第六話 コミュ障の俺、この世界でも勉強からは逃れられない
「では、授業を始めさせていただきます」
ライザンさんが黒板らしきものの前に立って言う。
肯定の意味も含めて一応頷いておく。
地球にいた頃は、授業の時、毎回顔青くするレベルでガタガタ震えながらパニクってたと思うんだけど…。当てられるんじゃないかっていう恐怖で。
当たったことないけど。
よく学校通えてたな俺。
多分、無理に喋らなくていい、というか喋れない状況だから落ち着いていられるのであって、喋れるようになったら痙攣するようにずっと同じ単語を繰り返すことはないにしても、結構気持ち悪い喋り方になってしまうのは否めない。
会話…うん、想像しただけで吐きそう。
因みに、両サイドに座っている飲兵衛二人はまだ頭に響いているらしくこめかみを押さえながら授業を受けている。
因みに、二日酔いは回復魔法で治るらしいが、イヴァが
「二日酔いで状態異常耐性取れるから取れるまで我慢ね」
と、なかなか鬼畜な方針を決めたので、二人ともかなり辛いだろうが、頑張れ。
俺の場合は…まあ、なんだ、とりあえず毒でも食らう時にとればと言われた。
ただ、その場合毒耐性が先にきちゃうらしいから、まあ、ぼちぼち考えようということに。
くだらない考えなど彼は知りもしない。にこやかに今日の授業内容を発表する。
「本日は世界情勢でございます。ついでに地理も少し」
世界情勢。地理。
う、頭が。
いや、苦手じゃないんだけど、苦手。
方向音痴とかじゃないけど、地図読むのは地味に苦手だったりする。
曲がる道を間違えることが多い気がする。
この世界でもそれに悩まされるかもしれない。
あと世界情勢は単純に上の方々大変ねといった感じで無関心貫き通してたからちょっと。
後ろの二人は授業受けてる場合じゃないだろうから、俺が覚えなきゃなぁ。
とりあえず軽く地図を広げられ、指差し指差し説明が入る。
地図の中央に不自然に六角形の湖がある地域、モンウィーム州。
唯一モンウィーム州と陸続きのファイバーン州。
その隣が魔族の本拠地があるダーナイト州。
ダーナイト州の南にあるのがサンアングル州。
そして、ダーナイト州とサンアングル州の西にあるのが北から順にフライシュライト州、プラートド州、フローアス州。
ファイバーン州の南にある円形のウォースィー州。
これが主要八州。らしい。
名前忘れそう。長い。
この分だとユーラシア大陸とかオセアニア州とかかなり優しかったんだな、と思う。
とりあえず地図は配布されているノートに写す。
ノートと言っても分厚い本みたいな感じで羊皮紙を使っているし、ペンは羽根ペンだから、ちょっといつもと勝手が違う。
だが、筆記スキルのおかげでいくらかマシである。
こういう時しか称号には感謝しない。
因みに、コーツァル国はこのうちのプラートド州にあり、この地域では魔類の国は無く、故に毎回この国で勇者が召喚されるらしい。
この国はこの地域屈指の大国であり、比較的どの地域にも行きやすいから、という理由があるようだ。
残りの世界情勢に関しては、ほとんど同種族の結束は固く、特に貿易摩擦や戦争が起こっているわけでもない。本当に異種族間でバトっている状況だ。
ただ、時々血の気の多い脳筋野郎、もとい実力至上主義の国なんかは普通に喧嘩売ってくるらしい。前イヴァが「息吸っただけでもキレる」と称したのはこういう奴らのことらしい。
そういう話が2〜3時間続く。
まあ、でも比較的地球よりは簡単なので、まだ理解はできた。
残り時間は周りにある好きな本を読んでもいいとのことだったので、俺はフラフラと棚を行ったり来たりし始めた。
うーん、わからん。
一応授業する前に翻訳スキルなるものを獲得したので読めなくはないが・・・。
所々文字化けしている感じ。
読めるものがないか探していると、不意にモンスター図鑑が目に止まる。
パラパラとめくってみる。
…ふむ、どうやら目次かな、これ。
章のタイトル的にそれぞれの州に生息しているモンスターぽいけど。
少し興味があるので席に座ってパラパラと読み始めた。
飲兵衛二人はいくらか頭痛もマシになったらしく俺が取っておいたノートで勉強している。
まあ、よくわかってなさそうだから、部屋に戻ったら教えるかね。
じっくりと読んでいると、ダーナイト州のページに差し掛かる。
今までのページを見て思ったけど、星印のようなマークがついているモンスターがいくらかいる。
それらは従えることが可能なモンスターらしい。
前イヴァもテイムモンスター云々について言っていたことだし、ぼちぼち系統とか決めておいたほうがいいだろうか。
まあ、どう言う形式でテイムモンスターを得るのかはわからないから、ちらっと見ておくくらいでいいか。
そういえば、あの二人はどんなテイムモンスターがいいんだろうか。
氷空はなんとなくドラゴンとか選びそうではある。
もしかしたら称号の関係で攻撃力が伸び悩む可能性がある。
そう言う時に高火力を維持できるモンスターがいいと思うから、と言うのが理由だ。
まあ、かっこいいだけで選びそうではある。
メリーは・・・うーん、ゴーレムとか?堅牢なイメージだし、攻撃力も高いから選びそうではある。
彼女はちょっと行動が読めないから、わからないけど・・・。
なんせあのMerryだからなぁ。
俺は、そうだなぁ。
互いを補えるようなやつがいいなぁ。
あとちょっと癒しになるやつ、とか。
自分の求めるテイムモンスター像を探しつつ、ライザンさんに勉強時間終了のお知らせを受けるまで、俺は立ちっぱなしでモンスター図鑑を読んでいた。
もちろん、足が痛くなった……。