第十一話 意外な動き
二回更新頑張るからモチベくーださい(*'ω'*)
「予想通りの結果になりましたね」
「それだけクラウンが厄介ということだな」
小隊長室で俺は任務の詳細に目を通していた。
横にはミラがいる。
とはいえ、大した情報はない。
「かなりの人数を使って捜索していますが、クラウンの手がかりはいまだにありません」
「手がかりを与えないっていうのはさすがだな」
獣虎族に鎧を売ったことは確認できている。
だが、そのルートはもう潰れた。
鎧がかなりの人間を間に挟んで取引されていたからだ。
ただの鎧だと思って取引していた者がほとんどだった。
辿るのはほぼ不可能。
「どうやって捜索するおつもりですか?」
「こういうのは探したって見つからない。読むしかないだろうな、相手の狙いを」
「レイ様の魔眼ならば回りくどいことをしなくてもよいのでは?」
ミラの提案に俺は肩を竦める。
黒極星の魔眼はそんなに便利なものじゃない。
その場、その場の可能性が視えるだけだ。
いちいち現地に行かなきゃ視えないし。
「クラウンを見つければ、奴の計画を視ることはできるだろうが、何の手がかりもなしに探せるほど万能じゃない。結局は可能性が視えるだけだからな」
「なるほど。つまり読みが外れれば打つ手なしということですか?」
「外さないさ。聖騎士団がこれだけ探して見つからないんだ。ある程度、絞れるしな」
「安心しました。絶好のチャンスを不意にしたと国王陛下に報告したくはありませんので、是非頑張ってください」
ミラがまったく期待していないような声で言ってくる。
それに顔をしかめつつ、俺は立ち上がる。
そんなに時間があるわけじゃないからだ。
「クラウンは俺が探す。お前はクリフを探れ」
「そのことですが、興味深い情報が」
「なんだ?」
「どうやらクリフ卿の王剣は、円卓の聖騎士との模擬戦で何度か破られかけているようです。ただ、すぐに対応してみせたとか」
「絶対防御なのに破られかけた? その後に対応した?」
クリフは王剣の防御力に圧倒的な自信を持っていた。
それが破られかけたとはどういうことだ?
しかも対応した?
なぜ最初から対応しない?
できない理由があったからだろう。
「奴の王剣にはやはり秘密がありそうだな」
「そのようですね。ですが、結局は戦ってみなければわかりません」
「わかっているさ。さっさとクラウンを捕まえて、挑むとしよう」
そう言って俺は小隊長室を出た。
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「というわけで、探すぞ」
「何がというわけでっすか……手がかりないのに探せるわけないっすよ!」
ブレントとセドリックに任務を説明したが、両者とも渋い顔をしている。
本来ならもう一人、部下がいるんだが、諸事情により今は二人しかいない。
俺を含めて三人で探すしかないのが現状だ。
「さすがに範囲が広すぎるのでは? 騎士皇国にいるだろうというくらいしかわかっていないとなると……」
セドリックの言葉はもっともだ。
騎士皇国は領土的には大国ではない。だが、小さいわけでもない。
三人で国中を探し回るのは無理だ。
だから読む。
「無暗やたらに探し回ることを期待して、任されたわけじゃない。俺たちは俺たちなりのやり方で見つけるさ」
「自分たちのやり方ってなんすか?」
「組織に縛られず、好き勝手に動ける。だから俺たちは聖騎士団とは違うことをやるぞ」
聖騎士団は組織力で広範囲を探している。
だが、これで見つからないどころか手がかりすら得られていない。
そこから考えられるのは二つ。
「騎士皇国は聖騎士団にとっては庭だ。多くの国民が協力的で絶えず情報が寄せられる。旅人の情報すら逐一入ってくる。よそ者が潜むのは至難の業だろう」
「ですが、それらしい人物すら見つけられていません」
「そうだ。考えられる理由は二つ。よほどうまく潜んでいるのか、そもそも人がいる場所にいないか、だ」
前者の場合、かなり前から潜伏してなければ無理だろう。
溶け込んでいるということだ。
これを探すとなると時間がかかる。だが、いずれは見つかる。
こっちは聖騎士団に任せるしかない。組織力がモノをいう。
だが。
「大陸中に自作の鎧をまき散らす変態魔工師が一般人に溶け込めると思うか?」
「無理じゃないっすかね……」
「なるほど。だから見つからない場所にいると?」
「見つからない場所じゃない。そんな場所はない。聖騎士団が本気ならな。だから聖騎士団が探さない場所にいるんだろうさ」
「探さない場所?」
「天才と馬鹿は紙一重だ。常識的には考えられない場所に潜んでいることは十分にありえる」
俺は地図を開いて、騎士皇国の北方を指さした。
そこには巨大な山がある。
騎士皇国の民が近寄ることもしない山だ。
「いやいや……そこはさすがにないっすよ……」
「下手をすれば円卓の聖騎士よりも危険な存在がいる場所ですが?」
「だから聖騎士も探さない。まさか〝竜王種〟の住処にいるとは思わないからな」
ムーラント大陸はかつてモンスターに溢れた大陸だった。
だが、長い年月をかけてモンスターの勢力は大陸辺境へと追いやられた。
人類によって。
だが、その人類でも手出しできない存在がいくつかいた。
その一つが竜王種だ。
数えるほどしか大陸にはいないが、その力は大陸最高クラス。
そんな化け物がこの山には住んでいる。
名は闇竜王ダークネス。
かつては大陸屈指の竜王だった。
だが、百年ほど前に当時の円卓序列一位の聖騎士と交戦し、片翼を斬り落とされてこの山に墜落。
以後、この山を根城にして動いてはいない。
そこからこの山は片翼山と呼ばれている。
「片翼を失ったとはいえ、竜王は竜王。その住処に踏み入るのは危険だ。だが、相手は常識の通じない変態だ。可能性はある」
「いやぁ……そこに目を付ける隊長も大概っすけどね……」
「私たちだけで行くのですか……?」
「もちろん。独立行動を許されている俺たちだから行ける。上層部に相談なんかしたら、止められるからな」
「そりゃあそうでしょうよ、自殺行為っすよ……」
「だが、情報が少なすぎる以上、読みで動くしかない。読みが外れれば、俺たちが危険に晒されるが……リスクはその程度だ。元々、意外な動きを期待されて俺たちに任務が回ってきている。その期待には応えないとな」
ブレントとセドリックは顔を青くしている。
それだけ竜王種というのは恐ろしい存在なのだ。
人類でも一握りしか対抗できない存在。
多くの場合、竜王種が捕食者で、人類は被捕食者だ。
「まぁ安心しろ。いざとなれば俺が倒してやる」
「全然安心できないっす……」
「その自信は一体どこから……?」
不安がる二人の部下をよそに、俺は片翼山への移動ルートを決めていった。