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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第五章 王都でもこいつらは・・・
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第116話 ホント、しょうもないことを…

 『ソッチ会』、『コッチ会』と話を付けた後。

 『アッチ会』の連中を返そうとモカさんを訪ねたんだ。

 何処へって? もちろん、王宮だよ。


「おい、そなたら、ここを何処だと思っている。

 仮にも王の執務室だぞ。

 約束も無しにポンポン入ってきおって。」


 おいら達が王宮を訪ねモカさんに会いたいと言ったら。

 受付にいた人がビビっちゃって、そのままこの部屋に通されたの。


「何よ、文句あるの?

 あんたら国を治める者達がだらしないから起こった不始末を処理してあげたのに。

 何なら、監督不行き届きで、あんたに責任取らしても良いのよ。」


 アルトは不平を漏らす王様を睨みつけてそう脅したよ。


「ひぃぃぃ。」


 そんな情けない声を上げながら、王様ったら腰掛けていた椅子がから飛び退いて椅子の陰に身を隠しちゃった。


「王が立場もわきまえず、失礼なことを口にして申し訳ございません。

 して、今日はどのようなご用件でしょうか。

 わざわざお越しならなくても、急ぎでなければ屋敷でお伺いしたのですが。」


 モカさんが、アルトに詫びを入れながら用件を尋ねて来たんだけど…。

 『立場もわきまえず』って、王様って一応この国で一番偉い人だよね。それで良いの?


「ああ、昨日借りていたモノを返そうかと思って。

 屋敷で返されても迷惑でしょう、こんなもの。」


 そう言ってアルトは、その場に『アッチ会』の幹部六人を放り出したんだ。

 王の部屋にこんなモノ出されても、それはそれで迷惑だと思うけど。


「これは、『アッチ会』の幹部連中ですか。

 と言うことは…。」


 床に転がるゴロツキ共を目にしたモカさんは、言葉を最後まで言わずアルトの顔色を窺ったの。


「そう、『ソッチ会』、『コッチ会』とは話がついたわ。

 甘味料三品の悪質な価格吊り上げはやめさせた。

 それで、ちょっと相談なんだけど、『アッチ会』の摘発の方はどうなった。」


 視線で問うモカさんに答えたアルトは、『アッチ会』の捜査状況を問い返したの。


「『アッチ会』に関してはご協力を感謝します。

 おかげで、今まで尻尾を掴ませなかった悪事の証拠が多数出て来ました。

 少なくとも、ここに転がる六人は全員、縛り首ですな。

 特に酷かったのは、アルトローゼン様に呼び付けられるきっかけとなった『監禁部屋』の件ですね。

 足が付くような記録なんて残すような奴らじゃないんで、正確な事は分からないのですが。

 少なくとも毎年五十人以上新たに娘を拉致しているようですな、かれこれ数十年にわたって。

 従順で見栄えの良い娘は奴らが経営する風呂屋で働かせて。

 そうじゃない娘は、あの部屋に監禁されることになっていたようですね。

 そこで、ギルドの連中や依頼を受けている冒険者連中の欲望の捌け口にされてたようです。

 他にも、最近王都で問題になっている『俺だ、俺だ、詐欺』の黒幕も『アッチ会』だったようです。」


「『俺だ、俺だ、詐欺』? 何よそれ?」


 耳慣れない言葉にアルトが尋ねると。


「いえ、最近、王都にある衛兵の詰め所にこんな詐欺被害が多く届け出されてるんですよ。」


      *******


<被害者Aの証言>


 その日、俺が、酒場で飲んで良い感じに酔っぱらってると。


 「よお、俺だ、俺だ、久しぶりだな!もう、村を出て何年になるかな。元気にしてたか?」

 そんな風に声を掛けてきた奴がいてな。


 俺も、十五で村を出てから二十年、ガキの頃に遊んだ連中なんて覚えてなかったんだ。

 だから、相手が誰だかわからず、俺がぼーっとしてるとよ。


 「なんだ、おめえ、俺を忘れちまったんか。薄情な奴だな。ほれ良く一緒に木登りしただろうが。」


 そいつは、がっかりした顔をしてそう言うんだよ。薄情とまで言われちゃこっちもメンツが立たねえや。

 俺は、当てずっぽうで昔よく遊んで仲間の名前を言ってみたんだ。


 「おまえ、もしかして、隣の家のタコスケか?」

 「なんだ、覚えてるじゃねえか。そうだよ、おりゃあ、タコスケだ。ホント久しぶりだな。」


 そいつは、俺が名前を憶えていたことにえらく気を良くしてな。

 それから、意気投合してつい深酒をしちまったんだ。

 それでよ。


 「ところでよ、俺、この王都の大店で手代を任されてるんだが。

  今日、支払代金を届けるところでひったくりにあってよ。

  明日までにその金を用意しねえと大変なことになっちまうんだ。

  だから、金貸しから少しの間金を借りようと思ったんだがな。

  保証人を立てろって言われちまって、俺、王都じゃあんまり知り合いがいなくてよ。

  悪りぃが保証人になってもらえねえか。

  なあに、迷惑はかけねえよ、俺の給金なら半年もあれば返し終わるからな。

  名前を借りるだけだって。」


 なんてことを言うんだ。

 店の金をひったくられたことを店の仲間には言えないから、保証人を頼めないってな。

 その時は、俺も大分酔っぱらっててよ。

 注意力も散漫だったし、気も大きくなってたんだよ。

 つい、その場で、借金証文に自分の名前を書いて、血判まで押しちまったんだ。


 それから、三日ほどして、俺が商いをしている雑貨屋にな。

 いかにもスジもんって感じのガラの悪い連中が大挙して押しかけて来て言ったんだよ。 

 タコスケが借金を踏み倒して夜逃げしちまったから、今すぐ耳を揃えて代払いしろってな。

 そいつら目敏く店の手伝いをしている俺の娘に目を付けると。

 借金を返せねえなら、カタとして娘を貰っていくなんてぬかしやがった。


 逆らおうもんなら、袋叩きにされちまいそうなヤバい連中だったもんでよ。

 渋々、店の蓄えから借金を代払いしたよ、大事な娘を連れてかれちまう訳にはいかねえからね。


 それから、俺は証文にかかれたタコスケの家に行ってみたんだ。

 するってえと、夜逃げしたはずの家の中から声が聞こえるんだよ。

 俺は、カッときてよ、『話が違うじゃねえか!』って怒鳴り込んだんだ。

 中にいた二人はポカンとした顔で俺を見てたよ。タコスケとは似ても似つかぬ若夫婦が。


 で、タコスケが夜逃げしてからすぐに引っ越してきたのかと思って聞いてみたら。

 その若夫婦、結婚してからこのかた、もう二年もここに住んでいるって言うじゃねえか。


 俺、その時、初めて気付いてたんだ、『騙された!』ってな。


     *******


<被害者Bの証言>


 その日、俺は賭場で大当たりしてよ、いい気分で飲んでいたんだよ。

 するてぇと、


「よお、俺だ、俺だ、久しぶりだな!もう、村を出て何年になるかな。元気にしてたか?」


 そんな風に声を掛けてきた奴がいてな。


 俺も、村を出てから十年以上経つし、村の連中のことなんてとうに忘れちまってたよ。

 正直、誰だか分かんなかったが、その時の俺は上機嫌だったからよ。


「おお、本当に久しぶりだな。てめえこそ、元気にしてたか。」


 って、適当に話をあわせたんだよ。

 そいつ、話の巧い奴でな、おもしれえ話を聞かせてくるもんだから。

 つい、差し向かいで、酒が進んじまって、随分と深酒をしちまったんだ。

 良い感じに酔っぱらって来た頃によ、そいつは言ったんだ。


「よし、久しぶりに再会した記念に、二次会といこうじゃねえか。

 俺、良い店、知ってるんだ、とっておきの店だから期待しておけ。」


 俺も、博打で大儲けして懐が温ったけぇし、気が大きくなってたんだよな。

 そいつに誘われるまま、二次会に席を移したんだ。


 その店は、薄暗い雰囲気の店でよ、席に座ると…。


「あら、良い男、私、アケミって言うのヨ・ロ・シ・ク。」


 なんて言いながらえらいベッピンの姉ちゃんが隣に座って頬っぺたにチューしてくれたんだよ。

 俺、思ったね、こりゃいい店だって。


「ねえ、お客さん、お酒は何にいたします?

 わ・た・し・のお勧めはこれ、『ぴぃんどん』って言うの。

 美味しいお酒だから、是非、飲んでみて。」


 アケミちゃんが、俺の太ももをナデナデしながらそう言うもんだから。

 俺はその『ぴぃんどん』って酒を頼んだんだよ。


 しばらく、その『ぴぃんどん』を飲んでいると。


「ねえ、お客さん、私も『ぴぃんどん』、頂いても良いかしら。」


 俺に酌をしながら、アケミちゃんが言うもんだから、言われるままに『ぴぃんどん』を追加したんだよ。

 その頃には、俺も大分酔いが回ってきていることが自覚できたんだけどな。


「ねえ、お客さん、今お店で『旬のフルーツ盛り合わせ』がおススメなの。

 私、フルーツ大好きなの、ねえ、頼んで良いかしら。

 お願い聞いてくれたら、後でイイコトしてあ・げ・る。」


 アケミちゃんは、サワサワしながら俺の耳元で囁いたんだ。何処をって?そりゃ、なんだ…。

 博打で勝って気が大きくなってたことと、酔いが回っていたこと、それにスケベ心が加わったもんだから…。

 もう、言われるままに次から次へと注文したんだ。

 正直、この頃には、意識が朦朧としていてはっきり覚えちゃいねえんだ。


 それから、何時の間に寝ちまったんだろうと思いながら目を覚ますと取り囲まれてたんだよ。

 すげえ、怖そうな兄ちゃん達に。


「お客さん、ゆっくりお休みだったようだけど。そろそろ閉店の時間だ。

 これ今日の飲み代だ、銀貨五千枚、よろしく頼むぜ。」


 俺は目の玉が飛び出たね、銀貨五千枚と言えば一年分の稼ぎより多いじゃねえか。

 そう言われて出された請求書。

 見ると『ぴぃんどん』が一本銀貨二百枚と書かれててビックリしたぜ、それが十本も。

 いや、あの量の酒、十本も飲める訳がないだろう。

 『旬のフルーツ盛り合わせ』に至っては銀貨五百枚って書かれてたぜ。

 その他にも注文した覚えのないものがいっぺい書かれていてよ。

 極めつけが『奉仕料』の銀貨千枚、何だこれはと聞いたらよ。


「お客さん、うちのアケミと楽しくお話してでしょうが。

 そのサービス料ですよ。」


 納得がいかなかったが、強面の兄ちゃんにそう凄まれたら文句言えなかったぜ。

 俺は、取り敢えず、俺をここへ連れて来たあいつと折半しようと思って探したら。


 …いねえでやんの。


「お連れ様は、先にお帰りになりましたよ。

 飲み代はは全てお客様がお支払いになることになっていると申されまして。」


 俺、その時酔いがぶっ飛んだよ。そこで気付いたぜ、この店とあいつ、グルだって。

 結局、博打で儲けた金は全部持ってかれちまって、それでも足りなかったよ。


 そしたら、強面のニイチャンの後ろからオッチャンが出て来て言ったんだ。


「足りない分は融通しますよ。金利はトイチ、担保はお客様のお命です。」


 って、怖えーよ。

 俺は、ひとまず借りて、その日のうちに速攻で返したね。 


     *******


「ってな、事件が頻発しているのです。

 金をだまし取る手口は、千差万別なのですが。

 酒場で、「よお、俺だ、俺だ、久しぶりだな!」と話しかけてくる手口は共通しています。

 なので、巷では『俺だ、俺だ、詐欺』と呼ばれているのです。

 酒場で、『俺だ、俺だ』と声を掛けられたら詐欺を疑えと呼びかけてはいたのですが…。

 いかんせん、当事者が酔っぱらっていますのでね。」


 モカさんは実例を挙げてアルトに説明してたよ。

 この詐欺、悪質なのは酒場でほろ酔い加減の人に、もっとお酒を飲まして意識が朦朧としたところで金を騙し取ることなんだって。

 酩酊して、きちんとした判断が出来ない状態なんで、簡単に罠にハマるんだって。

 しかも、酔っぱらっているんで、ほとんどの人が実行犯の顔をハッキリ覚えてなくて捕まえられないんだって。


「でも、今回、『アッチ会』の本部から『俺だ、俺だ、詐欺』に関わっている者の名簿が出てきましたので。

 一網打尽に出来ましたよ。

 加えて、それに加担していた、悪質なぼったくり酒場と高利貸も摘発できたので助かりました。

 案の定、酒場も高利貸も、『アッチ会』が経営しているモノでしたよ。」


「呆れた、『アッチ会』ってそんな事までやってたの。

 美人局やら、『俺だ、俺だ、詐欺』やら、もう冒険者関係ないじゃないの。」


 モカさんの説明を聞いて、アルトは呆れてたよ。

お読み頂き有り難うございます。

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