第二十一話 硝子の王剣
「極剣流――朧三連」
盾を突破するには一撃では無理と判断し、俺は連続攻撃に切り替えた。
放ったのは三連突き。
特に三つ目は最初の二つを隠れ蓑にして、死角から放つ技だ。
初見で受けきるのは難しい。
実際、最初の二つを余裕で受けた盾だが、三つ目への対応は大きく遅れ、防ぐというより、軌道を逸らすので精一杯という感じだった。
絶対防御というにはお粗末な対応だ。
クリフもこちらにカウンターする余裕はない。
距離を取り、今の反応について考える。
今までで一番可能性のあった攻撃だった。
だが、所詮はただの連続攻撃だ。
特殊な攻撃ではあったが、王剣の攻撃というわけではない。
「やっぱり何か種があるな」
それを明かすために、俺はもう一度同じ攻撃を仕掛けた。
先ほどと同じ三連突き。
最後は死角からの特殊攻撃。
蛇のように腕をしならせ、死角から突きを放つ。
だが、盾は先ほどとは違い、完璧に受け止めてみせた。
同時にクリフのカウンター攻撃が俺に襲い掛かる。
双剣から放たれた光刃により、俺は大きく吹き飛ばされる。
受け流しきれず、頬から軽く血が流れてきた。
さっきの攻撃の分も含めて、カウンターされたから中々の威力だったな。
「同じ技が二度も通じると思ったか?」
クリフが俺の血を見て笑う。
だが、血を流しただけの価値はあった。
今のでだいたいクリフの王剣、極翼天盾の効果はわかった。
そしてクリフという人間も。
「ずっと謎だった。秘匿すべき王剣をどうして大っぴらに使うのか。お前が馬鹿なだけかと思ったが、お前の戦い方は堅実そのものだ。そんなお前だからこそ、お前の王剣に理由があるんだろうと考えた。それは合っていたな」
俺は笑いながら立ち上がるとクリフが初めて自分から動いた。
追い打ち時だと判断したんだろう。
だが、クリフの王剣は攻撃に向いていない。
一瞬で俺はクリフの背後に回り込み、そのまま距離を取る。
それを追うだけの速度はクリフにはない。
「自律行動の四つの盾。それが厄介だと思っていたが、本質はそこじゃない。わざわざ王剣の性能を明かし、聖騎士たちを呼び集めていたのは……お前の王剣が学習するタイプだからだ」
自律行動、自律学習。
それが極翼天盾の能力だ。
だから初見の技を完璧には防げなかった。極剣流は俺の師匠の剣技。独特すぎて対応できていなかった。
だが、次にはすぐ対応した。
そうやって極翼天盾は学習して、防御能力を向上させる。
そのためにクリフは王剣のお披露目をしていた。積み重ねこそが極翼天盾の強さだからだ。
「それが分かったところでどうする? 貴様に打つ手はないぞ?」
「お前は傲慢だが、馬鹿じゃない。性格とは真逆で戦闘方法は堅実。事前に極翼天盾に学習させて有事に備え、戦闘では足を止めて確実なカウンターを狙う。それが可能なのは長期戦に耐えられる膨大な魔力。自分の能力を知っているが故の割り切った戦い方だ。その分、崩すのは難しいな」
絶対防御などと喧伝していたのは、きっと序盤では円卓の聖騎士たちと戦いたくなかったからだ。
学習型の王剣は理論上、どこまでも強くなれる。どんな相手にも対策を取れる。
多くの円卓の聖騎士は自らの王剣を秘匿している。
その王剣の情報がそろってから戦いたい。そう思っていたんだろう。
だが。
「賢いが、浅かったな。対策を立てるのはお前だけじゃない」
右手を前に突き出し、俺は呟く。
俺の目にはようやく一つの未来が見えた。
一撃ごとに学ぶ防御の王剣。
それを打ち崩す未来が。
『王剣顕界――天極無名』
魔力によって俺の魂が具現化される。
黒極星の魔眼が捉えた不確定の未来を内封して。
俺の手に現れたのは透き通った細剣。
硝子の王剣だ。
「それが竜王種を討った王剣か……どれほど自信があろうと意味はないぞ? 一撃で仕留められなければお前の敗けだ!」
「どんな攻撃にも対応できる絶対防御の盾。さぞや信頼を置いているんだろうな。だが、世の中に絶対は存在しない」
そう言って俺は硝子の剣でクリフへ斬りかかった。
もちろん盾がそれを防ぎにかかる。
ただの斬撃だ。
容易く攻撃は防がれる。
だが、クリフからのカウンターもない。
「なん、だ……?」
咄嗟にクリフが俺から距離を取る。
戸惑った表情のまま、自分の体を見つめている。
そんなクリフに向かって、俺は再度、硝子の剣を振るう。
盾は当然のように受け止める。
その瞬間、クリフは顔を歪めた。
そして剣を振って、俺を下がらせる。
だが、その攻撃に威力はない。俺の攻撃が上乗せされていないからだ。
距離を取ると、一瞬だけクリフの王剣がブレた。
それは一瞬だが、確かにブレた。
効いている証拠だろう。
「耐久力もある。持久力もある。反応速度もある。しまいには学習能力だ。よくできた王剣だが……魔力で出来ていることには変わらない」
クリフに攻撃力はない。
それを補うのはクリフの膨大な魔力。
王剣を使用し続けられるから、防御戦術は成立するのだ。
下手な攻撃は学習される。
だから力攻めは得策じゃない。
そういうことなら元を断てばいい。
この硝子の剣が斬るのは魔力。
狙うはMP切れだ。そうなれば単純な剣技勝負となる。
その土俵なら俺は負けない。
どうにかするには、俺をさっさと倒すしかないが……その力がクリフにはない。
「さて、対策してみろ。クリフ・ライオネル」




