第二十話 決闘開始
決闘場。
そこで俺はクリフと睨み合っていた。
観客席には円卓の聖騎士たちとエステル。
審判として、この場を仕切るのはラグネルだ。
「双方、前へ。これより決闘を開始するが、その前に条件を確認しておこう。挑戦者である騎士レイベールは円卓の座を望むということでよいか?」
ラグネルの言葉に俺は一拍置いてから首を横に振った。
クリフが目を見開く。
そんな驚くことじゃないだろうに。
言ったはずだ。円卓の地位なんかに興味はない、と。
「円卓の聖騎士の座、地位、肩書に興味はない。俺が望むのはただ一つ、円卓序列第一位に挑戦する際の推薦だ」
「この……! この俺を踏み台という気か!」
「お前だけじゃない。円卓の聖騎士、全員が踏み台だ。全員、蹴散らす気でここにいる。お前は最初の一人ってだけだ」
クリフは顔を真っ赤にして、怒りをあらわにするが、ラグネルはいたって落ち着いている。
審判だからじゃない。
予想通りだからだろう。
「では、この決闘において賭けられるのは推薦権だ。勝とうが負けようが、クリフ卿の円卓の席はそのままということになる。構わないな?」
「ラグネル卿! 円卓の聖騎士にも名を連ねない者が推薦権を持ち出すなど、ありえないことだ!」
「前例のないことだが……円卓序列第一位への挑戦に必要なのは、半数以上の円卓の聖騎士による推薦だけだ。円卓の聖騎士である必要はない」
「そんな馬鹿な話があるか!」
クリフはラグネルに詰め寄るが、ラグネルはいたって冷静に告げる。
「どれだけ馬鹿らしい話だろうと、成立するのだから仕方ない。貴公が負けなければいいだけのこと」
「俺には何の得もない!」
「現状維持が貴公の得だ。そもそも、勲章返還による挑戦は円卓の聖騎士に得などない。挑戦者は犠牲を払っている。どんな条件だろうと、円卓の聖騎士は受けて立つほかない。ログレス騎士皇国が誇る円卓の聖騎士に挑戦を恐れる者などおらん。そのような者は私が斬る。姫殿下の前で情けない姿をさらすな」
クリフは納得できないという表情を浮かべるが、そう言われては引き下がるしかない。
なにせエステルが言ったのだ。
我が円卓の聖騎士に挑戦を恐れる者など一人もいない、と。
その言葉がある限り、クリフが何を言っても無駄だ。
どれだけ無茶な要求をされようと、受けて立つしかない。
「双方、納得したところでルールを確認しよう。殺し以外はすべて構わん。私が止めに入るか、相手に自分の敗北を認めさせれば勝ちとする」
「誤って殺した場合は?」
「勢い余ってなら構わんだろう。致命傷くらいは自分で避けろ」
クリフの質問にラグネルは答える。
その瞬間、クリフは笑みを浮かべた。
あれは殺す気満々の顔だな。
まぁ、でもこのレベルになれば相手を殺す気で攻撃を放つ。
死んだら相手が悪いくらいでなければ、全力では戦えない。
「では双方十歩下がれ。私の合図で開始とする」
俺とクリフは中央から十歩下がり、位置につく。
装備は互いに剣のみだ。
だが、クリフには王剣がある。
絶対防御に信頼を寄せるクリフだ。
あえて王剣を温存なんて真似はしないだろう。
つまり、攻略しないかぎり勝ちはない。
そして俺は挑戦者。勝たなければ何もかも失う。
「これより! 円卓序列第十位、クリフ卿と騎士レイベールとの決闘を行う! 姫殿下の御前である! 姫殿下に恥じぬ戦いを! 始め!!」
合図と同時に俺は剣を抜いて、クリフとの距離を詰める。
すべての王剣に対する対策だ。
出される前に潰す。
わざわざ出されるのを待つ必要はない。
だから一直線でクリフに向かった。
「甘いんだよ……三下が!」
クリフは右手を俺に向ける。
そして。
「第九深位魔法――風天掌破」
真っすぐ突っ込んだ俺に暴風が襲いかかる。
第九段階の魔法を詠唱もなしに使うとはな。
ちゃんと対策しているらしい。
なんとか剣で暴風を耐えきった俺の耳に声が届く。
『王剣顕界――極翼天盾』
翼のついた四つの盾と二本の剣。
それらが天使の翼のようにクリフの背後に展開される。
絶対防御の王剣が現れたのだ。
「発動前に仕掛けてきたのはお前で三人目だ。どいつもこいつも考えが浅いんだよ。対策してねぇわけがねぇだろうが!」
クリフはそう言って決闘場の中央に陣取った。
神々しい光を放つクリフの王剣。
それを視ても、俺の眼には有効な未来が映らない。
まだ情報が足りない。
まだ経験が足りない。
それもそうだろう。
俺の目の前にいるのは円卓の聖騎士だ。
十年。
目指してきたのだ。この場を。
こいつらを倒すために努力してきた。
あっさりと倒せるようなら、一体何のための十年なのかわからなくなる。
強敵上等。
だからこそ、蹴散らし甲斐がある。
「邪魔なんだよ! お前みたいなやつはな!」
「こっちの台詞だ。こっちは十年前からお前たち円卓の聖騎士が邪魔で仕方なかったんだ。退け! 序列第一までの道は俺が通る!」
相手は自律行動の盾。
上下左右、すべての攻撃に対応するだろう。
だが、その対応力には限界がある。
例えば、耐久力。
例えば、持久力。
例えば、反応速度。
最高速度で俺はクリフの後ろに回り込むと、そのまま最速の突きを繰り出す。
だが、その突きをクリフの盾は余裕で受け止めた。
「効かねぇな!」
クリフの双剣が光り輝く。
まずいと思って防御体勢を取ると、光の刃が飛んできた。
思った以上の威力で、俺は一気に吹き飛ばされる。
盾で吸収したエネルギーを攻撃に転用できるとは言っていたが、物理攻撃まで転用できるのか。
便利なもんだ。
「速く動けばついて来れねぇとでも?」
「ああ、そう考えていた。お前よりも盾のほうが優秀みたいだな」
「……その減らず口を閉じさせてやる」
「やってみろよ、防御重視で動けない癖に」
笑いながら俺は攻撃体勢に入る。
結局はこれの繰り返し。
クリフは防御特化の騎士だ。
自分から型を捨てるようなことはしない。
俺が攻撃し、クリフはカウンターを仕掛ける。
それがこれからの展開だろう。
俺の攻撃が通るのが早いか、クリフのカウンターが決まるのが早いか。
勝負だ。




