第102話 やっぱり、お笑い集団でした
ゴロツキ五人を放りだしたら、いきなり激昂してしまった『STD四十八』の連中だけど。
やっと、おいら達が何者かに気付いたみたい。
「おい、もしかして、おまえらが昨日から俺達のシノギを邪魔してやがる連中か。
自由市場で、勝手に甘味料を売ってるっていう。
しかも、昨日、うちの若いモンを使い物にならなくしたのもおめえらだろう。」
『STD四十八』の一人が今更そんな事を言ったよ。
そんなの最初に気付こうよ、若頭らとか言う偉い人が出張って来たんだから。
「あら、おバカさん、やっと気づいたのかしら。
この粗大ゴミを返しに来たついでに挨拶しておこうと思ってね。
私達、しばらく、自由市場で甘味料を売らせてもらうからね。
王都へ来るまでに、たんとトレントを狩って来たから在庫は十分よ。
『砂糖』も、『ハチミツ』も、『メイプルシロップ』もね。」
また、アルトったら、そんな挑発するような言い方を…、趣味悪いよ。
言葉遣いはともかく、アルトは自由市場で甘味料の販売を続けると堂々といったの。
『スイーツ団』に対する宣戦布告のようなもんだね。
「てめら、何処の組織のモンか知らねえが。
堂々とシマ荒らしを口にするとは、良い根性してるじゃねえか。
おい、こんなガキ共だけで、俺達に歯向かうとは思えねえ。
とっ捕まえて、バックに何処の組織が付いてるか、キッチリ吐かせるんだ。
なあに、ちょっと痛めつけてやれば、すぐにゲロするだろうよ。
大人に向かって生意気な口を利くとどうなるか教えたれ。」
まあ、子供二人に、一見愛らしいアルトだもんね。
おいら達、三人しかいないとは思えないんだろうね。
でも不思議、町の人の中では妖精がこの世で最強だとかいう人もいるのに。
なんで、ゴロツキ連中ってアルトを見て妖精だって気付かないんだろう。
妖精が極めつけに危険な存在だということは、子供の頃に親から煩いくらいに言い聞かされるはずなのに。
冒険者になるような連中って、話して聞かせてくれる親がいなかったのかな。
それとも、子供の頃から親の言うことなんて聞かないひねくれた悪ガキだったのか。
「おい、あの羽虫、好事家の愛玩動物に良いんじゃねえか。
せっかくだから、傷つけずに捕まえようぜ。
舐めたことしてくれた落とし前に、売り払っちまおう。」
なんて言っている奴もいるしね…、ホント、おバカ。
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そして。
「悪い口を利く子供にはキツイお仕置きをしないとな。
見るが良いぜ、『STD四十八』の華麗なる連携攻撃を!」
なんてことを、声高々に叫びながらおいらとタロウに殴りかかってきたの、踊るようなステップで。
生け捕りにするつもりのようで、剣は抜いてないけど…。
八歳児を相手に二十人掛かりと言うのはどうなの。
てか、一人を相手に二十人掛かりは無理でしょうとツッコミを入れるところだったよ。
こいつら、おいらを取り囲んだと思ったら。
一人が殴りを入れると躍るようなステップでそこを退き、すかさず別の奴が殴って来るんだ。
まるで、ダンスを踊るように場所を入れ替わりながら、次々と繰り出されるパンチ。
どうやら、自分達一人一人は雑魚だと自覚しているようで、連携技を磨いたみたい。
おいら、反撃するのも忘れて『STD四十八』の攻撃に見入っちゃったよ。
だって、凄く上手に立ち位置を入れ替えて攻撃してくるんだもん。
今殴って来た人がいなくなったと思ったら、ほぼ同時に別の角度から別の人が殴ってくるの。
これを剣でやられたら、けっこう難儀するね。
でも、所詮は雑魚、見世物的な、コケ脅しの域を脱していないね。
舞台の上で、集団剣舞でもさせたらお客さんを集められそうだけど…。
おいらは、『STD四十八』の舞踏もどきの攻撃も見飽きたんで、終わりにすることにしたんだ。
『回避』が働いて、一人の攻撃を避けた瞬間。
そいつが華麗なステップでおいらの前から退こうとしたその足を、おいらの足でチョコンと引っかけたの。
すると、…。
ボキッ!
あれ? コケさせるつもりだったんだけど…。
攻撃したつもりはなかったのに、『クリティカル』が仕事をしたよ。
「うぎゃ!」
脛の辺りの骨がポッキリ折れた『STD四十八』の一人は、その場で勢いよくコケたんだ。
当然、後ろに続く奴らは、勢いが付いてるんで止まれるはずもはずも無く…。
「ふぎゃ!」
最初の奴に躓いてコケちゃった、それで三人ほどが次々と地面にペタンと倒れちゃったもんだから。
後は連携も何も、あったもんじゃないね。
ばらばらに打ち下ろされるこぶしは、ヘロヘロで雑魚そのもの。
おいらは、ペシっとこぶしを振り掃っていったんだけど。
ボキッ!
おいらの仕草に不似合いな物騒な音が、相手の手首から聞こえ…。
「うぎゃあああああ!」
絶叫を上げて蹲る『STD四十八』の雑魚たち。
ちょっと振り掃うだけで『クリティカル』入っちゃうんだ…、ちょっとビックリ。
あっという間に片付いちゃったよ、さすがその他大勢。
こいつら、冒険者なんかやめて、芸人にでもなればいいのに…。
で、タロウはと言えば、
「なんだ、こいつら、アイドルユニットみたいな名前を名乗っといて。
やることは、ジャ〇ーズ系かよ。
ジ〇ニーズ系やるんなら、もうちょっと爽やかな顔しろよ!
そんな、凶悪な顔して、軽やかなステップ踏まれてもなー!」
訳の分かんない声を上げながら、一人一人確実にいなしていったよ。
うん、あの連携技が通じるのは、少しだけ格上までだよね。
レベルが十以上離れていたら、華麗なステップで退ける間も無くやられちゃうもん。
せめて、剣を持っていれば少しは脅威かも知れないけど、素手じゃねえ。
さすが、レベル二十の身体能力はダテじゃなくて、二十人以上を相手に全員鎮圧しちゃったよ。
今なら、『王都の冒険者百選』に入れるかも知れないね、タロウ。
おいらやタロウも仕事の分類上は冒険者になるんだろうから。
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『STD四十八』の雑魚たち全員を制圧したおいらとタロウはアルトが用意したロープで全員を拘束していったの。
全員、動けなくなるようなケガはさせてないからね、また暴れたら面倒だから。
「お疲れさま。
手間をかけさせたわね。
タロウも良くやったわ。
もうこの程度の雑魚は怖くないでしょう。」
「アルト姉さん、無茶言わないでくださいよ。
今回は素手だったから、何とかなったけど。
こんな怖え顔した連中が二十人も、剣を振り回してきたら逃げ出しますよ。
剣で斬られりゃ死んじまうかも知れないんですよ。
雑魚かどうかは、俺には分かんねえもん。
どうしても、見た目で判断しちまいますよ。」
アルトに労ってもらったタロウだけど、やっぱり弱腰だったよ。
「あら、相変らず弱気ね。
でも、タロウくらいの実力なら、自信過剰になるよりも。
そのくらいの方が、慎重に行動するから良いのかもね。」
アルトはタロウの返事を聞いて頷いていたよ。
さて、縛り上げられた『STD四十八』の雑魚達だけど。
「おい、俺達を縛り上げてどうしようってんだ。」
みんな、まだ、大したケガもしていないものだから、反抗的な態度を見せる輩がいるの。
「これからが、本当のお仕置きタイムよ。
楽しみにしていなさい。」
『STD四十八』に向かって、笑顔で告げたアルトは周囲に集まったやじ馬に向かって。
「私達の話を聞いてた人もいるかも知れないけど。
今この王都で、『砂糖』を始めとする甘味料の値段が上がっているのはこいつらのせいよ。
陰でコソコソと、商人を脅して値を吊り上げているの。
私達は、こいつらにお灸を据えてるんだけど。
良かったら、みんなも腹いせにこづいていっても良いわよ。
私達が、反抗しないように見張っていてあげるから、心置きなくどうぞ。」
そんなアルトの呼びかけに、最初に呼応したのは自由市場から付いて来たオバチャン達だったよ。
「あら、悪いわね。
私、この一月ほど、ハチミツの値段が上がっちゃって。
うちの亭主の稼ぎが悪いもんだから。
大好きなハニートーストが食べられなかったの。
それで、凄くむしゃくしゃしてたのよ
食べ物の恨みを思い知りなさい!」
そう言って、『STD四十八』の顔を思い切り蹴とばしたの。
「ひぃ、やめてくれ、俺たちゃ、顔が命なんだ。
顔を蹴ったり、殴ったりするのは止めてくれ。
シノギが出来なくなっちまうぜ。」
蹴られた奴は、そんな泣き言を零してたよ。
まあ、こいつら、カタギの人を脅してお金を巻き上げるのが商売みたいなものだから。
パンパンに腫らした情けない顔してたら、誰も怖がってくれなくなるもんね。
恐喝みたいなシノギは出来なくなるかもね。
「なんか、ますますジャ〇ーズ系のアイドルみたいなこと言ってるぜ。」
なんて、意味不明な事をタロウは呟いてたよ。
「おっ、いいことやってるな。
俺も、このところ、『砂糖』の値段が上がって家計が大変だからって。
かみさんから、酒を減らされちまったんだ。
こいつらが、元凶だったのか。
俺の楽しみを奪いやがって、ふてえ奴らだ。」
オバチャン達が蹴とばすのを見ていた、見物人の中からもそんな人が出て来て。
やがて町の人が集団で、『STD四十八』の連中に鉄槌を下していったんだ。
「ひぃ!だから顔は止めて、顔は…。」
と情けない泣き言を上げ続ける『STD四十八』の面々。
これも、アルトの『冒険者は怖くない』刷り込み作戦の一環なんだね。
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やがて、集まっていた人達も気が済むまで殴る蹴るすると、一人、二人と立ち去っていき。
残ったのはおいら達三人と自由市場から付いて来たやじ馬のオバチャン達だけになったの。
そして、おいら達の目の前にはズタボロになった『STD四十八』の連中が転がっている。
まあ、殴る蹴ると言っても素人のおじさん、おばさんだから見た目ほど酷いことにはなってないみたい。
全員、意識ははっきりしているし、一番酷いケガはおいらがへし折ったスネや手首の骨折みたいだから。
すると、『スイーツ団』の本拠地から一人のおっちゃんが出た来たんだ。
きちんとした身なりで、髪も普通のカタギのような金髪の中年男性。
「おやおや、これはどうしたことかい。
うちの商会の若い者達が、酷い目に遭っているようだけど。
何か、揉め事ですかな。」
ニコニコと穏やかな顔で尋ねてきたおっちゃん。
でも、目は笑っていないの、触ったらスパって手が切れるようなそんな鋭い目をしてた。
このおっちゃん、強い…。
「やっと、真打登場ってところかしら。
出て来るのが遅いわよ、勿体つけちゃって。」
アルトはそんな風に言葉を返してたよ。
お読み頂き有り難うございます。




