第十三話 竜王の鎧
竜王種は天災のようなものだ。
その行動の一つ一つが人間にとっては災害でしかない。
ダークネスの咆哮により、山全体が揺れる。
普通の人間ならば立っていられないだろう。
倒れないように両足に力を込めるが、そんな俺にダークネスは無造作に右手を振ってきた。
三十メートル級の竜王だ。
その腕だって相応のサイズだ。
新幹線の車両を高速で横に振ったら、こんな感じなんだろうなと思いながら、俺はその腕の一撃を剣で受け止める。
「さすがに……重いな」
何歩か後ろに押し戻された。
周りにあった木々は爆風で倒れている。
二人を連れて来ないで正解だったな。
さすがに庇いながら戦える相手じゃない。
「ほーう? 素晴らしい! ここを見つけただけはある!」
『生意気な』
俺はあくまで前座。
そんな俺に一撃を受け止められ、ダークネスは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
そして大きく口を開けて、俺を食おうとしてきた。
空中に飛んで避けながら、俺は鎧に覆われていない頭に斬撃を加えた。
だが。
「硬てぇ……」
竜王の鱗。
それは最高級の鎧だ。
不十分な体勢ではとてもダメージは与えられない。
「それだけの鱗がありながら、なぜ鎧を? 動きにくいだけでは?」
『この鎧は我を助ける』
「よくぞ聞いてくれた!」
自分の鎧を自慢したくて仕方ない。
そんな様子でクラウンが両手を広げた。
「闇竜王の力はかつての円卓序列一位との戦いで落ちてしまった! 翼も奪われ、力も落ちた! そんな竜王を復活させるための鍵がこの鎧! 名付けて翼王鎧! あらゆる強化を仕込んだこの鎧は! 竜王の力を格段に上げてくれる!!」
別に珍しい鎧じゃない。
獣虎族が使っていた鎧とタイプは一緒だろう。
ただ規模が違う。
そもそも一を百にするのと、百を千にするのとじゃ、労力が違いすぎる。
元々強力な竜王を強化できる鎧となると、どれほどの魔法を仕込んでいるのやら。
サイズも規格外だが、おそらく使われている魔法も規格外。
とても個人で用意できる代物じゃないはずだ。
それこそ国家レベルの切り札と言われても納得できる。
『ひれ伏せ!』
ダークネスは両手を組んで振り下ろしてくる。
それを剣で受け止めるが、足がどんどん埋まっていく。
このままだと生き埋めだ。
どうにか体に力を込めて、ダークネスの両手を弾き返す。
そのまま一旦、距離を取った。
「はぁはぁ……」
体力を持っていかれる。
とにかく一撃が重いから、まともに当たれば終わりだ。
その重い一撃を受ける度に体力は持っていかれるし、精神も削られていく。
元々、何もかも差がある相手だ。
そうなるのは仕方ない。
だが、悲しいかな。
俺の眼にはまだ勝てる未来が映らない。
「鎧をぶち抜いたところで、その下には竜王の鱗か……力業はほぼ通じないな」
「もちろん! 魔法への備えも万全だ! 弱点らしい弱点はない!」
「本当にそうかな? 弱点のない物が本当にこの世にあるのか?」
「少なくとも今、この大陸では強力な王剣での一撃以外でこの鎧を破る術はない!」
「随分と自信満々なことで……」
「最高の鎧に最強の使用者! 頂点捕食者である竜王が我が鎧を使うんだ! 自信もつくってもんだ!」
僕の考えた最強のなり方みたいなもんだからな。
そりゃあ竜王が使えば何でも強くなる。
素で強いのだから。
『そろそろ貴様の相手も飽きた……沈め』
そう言ってダークネスがその口を開く。
黒い魔力が球体となって集まっていく。
高濃度のブレス。
だが、それは脅威ではあるが致命的ではない。
轟音と共にブレスが放たれたが、俺はそれを寸前で真っ二つに斬った。
「極剣流――断空」
魔法を斬る技だ。普通の剣技が通用しない相手には重宝する技だが、竜王のブレスに使うことになるとは。
だが、今ので分かった。
「ほう? 竜王のブレスを斬るとは!」
「斬れるもんか。本調子ならな」
「ぬぅ……!」
必殺技であるはずのブレス。
それでもダークネスは止めをさせなかった。
竜王種のブレスがこの程度のはずはない。放たれる瞬間。斬れると判断できた。その程度の攻撃だ。
いくら鎧を使おうと、弱体化した竜王としての力は回復していないのだ。
今、ダークネスが調子良さそうに動いているのはすべて鎧の効果。
それだけ鎧に依存しているといえるだろう。
闇竜王ダークネス。百年動かなかったのは動けなかったからだろう。思った以上にその姿は見せかけだ。
クラウンは自信満々に言った。
ダークネスは最強の使用者だと。
たしかに竜王種は頂点捕食者だが……頂点捕食者である竜王は人間の作り出した魔導具などには頼らない。
そのことに行き着いた時。
俺の眼が真っ暗な世界の中で、一つの可能性の光を見出した。
準備は整った。
『王剣顕界――』