第128話 訪問、耳長族の里
耳長族のお姉さんたちの旦那さんに『STD四十八』の連中はどうかと、突飛なこと言い出したアルト。
ミンミン姉ちゃんは、アルトの言葉に余り乗り気では無さそうだよ。
「そもそも、四十八人もの人間の男を里長が迎え入れてくれるとは思えません。
元々、冒険者だった者だと知れば、尚更ウンと言うかどうか…。」
そうだよね、人間の目から隠れるように里を作っているんだもの。
五十人近い人間を迎え入れるのは抵抗があるよね。
「そっ、じゃあ、里長に直接聞いてみましょうか。
ミンミンさん、ちょっと、里まで案内してくれる。
あなたも、人間の町で出産するより自分の里の方が安心でしょう。
私が送ってあげるわ。」
アルトは『積載庫』の中に乗せていくと言っているんだけど。
父ちゃんとミンミン姉ちゃんはそれを知らない訳で。
「アルト様、ミンミンはもう産み月でいつ生まれるか分からないものですから。
これから、耳長族の里までご案内するのは難しいかと。」
父ちゃんが、ミンミン姉ちゃんの体を気遣って言ったんだ。
「あなた達はベッドで寝ていても良いわ。
快適な空間で、里まで送ってあげるわよ。」
「あっ、いいなー。
アルト姉さんの『特等席』か、王都からの帰りは快適だったぜ。
俺もまた乗せて欲しいぜ。
そうだ、俺も耳長族に連れて行ってくれよ。
女の人だけの里だなんてロマンだよな。」
タロウったら、図々しく自分も耳長族の里に連れて行けなんて言ってるの。
王都へ行った時は、アルトったらタロウに意地悪して『二等席』に乗せたんだけど。
帰りは、シフォンが可哀想だからって『特等席』に乗せてあげたんだ。
本当は『特等席』が幾つもあると知って、酷い差別だって不満を言ってたけど。
その快適さに、すっかり魅せられちゃったみたい。
「あっ、それならお姉さんも行く。
タロウ君てば、エッチな顔しているんだもん。
タロウ君が浮気しないように監視してないと。」
シフォン姉ちゃんまで一緒に行くと言い出したよ。
「取り敢えず、今私の『積載庫』の中に連中をしまってあるから。
これから、『ハニートレント』を狩らせるんで様子を見ておいて。
中々の男前だし、トレントを楽々狩っているんで頼りになると思うわ。」
『特等席』の窓から外が見えるからね。
『STD四十八』の連中がトレントを狩っている様子を観察してろって、アルトは指示したの。
容姿や態度をよく見ておけって。
結局、アルトに押し切られて、ミンミン姉ちゃんは耳長族の里にアルトを連れて行くことを承諾したんだ。
おいらとタロウ、それにシフォン姉ちゃんも一緒に行くことになったよ。
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そして、アルトの『積載庫』、その『特等席』で。
「あれが、アルトのお気に入りの『STD四十八』の連中。
元々、王都でロクでもない冒険者をしていたんだけど。
あの見事な連携がツボにはまったらしくて。
芸人にしようって言って連れてきたんだ。
上手く連携して、トレントを狩っているでしょう。
あんな風に軽やかに踊らせながら、歌を歌わせたいってアルトは言ってるの。」
『STD四十八』の連中がハニートレントを狩る様子を見ながら、おいらは連中のことを説明したんだ。
「本当に器用ね、トレントの攻撃を上手く躱しながらあんな風に攻撃するなんて。
確かに、踊っているように見えるわね。
アルト様が言うようにみんな男前、あれなら里の娘達も喜ぶと思うわ。
冒険者をしていたって言ってたので、どんなならず者かと心配したけど。
見た目、普通の人なんで安心したわ。
でも、みんな、まだちょっと青いわね。
私はモリィシーくらいの渋い男の方が好みかな。」
ミンミン姉ちゃんはソファーで父ちゃんに寄り添いながら、そんなことを言ってた。
お熱いね。
『STD四十八』の連中は、取り敢えずミンミン姉ちゃんのお眼鏡に適ったみたい。
そして、ノルマのトレント十体を倒した『STD四十八』の連中だけど…。
何の説明もないまま、アルトの『積載庫』に詰め込まれたんだ。
耳長族の里に行くと教えて期待されると困るから。
里長が、『STD四十八』の連中と耳長族の娘の結婚を許してくれるか分からないからね。
で、アルトが全力で飛ぶこと数時間、あっという間に耳長族の住む森に着いたの。
「こんな、近くの森に『森の民』の里があるなんて知らなかったわ。
五十年ほど前のスタンピードの後、こっちの方には来てなかったからね。」
森の入り口で、アルトはそんなことを呟いていた。
森の入り口までは、事前に説明を受けたアルトが勝手に飛んで来たんだけど。
ここから先は、ミンミン姉ちゃんの案内が無いと里の場所がわからないみたい。
ミンミン姉ちゃんの話では歩いて一時間くらいだって。
あんまり大人数で耳長族の里に押し掛けると警戒されちゃうかもしれないので。
歩いて里に入るのは、ミンミン姉ちゃんと父ちゃん、それにおいらだけにしたの。
「タロウ達は、二人でいちゃついてれば不満は言わないわ。
トイレもベッドもあるからね。
ベッドを汚さないように注意だけしておいたから、問題ないでしょう。」
と言って、『特等席』に入れたままなんだ。
『STD四十八』の連中に至っては、何時ものように『獣舎』に放り込んであるよ。
勝手にステップの練習でもしているでしょうだって。
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ミンミン姉ちゃんのお腹の子に気遣いながら、三人で歩くこと小一時間。
ミンミン姉ちゃんの言葉通り、耳長族の里に到着したんだけど…。
「ここが里なの?
小さな空き地に泉が一つ湧いてるだけだけど…。」
おいらの目の前には、広場と言うには狭い空き地が一つ、家なんか見当たらないの。
おいらが戸惑っていると…。
「あら、ミンミンじゃない。
どうしたの?
人間族の町で子供を産んで。
子供が動かせるようになるまで町で暮らすんじゃなかったの?」
頭の上から声が降って来たんだ。
おいらが、頭上を見上げると…、あった、…木の上に家が。
なんと、耳長族の家って木の上にあったの。
太い木の枝の上に床を載せるようにして建ててあるんで驚いたよ。
同じような家が一本の木に一軒建ってた、百軒くらいあるのかな。
まさか木の上に家があるとは…、本当に森の木と共存しているんだ。
「うん、無事、モリィシーの娘、マロンちゃんに会うことが出来たの。
それでね、里長に相談があって、急遽戻って来たんだ。」
ミンミン姉ちゃんが声の主に返事をすると、あちこちの家から耳長族の女の人が顔を出したよ。
本当に女の人ばっかり。
そして、一際太い木の上から一人のお婆ちゃんが降りてきたんだ。
長寿の耳長族のお婆ちゃんだから、びっくりするくらいの歳なんだろね、三百歳とか。
「これは、アルトローゼン様ではないですか?
お久しゅうございます。
もしや、アルトローゼン様が『妖精の秘術』でミンミンめを送り届けて下さったので?」
お婆ちゃんは、アルトの事をみて恭しく頭を下げるとそんなことを言ったんだ。
どうやら、このお婆ちゃんが里長みたい。
「あら、あなた、私の事を知っているの?」
「はい、私がまだミンミンくらいの歳の頃、何度かお目に掛ったことがございます。
アルトローゼン様の森の近くに里を構えていた一族の里長の娘でしたので。」
どうやら、昔、アルトの森の近くに住んでいたみたい。
でも、お婆ちゃんがアルトの姿をみてすぐにわかるほど、アルトって見た目が変わっていないんだ。
このお婆ちゃんがアルトと会ったのは、ミンミン姉ちゃんくらいの歳の時って…。
ますます、アルトの年齢が分かんなくなったよ。
「あなた、あの村の里長の娘だったの。
ごめんなさいね、あの村が冒険者のゴミ共に襲われた時に助けに行けなくて。
あいつらの襲撃がいきなりだったものだから気付くのが遅れたのよ。
慌てて駆け付けた時には、里はもぬけの殻だったの。」
「いえいえ、冒険者は狡猾な連中です。
夜陰に塗れて、こっそりと忍び込んできて、いきなり娘達の口を塞ぐのです。
粗方、若い娘を捕まえると年寄りを殺して里に火を放つので。
外の者が気付くのは、その時になってからなのです。
アルトローゼン様に非はございません。」
家に押し入られる前に、冒険者が村に侵入したことに気付いた里長は家族を起こして必死に抵抗したんだって。
捕まっていた娘も、出来る限り奪い返して、人間の町とは反対の方向へ逃げたって。
最初は、知り合いのいる耳長族の里の身を寄せたりしていたらしいけど。
次々と冒険者に襲われてその度に逃げることになったみたい。
そして、辿り着いたのが山を挟んで人里から反対側になるこの森なんだって。
逃げるのびる間に、同じく冒険者の襲撃を逃れた耳長族の人達を保護していたら。
ここに着いた時には、一つの里を創るくらいの人数になっていたんだって。
そこまで話したところで、
「里長様、ただいま戻りました。
おかげさまで、娘マロンに生きて会うことが叶いました。
色々とご報告したいことがありますので、場所を移しませんか。
足腰の弱った里長様や身重のミンミン姉ちゃんに立ち話は厳しいでしょうから。」
父ちゃんが、里長とミンミン姉ちゃんの体を気遣って声を掛けたの。
それで、里長の家に場所を移すことになったんだ。
お読み頂き有り難うございます。




