンさん、…。
それからギンさんの赤ちゃんをみんないっぺんに可愛がっちゃいますね。
こうして、ナデナデして、『いいこでちゅねぇ』って。」
ランラン姉ちゃんは、ギンからのプロポーズを受け入れると膝枕したギンの頭をナデナデしたんだ。
本当に子供をあやすように。
まあ、二人がそれで良いのならね…。
「あいつ、王都にいた時から、妊婦さんばっかり相手していたからな。
『年下の妊婦さんがいたら嫁にしてえ』とか言ってたけど、…。
まあ、夢が叶って良かったんじゃねえ。」
ランラン姉ちゃんに甘えるギンを見て、他の連中がそんなことを言ってたよ。
本当に大丈夫なのか、この男…。
**********
ギンとほぼ同時に、もう一人、脇目も振らず年少組の所にやって来たニイチャンがいたんだ。
『STD四十八』の連中の中でも、一番年長に見えるニイチャン。
とは言え、全員二十歳前だと言うから、そんなに年がいってる訳じゃないけど。
「あなたを一目見た時から、この人しかいないと思っていました。
ボク、ケンと申します。
僕のお嫁さんになってもらえませんか。」
ケンはそのお姉ちゃんの前に跪くと、いきなりプロポーズしたんだ。
何の会話を交わすこともなく、いきなりだからビックリしたよ。
でも、もっと驚いたのは…。
ケンが跪いたというのは、何も格好つけてじゃないんだ。
跪かないと、お姉ちゃんと面と向かって話すことが出来ないから。
プロポーズをするのに見下ろすように言うのは失礼だもんね。
ケンがプロポーズした相手というのは、…。
「あの…、それは本当に私に向かって言っているのでしょうか?
からかっているのではなく?
こう言っては何ですが、私、見ての通り子供のような体つきです。
男の方って、ポンキュッっていう体つきが好みなのでは…。」
当のプロポーズされたお姉ちゃんは当惑した顔をしてたよ。
だって、そのお姉ちゃん、村で最年少、三十歳を過ぎたばかりで…。
成長の遅い耳長族のこと、見た目はおいらより少し年上にしか見えないんだ。
幾ら、おいらの所へ帰ってくるための条件だったとはいえ。
そんなお姉ちゃんのお腹を膨らませちゃった父ちゃんを、いかがなものかと思ったもん。
ペッタンコの体形にお腹だけ少し膨らんでいるのが、すっごく不自然に見えるよ。
そんなお姉ちゃんにケンは。
「いえ、あなたな無垢な美しさに、ボクは魅せられてしまいました。
どうか、お名前をお聞かせ願えますか?」
凄くマジな表情で迫るケンに戸惑いながらも。
「私は、リンリンと申します。
見ての通り、この里の者の中では最年少です。
とは言え、年齢は三十一歳なので、ケンさんよりは大分年上かと…。
それと、私もお腹の中に赤ちゃんがいるのですが。
それはご存じなのですよね。」
「それは勿論です。
むしろ、ご褒美です。
あどけない少女のような容姿にポッコリと膨らんだお腹。
すごい、そそります。
いえ、間違えました。
とても清純そうなリンリンさんが、小さな命をその身に宿しているなんてとても神聖さを感じます。
まるで、伝説の中にある聖母様のようです。」
なんか、おいらの耳には変な言葉が聞こえたような気がするけど。
ケンは、自分の言葉を訂正すると、リンリン姉ちゃんを称賛したんだ。
『STD四十八』の連中がひそひそと話していたよ、当人達二人に聞こえないように。
「あいつなら、絶対にあの子にいくと思ったわ。
あいつ、真正の小っちゃい子好きだもん。」
「ああ、カタギに戻る寸前にはあいつの趣味が知れ渡ってたよな。
王都じゃ、あいつが町を歩いていると。
あのくらいの歳の娘を持つ親は、みんな娘を家の中に隠したもんな。」
「そうそう、最近、好みの小っちゃい娘が釣れないってボヤいてたよな。
自分好みの小っちゃい女の子を正々堂々と嫁に貰えるんだもん。
しかも、当面容姿が変わらないときたら行くっきゃないよな。」
なんか、ケンって、アブナイ趣味をしているようだけど。
大丈夫なの、それ?
その後も、ケンの積極的なアプローチは続き…。
「あの、ケンさん…、ケンさんは今の私の容姿が気に入ったようですが。
分かっています?
私だって、成長するんですよ。
私が大人の体形になったら、もう要らないと言われても困りますし。
浮気したら怒りますよ。」
どうやら、リンリン姉ちゃんも話を続けるうちにケンのアブナイ趣味に気付いた様子だよ。
「安心してください。
リンリンさんが、ボクの許容範囲を超える頃には。
ボクの方が枯れていますから。
生涯リンリンさん一人を愛し続けることを誓います。」
その言い分、良いのかと思ったけど…。
「はぁ…。その言葉、嘘だったら許しませんよ。
まあ、この機会を逃したら私の旦那さんになってくれる人が現れるか分かりませんし。
ケンさん、私好みの男前なんで、私もちょっと良いかなって思っていたんです。
約束ですよ、ずっと愛してくださいね。」
リンリン姉ちゃんはとうとうケンに根負けしちゃったんだ。
さて、ギンとケンの二人が年少のお姉ちゃんを射止めると、実は年下好みを隠していた奴らもいたようで。
『STD四十八』の中から何人かが、年少のお姉さんの所へやって来て話しかけてきたんだ。
誘われたお姉ちゃんの中には、お見合いの前に「一人で赤ちゃんを産んで、育てられるか不安だったのよね。」と言っていたお姉ちゃんもちゃんと含まれていた。
夫婦になって、一緒におなかの赤ちゃんを育ててくれると言われて凄く喜んでいたよ。
**********
そんな感じで、集団お見合いはだいたい成功したと言って良いみたい。
最初にお嫁さんを決めたサブが三人のお嫁さんを貰うことになったのは特別として。
『STD四十八』の連中の全員が一人ずつお嫁さんを迎えることになったから。
ところで、男の人との結婚を希望してここへ来た耳長族のお姉ちゃんは五十三人いたんだよ。
『STD四十八』の連中のお嫁さんになったのは、五十人ちょうど。
三人、あぶれちゃった。
元々、一夫一妻を前提にすれば五人あぶれる計算なんだから、三人で済んで良かったとの見方もあるけど…。
「ねえ、そこの三人、何で私のモリィシーに引っ付いているの。
モリィシーは私だけの旦那さんよ。
里長だって認めてくださったのだから。」
ミンミン姉ちゃんが不満を漏らしているように、父ちゃんにあぶれた三人が引っ付いていた。
「だって、私、あんな若い子より、モリィシーくらいの渋い男が好みなの。
それに、あの子達、今は更生したって言って礼儀正しいのだけど…。
なんか、凄く遊んでいたようで、なんかイヤ。
その点、モリィシーは真面目だし。
私だって、お腹にモリィシーの赤ちゃんがいるのよ。
私も奥さんにしてもらっても良いじゃない。」
「私も、モリィシーが良いなって思ってたんだけど。
先が長くないって聞いてたから、…。
残り少ない時間をミンミンと二人で過ごしてもらおうと思って何も言わなかったの。
でも、モリィシー、完治したんでしょう。
だったら、私も立候補しても良いかなって。」
なんて言って、父ちゃんのお嫁さんになるって言ってたよ。
もう一人のお姉ちゃんなんて、無言で父ちゃんの腕を抱きしめているし…。
何があっても、離さないって感じで。
「取り敢えず、なんだ。
俺は、ミンミンが大切だから、ミンミンの気持ちを最優先するよ。
四人でよく話し合ってくれ。」
父ちゃんってば、無責任にミンミン姉ちゃんに丸投げしちゃったよ。
三人とも父ちゃんの子供がいるから無碍にできないのは分かるし。
命の恩人のミンミン姉ちゃんのご機嫌を損ねる訳にもいかないのは分かるけど。
丸投げは無責任じゃないの。
お読み頂き有り難うございます。




