第100話 こっちから乗り込むんだって
「ねえ、あんたら、ここに転がっているゴロツキは何なんだい?」
その後も『砂糖』ほか甘味三品の露店を続けていると、買いに来た客さんが尋ねてきたよ。
もちろん、ゴロツキってのは、『スイーツ団』の五人のこと。
心なしか、おいら達が撃退した時より、更にボロボロになっているんだ。
この五人が因縁をつけてきた現場を目撃してない人の目には、ゴロツキが転がっているのが奇異に映るようで。
アルトの思惑通り、こいつらが何者なのかを尋ねてくるお客さんが多かったの。
そんなお客さんにアルトは。
「ああ、こいつら?
『スイーツ団』を名乗る悪党よ。
王都の商人を脅して、『砂糖』なんかを高値で買い取らせてるの。
今、『砂糖』とかが値上がりしているのはこいつらのせいよ。
私達が、ここで従来通りの値段で売っていたものだから因縁つけて来たのよ。
全く、迷惑な奴らよね。」
そう言って、『スイーツ団』の悪事を喧伝してたんだ。
「こいつ等のせいで、アタシらが高い砂糖を買わされているんかい。
ホント、とんでもない奴らだね!」
アルトの話を聞いたお客さん、腹いせに転がっている五人を蹴とばしていったよ。
連中砕かれたこぶしや膝の痛みが相当に酷いみたい。
今のお客さんは中年のおばさんなんだけど、連中は蹴とばされても何の抵抗も出来なかったの。
いつもなら、町の人相手にブイブイ言わせているのに形無しだね。
アルトの話を聞いたお客さんのほとんどが、こいつらを蹴とばしていくもんだから。
こいつら、どんどんボロボロになっていくんだ。
お客さんは殆どが女性だから一撃は大したこと無いけど。
いかんせん、蹴とばす人数が多いもんだから地味にダメージが溜まるみたいだよ。
五人とも、顔なんて腫れちゃって最初の強面なんか見る影もないもの。
アルトは、こいつらを晒し者にして、こうやって蹴とばさせておけば町の人の意識も変わるだろうって。
タロウも似たようなもんだけど、今は、『冒険者=怖い人』というイメージが定着しちゃっているんだ。
だから、冒険者が横暴な事をしても、みんな、我慢しているし、見て見ないふりをしている。
アルトは、この機会に『冒険者=見掛け倒しの情けない人』ってイメージを町の人に植え付けたいみたい。
こういうゴロツキは、相手を脅すことでしょうもない稼ぎをしてるんで、誰も怖がらなくなったら干上がるって。
こいつらみたいな商売は、ナメられたら負けなんだって。
「冒険者共に、金輪際、大きな顔が出来ないようにしてやるわ。」
なんて、息巻いているし、アルト。
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「おい、おえめら、俺達に何の恨みがあってこんな酷でえことをするんだ。」
転がってる五人の一人が、なんか泣き言を零しているけど酷い言い掛かりだ。
それじゃあ、おいら達が悪いみたいに聞こえるじゃん、自分達の悪事を棚に上げて。
「別に恨みはないよ。
おいら達、旅の途中で狩ったトレントの実を売っていただけじゃん。
それも、普通の値段で。
それをおっちゃん達が邪魔してきたから、排除しただけ。
おいら達が何か悪いことした?
おっちゃん達が一方的にイチャモンつけてきて、剣まで抜いたんだよ。
反撃するのは当然じゃない。
何で、こっちが一方的にやられると思うかな。
少しは頭を使おうよ。」
こいつら、不思議なことに、町の人は自分達に従うのが当たり前だと思ってるんだよね。
何でも、自分達の思い通りになると思っていて、反撃されるなんて夢にも思わないみたい。
「そうやって、ふかしていられるのも今のうちだけだぜ。
俺達をこんな目に遭わせたと知ったら、親分衆がおめえらを絶対に赦さねえからな。
組織の看板に泥を塗られて黙っている親分衆はいねえから覚悟しとけよ。」
そんな風に負け惜しみを言われてもね…。
アルトは、その親分衆を釣り出したくて、こんな派手にやってるんだから。
「ねえ、そこに転がっているゴロツキ、あんなこと言ってるけど。
あんた達、大丈夫なの。
私達、主婦にとっちゃ『砂糖』を安く売ってくれるのは有り難いけど…。
それで、あんた達が酷い目に遭ったら寝覚めが悪いよ。」
ちょうど、ゴロツキの負け惜しみを耳にしたおばさんが心配してくれたけど。
「平気、平気。
タダの脅しだから、気にしないで。
こいつら、ハッタリだけで生きている人種だから。
束になってかかって来ても怖くないわ。」
アルトはそう答えてケラケラと笑ってたよ。
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そうして、五人を晒し者にしたまま、露店は繁盛し。
一日で、『砂糖』も、『ハチミツ』も、『メイプルシロップ』も千個以上売れたよ。
お客さんが多いということは、『スイーツ団』の悪事を耳にする人も多いと言うことで。
『スイーツ団』がしている悪事は今日一日で、王都の人々に大分広まったと思う。
「アルト、お客さんも減って来たし。
もう夕方だから、今日はお店をたたんだ方が良いんじゃない。
アルトが期待していた『お客さん』は今日は来ないみたいだね。」
積み上げた『シュガーポット』なんかもすっかりなくなって、今日は店じまいかなと思っていると。
「そうね、第三陣が出て来なかったのは、期待外れだったけど。
そろそろ、良い時間ね。
お客さんも掃けたから今日は終わりにしましょうか。
ちょうど良いから、帰りに挨拶を兼ねて、こいつらを返しに行きましょう。」
アルトは、そう言うと三人を『積載庫』に詰め込んじゃった。
どうやら、これから『スイーツ団』の本拠地へ乗り込むらしい。
「うん? 釣り出すんじゃなかったの?」
「その積もりなんだけど、あんまり悠長にもしてられないしね。
『スイーツ団』の方はチャッチャと片付けて、本命を釣り出そうかと思って。」
本命って『冒険者ギルド』だよね、アルトはギルドの幹部にさっさと出て来て欲しいんだね。
露店の後片付けを済ましたおいら達三人は、アルトの希望通り『スイーツ団』のある繁華街へ向かったんだ。
けれども、…。
「ねえ、ねえ、聞いてると、あんた達、なんか面白そうなこと企んでるじゃない。
アタシも見物に付いて行って良いかい?」
さっき、話をしていたお客さんがそんな事を言ったんだよ。
タロウが、「こんなところにも人間拡散機が…。」とか言ってたけど、噂好きそうなオバチャン。
「別に見に来てもかまわないけど。
巻き添えを食わないように、少し離れたところから見物していてね。」
って、アルトが答えちゃったもんだから、後ろには五、六人のやじ馬を従えちゃっているんだ。
そして、やって来た王都の繁華街、その一等地に『スイーツ団』の本拠地があったの。
とても立派な建物に、『王都甘味流通管理シンジケート団』って長ったらしい名前の看板がかかっていたよ。
「何この、偉そうな名前。
自分達が王都の甘味料の流通を管理するってか。
勝手な事を言っちゃって、調子に乗り過ぎね。
しかも、こんな一等地に、立派な本拠地を構えちゃって何様のつもりよ。」
アルトったら、看板と建物を見てイチャモン付けてる。
すると、やじ馬根性を出して付いて来たオバチャンの一人が呟いてたよ。
「おや、ここは最近まで老舗の食料品店があったんだけどね。
何でもご主人が闇討ちに遭って寝たきりになっちまったらしいね。
その上、酷い嫌がら受けて潰れちまったと聞いたけど。
いつの間に、ゴロツキのねぐらになっちまったんだい。」
どうやら、最初の情報にあった見せしめとして潰された商人が使っていた建物みたい。
『スイーツ団』に逆らってコッソリと冒険者から直接甘味料を仕入れていて、潰されたという。
潰した後に、この建物を乗っ取ったんだ…。
それじゃあ、ちゃんとお金を払ったかどうかも分からないね。
「そう、相当悪どいことをしているみたいね。
それなら、思う存分にお仕置しちゃっても良いわね。」
そう言いながら、アルトは目の前に青白く輝く光の玉を生み出してた。
バチバチと火花を放っていて、見るからに危なそうなヤツを。
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