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第八話 無敗の騎士


 夜。俺は静かにライオネル家の屋敷に潜入していた。

 ライオネル家は騎士皇国の中でも名門中の名門だ。

 だからその特性は広く知れ渡っている。

 簡単に言うと、ライオネル家の特性は〝盾〟だ。

 その血を引く者は防御に秀でている。

 クリフ・ライオネルもその例に漏れない。

 円卓の聖騎士中、最高の防御を誇る騎士。それがクリフ・ライオネルだ。

 今まで決闘で敗れたことはないし、これからも負けるところは想像できない。

 ゆえに〝無敗の騎士〟と呼ばれている。

 相手に恵まれただけ、と言いたいがその決闘相手の中には現円卓の聖騎士も含まれている。

 弱い奴を相手にしていたわけじゃない。

 そのクリフ・ライオネルは、貴族出身の聖騎士を屋敷に招き、技の披露を行っていた。

 俺は招かれてもいないし、評判も悪い。門前払いされる可能性があるため、潜入させてもらった。

 幸い、技のお披露目会場はすぐに見つかった。

 広い庭。そこに十数人の聖騎士が集まっていた。

 彼らの前に立つのは二十代中盤くらいの男。

 長い金髪のイケメンだ。

 背が高く、細身。

 微笑めば大抵の女性は心奪われるだろう。

 なんてことない仕草まで洗練されている。

 俺の嫌いなタイプだ。きっと女には困ってないし、女なんていくらでもいると思っているタイプ。

 だが。


「さすが円卓の聖騎士というべきか……」


 まったく隙らしい隙がない。

 周囲への警戒が完璧だ。

 きっと俺にも気づいているだろうな。

 見かけだけじゃない。


「さて、そろそろ本命と行くか。円卓の聖騎士とお前らとの最大の違い。それを教えてやるよ」


 技の披露も終盤に差し掛かり、クリフはそう言って聖騎士たちを少し下がらせた。

 そして右手を体の前に突き出した。

 濃い魔力がクリフから発せられる。

 深位魔法は魔力さえあれば誰でも使える。

 だが、真に極めるのは至難の業だ。

 それは魂に触れるということだからだ。


「魂に触れることができる魔導師はごく一部。その一部の中でも、自らの魂を理解し、掌握することができるのは一握り。それがお前たち三下と俺たち円卓の聖騎士との違いだ!」


 クリフの周りにさらに濃い魔力が立ち込め始める。

 それだけで高位の魔法を放つことができるだろう魔力だ。

 それが余波で流れている。

 それだけのことをしようとしているのだ。

 魔導師の極地。神髄にして秘奥。魂を具現化する秘法。


王剣顕界コール・ブランド――極翼天盾ラジエル


 魂の具現化。

 自らの魂を武器として顕現させる秘儀。

 それが王剣顕界だ。

 王剣とはいいつつ、その形は人によって千差万別。血筋により似ることはあるが、形も性能も基本的にはオンリーワンだ。

 クリフの王剣は四つの盾と二本の剣。

 片方の翼だけがついた巨大な白い盾は、クリフの周りに浮遊している。

 二対の剣も羽のようなデザインで、後方に展開した四つの盾と合わせて、天使を思わせる。

 浮遊する四つの盾。あれが無敗の騎士の所以か。

 あれを突破しなければクリフには攻撃が通らない。


「これが俺の王剣、極翼天盾ラジエルだ。四つの盾は自律行動であらゆる攻撃を弾く。どんな攻撃だってこれを突破できねぇ。二対の剣は四つの盾が受けた攻撃を蓄積し、自らの攻撃に転用できる。攻防一体の最強の王剣だ」


 自分の王剣の能力をペラペラと。

 王剣はまさしく切り札だ。

 武器のように取り換えは効かない。対策されたら、それでおしまいなのだ。ゆえに王剣を使える者は大抵、自らの王剣を秘匿する。

 それでも喋るし、披露するのは絶対の自信があるからだろう。

 そもそも王剣顕界には大量の魔力を消費する。それを軽い気持ちで行えるということは、それだけクリフが巨大な魔力を有しているということでもある。


「絶対防御の代名詞。どんな攻撃もこいつには効かねぇ。試しに攻撃してみろよ。この場にいる全員でな」


 そう言ってクリフはその場にいる全員での攻撃を提案する。

 相手は円卓の聖騎士。

 だが、聖騎士の数も十人を超える。

 馬鹿にされたままでは終われないと、聖騎士たちはクリフを包囲して攻撃の準備をする。


「手加減する必要はないぜ。何しても意味がないからな」


 そう言ってクリフは大声で笑い始めた。

 その笑い声が引き金となり、聖騎士たちの攻撃が始まった。

 全方位から魔法が飛んでくる。

 多種多様な魔法を聖騎士たちは連続で放っていく。

 聖騎士たちだって、精鋭だ。

 四つの盾がどれだけ無敵だろうと、対処能力には限界があると踏んだんだろう。

 だが、すぐにそれが間違いだったと気づかされる。


「その程度か……笑わせるぜ! その程度の力しかないのに、聖騎士やってるのか? さっさと引退したほうがいいんじゃねぇか?」


 全方位からの攻撃を受けたのにクリフは無傷だった。

 疲れた様子も見えない。

 本当に四つの盾がすべて防いだのだ。

 絶対防御とはよく言ったものだ。

 そんな風に感心していると。


「力のねぇ雑魚は力のある奴につくしかねぇんだ。わかったなら黙って俺を支持しろ。いずれ聖皇姫は俺の妻になり、俺は騎士聖皇になるんだからな! 最高の女に強国、そして最強の騎士の称号。すべて俺のもんだ!」


 不遜だな。

 仕えるべき相手を女としか見ていない。

 唾棄すべき相手だ。

 こいつにだけは絶対にエステルを渡せない。

 そうは思いつつも、黒極星の魔眼ブラック・ポラリスを使っても奴の防御を突破する可能性が映らなかった。

 黒極星の魔眼は〝ありえない可能性〟を視ることはできない。つまり、今の俺ではどうあってもあの防御は破れないということだ。

 情報が足りない。喋っていることがすべてではないだろうし、あの王剣にはまだ秘密があるはずだ。

 そう判断して俺は帰ることに決めた。


「おいおい、わざわざ潜入してきたのに帰るのか? 問題児と噂の大型新人君よぉ」

「……円卓の聖騎士を一目見ようと思っただけですから」

「そうかい? その割に殺気がビンビンだったぜ? あれか? お前も姫殿下を崇拝しているタイプか? 良い女だもんな。だが残念。あれは俺の女だ」


 こいつは本当に……。

 今すぐぶん殴ってやりたいが、無策で挑むには相手が悪い。

 これは修行だ。

 精神修行の一環だ。


「……あなたが勝ち抜くとは限らない」

「俺が勝ち抜くんだよ! そう決まっている! この王剣があるってことはそういうことだ!」


 高笑いをしてクリフは天を仰ぐ。

 隙だらけだ。

 わかっている。

 わざと隙を見せている。

 俺が攻撃してくるのを誘っているのだ。

 だから俺は踵を返した。


「はっ! 意外にも腰抜けだったな! 〝無法騎士〟だったか? 必死に手柄をあげて、円卓の聖騎士になりたかったんじゃないのか?」

「円卓の地位なんかに興味はない」

「ならなぜ手柄を求める?」

「必要だからだ。今の内にせいぜい高笑いをしていろ。近いうちにお前に最初の敗北を味わわせてやる」

「笑わせるぜ! 小隊長風情が!」


 馬鹿にされながら俺は帰路についた。

 胸には憤怒の炎が渦巻いている。

 それを外に出すのは簡単だが、俺は胸の内に封じた。

 いずれ奴にぶつけるために。



しばらく12時、18時の二回更新でいこうと思いますm(__)m

面白いと思ったら評価していただけると目に見えてモチベーションになります(´・ω・`)/~~

よろしくお願いしますヽ(・∀・)ノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公は敵視してるけど、 自分としてはあんまり悪い印象持たなかったな 潜入やタメ口に対して咎めたりしないしね ただひたすら自分の能力を誇示したいって感じ やたらと挑発的な態度取ってるのも、…
[良い点] 過剰なくらい自信満々だけど言うだけの力はある、分かりやすくゲスで躊躇無く殴れるヤツ、いい敵役ですねえ。 [気になる点] 剣は一対二本なのか二対四本なのか、どちらでしょう…?
[気になる点] 以前の話でも出てますが、本来は『味わう』であり『味合う』という言葉はありません。使役構文にするなら『味わわせる』ですね。 盾の『自立行動』も文脈的には『自律行動』がよろしいかと。この…
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