第五話 コミュ障の俺、頭脳戦(?)を繰り広げる
とりあえず視線を振り払って料理を取る。そしてまた料理を食べ始める。
その間に氷空は何か興味深いものを見つけたらしく、ワゴンに置いてあるお菓子らしき箱を開け始めた。
水晶はこっちの知ってる言語に翻訳してくれるみたいだけど、こっちの文字は勉強しなきゃわからない。
だから、箱になんて書いてあるかわからないんだが・・。
氷空は匂いを嗅いでそれがなんなのかを確信したらしく、俺に放ってきた。
「チョコレートだってよ」
ほえ〜。異世界にもチョコレートがあるとは。
そっか、道中の会話で俺、甘党だって言ったもんな。
…食事中だけど、いいか。
口に含むと、懐かしい甘い香りが鼻をつく。
おいし。甘い。
やっぱり甘味って最高・・。
…だけど、氷空、これ酒入りだよな?香りが地味に酒なんだよ。
え?何?酔わせたらマスク取れると思ったか?
今わかったけど俺、酒強いんじゃね?
いや、だって、親父の晩酌に付き合わされた時に酒の良し悪しについて語られたけど、このお酒アルコール度数なかなかだよ?
いや、異世界だから違うかもしれんがそうだと思うよ。
少なくとも酒に弱くはないっぽい。
「ッチ」
聞こえてんぞオラ。
あからさまに舌打ちすんなや。
時々少し飲んだだけでつぶれる人いるけど、親父は酒豪だったからな。感謝感謝。
もう会うこともない親父に感謝をしながら、会人は料理をまた口に運ぶ。
料理を食べ終えて、少しお腹が膨れてきたので、テーブルに食器類を置き、ソファにもたれかかる。
すると、メリーにワイングラスを持たされた。
・・飲めって?えぇ。
まあ、いいか。
…ただなー。
飲み物飲む時って、ストローなかったらマスク邪魔なんだよな。
なんならマスクが濡れる。
それわかっててワイン渡しましたね、策士。
とりあえず、困った様な顔をして見せる。そして、二人を見る。
二人は瞬きもせずにこちらを見ていたが、やっぱり限界のようで二人はほぼ同時に瞬きをした。
「あれ?」
「消えた?」
ふん。隠密が役に立った。
スキルの使い方は、それとなくライザンさんにメリーが聞いてたので、それが役に立ったというわけだ。
魔法系のスキルは詠唱しないといけないらしいけど、それ以外はパッシブスキルだったり、念じてみたりすれば軽く発動できるそうで。
まあ、マスクを下げてワイン飲んでマスク戻して隠密解除すればバレないし。
ふん。俺のが一枚上手だったようだ。
ワイン飲んだら流石にほろ酔いになるか。ちょっとホワホワする。
「あー!いた!」
いた!とか言われても、ずっといましたし。
ワイングラスが空になっているのを見てあからさまに悔しそうにしているお二方。
どんだけ顔見たいねん。
いや、テレビとかで有名人がマスクつけて歌ったりスポーツしたりするやつあるけど、あれの正体が気になるのはよくわかる。
でもな、それとこれとは話が別なんだ。分かれ。
酔ったからって俺がハイそうですかって外すと思ってんのかなぁ。
酒飲んだことないからわからんが。
なんとなく人より酒強いんちゃうかなとしか思ってないけど。
「んーまあ諦めよう」
「そうですね。イケメン拝みたかったのですけど」
うーこわ。
ただ、今まで感じた感じのこう…いやな感じがしない。
酒飲んだからかな。
分からんけど。
「あわよくばマスク外したら喋れるかも、なんつって」
すみません。マスク外したら余計無理です。表情丸見えになるの嫌です。
というか、そうなったら称号引っ付いてるの俺のマスクになるよね?
アホ毛ならぬマスク本体は嫌よ。
あー、こういう時に気心知れたあいつなら身振り手振りでどうにかなるんだが。
とりあえず無理という意思表示のためにぶんぶんと首を振っておいた。
「ざーんねん」と言いながら俺の横にどかッと座る。
ちょっとビビった。
メリーは対照的にふんわり座ってくれたけど、女子特有のいい匂いでちょっとなんか、背徳感が。
というか、二人とも酒をカパカパ開けてガバガバ浴びるように飲んでるんだけど…。
いやーなよかん。
30分もすれば、もうそろそろ部屋に行って寝たほうが身の危険は感じないかもしれない、と思い、立ち上がろうと腰を浮かせると、ジャストタイミングで氷空が俺の肩に頭を乗せ、メリーが女子とは思えない力で俺の肩を抑えた。
…もっと早く逃げるべきだった。反省。
「ZZZZZZZZ」
「かいとさ~ん、もっとのみましょうよぉ~~」
うん、案の定。
急に寝る奴と酒癖悪い奴。
氷空はソファに寝かせておけば別にいいが…メリーは絶対放してくれない。
なんとなくそんな感じがする。
人付き合いする上で、めんどくさいことになりそうだとなんとなくそう言う勘が働く。
コミュ障故、なのか単純に俺が神経質なのかは知らん。
ただ、この後結局メリーが酔いつぶれるまで付き合い、俺も程よく酔ってきたところで、メリーと氷空をソファに放置、一応布団はかけておいて、俺は一人ふかふかのベッドで眠りについた。
さすが王宮。日本のベッドにも見劣りしない。
こうして、メイドさんが起こしに来る朝まで、いつもより少ない睡眠時間ながら、俺は気持ちの良い朝を迎えることができた。
もっとも、あの飲んべえ二人が盛大に二日酔いになったのは致し方ないことであった。