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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第六章 帰って来た辺境の町、唐突に姿を現したのは・・・
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第120話 再利用の仕方は…

「それで、姉さん、俺達はこの町で何をすればよろしいんで?」


 アルトの『積載庫』から解放された『STD四十八』の一人が問い掛けると。


「あんた達には、その剣舞を見せ物にしてもらうわ。

 四十八人もいて、一人の相手に同時に斬り掛かるなんて簡単なことじゃないわ。

 敵の前に密集しちゃたら、普通攻撃できないでしょう。

 同士討ちになるのがなるのが関の山よ。

 それを、軽やかなステップで絶妙に立ち位置を代えながら、連続で攻撃するなんて。

 見世物としてはとても綺麗で、目を楽しませてくれたわ。

 ここでしばらく、その技に磨きをかけて王都に乗り込むわよ。

 華麗な剣舞を見せる芸人集団としてね。」


 アルトは、『STD四十八』を芸人にするため、ここまで連れてきたみたいだよ。

 ここで、練習して王都でメジャーにするんだって…。


 でも、こいつら、見た目に厳ついニイチャンだよ。

 あんまり人気出そうじゃないんだけど…。


「ねえ、アルト、確かにあの連続攻撃は見てて楽しかったけど。

 このニイチャン達、強面の人相をしてるよ。

 芸人には向いてないんじゃない?」


 おいらは、疑問を率直に尋ねてみたんだ。


 すると、アルトは。


「ねえ、そこのあんた、今、歳は幾つ?」


 唐突に『STD四十八』の一人に向かって問い掛けたんだ。すると、…。


「俺っすか、俺は今十八っす。」


 えッ、マジ? とても十八には見えないよ、どう見ても二十四、五はいってるよ。


「こいつらはね、わざと威圧的な雰囲気を作っているのよ。

 カタギに舐められたら負けだと思っているからね。

 タロウが怖がっているパンチと呼んでいる髪型もそう。

 顔なら、こめかみの剃り込とか、殆どない眉とか。

 他にも、肩をいからしていたりね。」


 そんな風に作った結果、こいつらは年より老けて見えるんだってアルトは言うの。

 だから、逆に愛嬌のある雰囲気だって作ることは出来るんだって。

 イケメンか、ブサメンかは別としてね。


 アルトは『STD四十八』の連中に傾注するように声をかけると。


「今言ったように、あんたらには芸人になってもらうわ。

 イヤとは言わせないわよ。

 その為には、あんたらの持つ技を磨いてもらわないといけないけど。

 その前に、イメチェンをするわよ。

 まずは、その威圧的な髪型を何とかしなさい。

 眉は生え揃うまで剃るの禁止。

 顔にはいつも笑顔よ。

 言葉遣いも直してもらうけど、先ずは『俺』禁止ね、『ボク』にしましょうか。」


 アルトは、風体に関して矢継ぎ早に支持を飛ばしたの。

 この連中、ほぼ全員、タロウがパンチと言って恐れる癖の強い巻き毛をしてるの。

 アルトは、長めに伸ばして、こまめにブラシをかけるようにって指示してたよ。

 そうすれば、あんなにクルクルとは巻かないだろうって。

 それと、こめかみの剃り込みも禁止。

 どうせ歳がいけば剃り込みは深くなるよって、アルトは笑ってたよ。


 表情や態度も威圧的なのは止めろっていってた。

 肩の力を抜いて、顔はいつもヘレヘラ愛想良くしているようにって。

 言葉遣いも、乱暴な言葉遣いは禁止で丁寧な言葉遣いを心がけろって。


「姉さん、へらへら笑ってたら、世間の者に舐められちゃいますぜ。」


 今まで虚勢を張って暮らしてきた連中ばかりなので、そんな不満を漏らす輩もいたけど。


「あんたらも、無法者から足を洗ってカタギになったのよ。

 別に舐められたってかまわないでしょう。

 むしろ、道化て舐められた方が親しみを持たれて良いのよ。」


 アルトは全然取り合わなかったよ。

 アルトに、それまでのアイデンティティを全否定されたようで、連中戸惑ってた。


     **********


「それで、姉さん、俺達はここでどうやって食っていけばいいんすか。

 自慢じゃねえが、俺達は一文無しですぜ。」


 アルトの話が一段落すると、連中の中からそんな問い掛けがあったんだ。


「まずは、ここの区画にある十二軒の家があんたらの住処よ。

 ここは私が買い取ったから、一軒に四人ずつ分かれて住みなさい。

 それと、これ、当面の生活費、銀貨で八百枚入っているわ。

 これで生活に必要なモノを買い揃えれば良いわ。

 あとは…、そうそう、あんたらのレッスンに最適な仕事も用意してあるからね。」


 アルトは銀貨の詰められた大きな布袋を差し出しながらそう言ったんだ。


「おお、これは有り難てぇ。

 これで着替えが買えるぜ。

 ところで、仕事でやんすか?

 俺、自慢じゃねえっすが、今まで強請りと殺しくらいしかしたことねえんすけど。

 俺になんかできる仕事がありますかい?」


 強請りと殺しって、そりゃあ自慢できないよ。

 って言うか、大きな声では言えない事じゃない…。

 そんな、まっとうに働いたことのない輩の問い掛けに。


「トレント狩りよ。」


 アルトは端的に一言だけ言ったの。


「姉さん、それは殺生だ!

 俺達みたいに、魔物狩りの心得の無いモンにトレント狩れなんて。

 それじゃあ、死ねと言っているようなもんじゃねえか。」


 連中の一人が泡を食ったような顔で言ったんだけど。


「何を大の男が四十八人もいて、情けないことを言ってんの。

 誰も『死ね』なんて言ってないじゃない。

 トレントなんて、そこのマロンでも鼻歌まじりに狩れるわ。

 四十八人もいるのだから、自慢の連携技でうまく倒しなさいよ。

 あんたらの、売りの四十八人の連携を強化するいい練習になるわよ。

 まあ、実際にやってみれば良いわ、まだ時間も早いし。」


 そう答えたアルトは、有無も言わさず連中を再び『積載庫』に押し込んだんだ。


     **********


 そして、役場のお姉さんに対して。


「今の連中が、これからここに住む連中よ。

 これから、真人間にして芸人として売り出そうと思ってるんだけど。

 今は、見るからにガラの悪い連中でしょう。

 住民が多い区域に住んだら迷惑になるわ、だからこの町外れの区画で良いのよ。」


 最初に戻って、この区画を選んだ理由を説明したんだ。


「は、はぁ…。

 あの人達を芸人にするんですか?

 あまり、真っ当な人達には見えないのですが…。」


 お姉さん、『STD四十八』の面々を見て不安そうな顔をしているよ。

 まあ、今まで強請りと殺しを生業にしてきたって言うんだから当然か。


「平気よ、何か悪さするようなら。

 私がプチっと()っちゃうから、安心して。

 それより、奴らの剣技は見事よ。

 あまり実戦的じゃないけど、見世物としては中々のモノなの。

 剣舞だけじゃ飽きられちゃうから、歌も歌わせせようかと思って。

 あの躍るような軽やかなステップを踏ませながら、歌わせたら受けると思うわ。」


 踊って歌える剣技集団を目指すんだなんて勝手な事を言ってたよ、アルト。


「そうですか、くれぐれも無法を働かないように監視してくださいよ。

 この住宅街の中で殺しなんてあろうもんなら、ますます家が売れなくなっちゃいます。

 歩合制の給金が減っちゃって、パンと水だけの暮らしなんて、私は嫌ですよ。」


 なんて、ボヤキを零しながらお姉さんは役場に帰って行ったよ。

 お姉さんを見送ったおいら達は、町から一番近い『ハニートレント』の林に来たんだ。


 『STD四十八』を積載庫から解放したアルトは、目の前の林が全てハニートレントだと教えたの。


「姉さん、本当に俺達でトレントを狩れと言うんですかい。

 しかも、普通のトレントより、レベルの一つ高いハニートレントを?

 無理、無理、無理、絶対無理っすよ!」


 トレントを目の前にして、泣き言をいう輩が一人。


「泣き言を言わない。

 あんたらお得意の華麗な連携技とやらをトレントに見せてあげなさい。

 複数で攻撃を躱しながら、残りが攻撃すればあんた達は無傷で簡単に倒せるでしょう。

 良いこと、これは連携とステップのトレーニングよ。

 ついでに、一体倒せば『ハチミツ壺』と『スキルの実』で銀貨三千枚は稼げるのよ。」


 そんな風に叱咤するアルトだけど、連中、尻込みして動こうとしないの。

 業を煮やしたアルトったら、連中をもう一度積載庫に戻したと思ったら。

 アルトの持つレベル三積載庫の特殊機能を使って、連中をハニートレントの目の前に放り出したよ。


「ギャアアアアア、来るな、来るんじゃねえ。」


 地面に放り出された途端に、ハニートレントが持つ槍状になった八本の枝が襲って来たんだ。

 連中、最初は悲鳴を上げながら、必死になって剣で枝を弾いていたの。

 でも、そのうち、冷静に連携すれば枝を躱すのは難しくないと気付いたみたい。

 徐々に、上手く枝をいなすようになってきて、終いにはちゃっとトレントを倒してたよ。


「おお!やったぜ!

 初めてハニートレントを倒したぜ!

 なんだ、俺達、結構やるじゃないか。」


 さっきまで、泣きべそをかきながら闘っていたのに、一体倒して自信を付けたみたい。


「じゃあ、あと九体ほど倒してみなさい。

 これから、毎朝迎えに来てあげるから、一日十体がノルマよ。」


 でも、アルトに過酷なノルマを告げられて、連中絶望した顔をしてたよ。

 

お読み頂き有り難うございます。

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