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《消えた御守り》  作者: びたみんC
3/6

消えた御守(3)

 だが他の宿題や部活に追われて自由研究は一時保留。気が付けば半月ほどが経っていた。


 三人は写真をプリントして郷土資料を学校の図書室から漁り、現役時代の駅の写真を見つけて比較しやすいように画策した。


「ちょいっす!久しぶりだなミズキィィ!」


 教室に入るなり脱兎の如く走って抱き着いてきたバカの股間を蹴り上げる。


「シャラァァプ!!セクハラ野郎は顔で床を磨いてな!」

「…ありがとう…ございます」


 その一言にバッと振り返ると、総司はオデコで床を磨いていた。


「水希、目が引きつってるよ…ははっ」


 サチに言われて顔がピクピクしている事に気が付いた。

 最近ちょっと総司の向かう先が心配になってきたが、これは私の責任もあるのだろうか?


 少し心配して総司の肩に手を置くと、ピクッと肩が反応した。


「すまん、やりすぎた」

「最近水希が男かと思う時があるんだけど…」


 その一言に優しく微笑みかけて言ってやったさね。


「その方が幸せだ。男だと思ってくれ」


 何故か「グフッ」と変な声を上げて、また床に突っ伏してしまった。

 私的にはいい答えだと思ったのだが?


「女神のほほえみ…」


 サチが妙な事を言い出した。


「ほら行くぞ」

「おう、本の位置取りは大体掴んでおいた」


 へぇ、いつの間に。

 てかこいつは部活以外にも学校に来ているのか?


 やっぱり総司はふざけているようで、まじめな部分があるような気がしてきた。



 …だけでした。


「やぁ、今日も図書委員お疲れさま」

「は?はぁ…離してください」


 図書委員の女学生の手を握り、いつもの挨拶とばかりにニコやかなスマイルを送っている。

 擬音が聞こえるなら、目からキラキラと言う音が聞こえたに違いない。


 私は総司の頭をひっぱたいて襟首掴んで引きずると、図書委員の女学生に右手で「ごめんね」と合図を送っておいた。


 今度は何故か女子生徒からキラキラした目を向けられたが、まぁこっちの方は結構慣れっ子なので気にしない。


 一種のカリスマ的な視線を『散髪の件』からよく受けるのだ。

 特に女子からね。



 気を取り直して、総司は以前調べたという場所に案内してくれた。


 そこは村の歴史や記録、歴任した村長以下三役が名簿になった本や冊子を収めた書棚。

 中には辞書のように分厚い物もあり、何処から手を付けた物か思案しているとサチが本を手に取った。


 それは土木工事の記録だった。


「そうか、橋だから工事記録を見れば直ぐじゃん!」

「ううん。これを見てくれれば分かるかな」


 それは橋や隧道、村管理の道の整備記録がビッチリと書かれていた。

 そして更に難解なのは旧字体だ。“ひらがな”は使われず漢字の合間にカタカナが差し込まれている。


 見ただけで頭が痛くなるような記録で、しかも橋と言っても橋の名前も分からないと来たものだ。


「だから俺達に任せろって言ったじゃんか」

「そうだねぇ、水希は帰る?」


 なん…だと!

 帰るわけがないじゃないか!


「私はね、今日から変わるのよ!」


 そういって村の歴史書の最初のページを開くと、目録だけでも目が回りそうになってしまった。

(えぇい!!負けない…私はできる子やれる子!)


『山の開拓史』

『山神』

『村と仏教』

『初代村長』

『農耕の伝え』

『村の発展期』

『鉄道誘致』

『治水ダム計画奮闘記』

『名誉村長』

『砂防ダムと暮らし』

『新幹線・高速道路の誘致失敗』

『バイパス整備と村の発展』



「くはぁ!ダメージがっ…」


 よもや集中して二人は聞いてもくれなかった。

 寂しくなって取り残されないように、それらしいページを開いていく。


(お爺ちゃんの話だと、橋の先には駅があったと…橋は生活に使うからもっと前よね?)


 だが当てずっぽうでも仕方ないので、とりあえず『鉄道誘致』という所から攻め込む事にした。

 廃駅があったのは事実だし、そこから見いだせる物をまず探そう。


 何やら昔の村民は血気盛んだったようで、全国鉄道網が整備されるにあたってこの村を素通りしようとした。

 だけどそれに反発して誘致したようだった。


(一体いくらの金が動いたの?政治家に出生者がいたのかしら…)



 だがしかし、いくら探せど誘致以外の事は記録が見つからなかった。

 徒労に終わり項垂れた所でサチが大きな声を上げて、静かな図書室に響き渡り焦っていた。


「あっ!見つけ…ぁ」


 サチが見ていたのは大正時代と昭和初期の地図。

 鉄道が未開通の地図と、敷設後の地図を比較していたのだ。


 大正の地図には等高線が描かれた“山”であるのに対し、昭和の地図は河川から道が何度も折れて駅に向かっていた。


 そして河川には今と向きが違う橋が描かれていた。


「「これだ!」」

「お静かに」


 思わず反応した総司と私は、図書委員の生徒に怒られた。

 確かにマナーとしてよくなかったが、それだけの成果が見つかり熱くなってしまったのよ。


(後は作られた経緯とか写真があれば完璧ね)

(あぁ、写真から見た歴史があったな…)


 それを開くと、白黒写真から始まり山の高台から村の全景を見渡したものまで沢山出てくる。

 農作業をする風景や仏像と祠に関するもの、そして完成した駅舎の写真が出てきた。


(へぇ、こんな一両の小さい車両が走ってたんだ)

(なんか藪だらけで今じゃ考えられないな)


 そこには祖父から聞いた通りの話があった。三人は図書室で必要なページのコピーを取り解散する事にした。


カナカナカナカ…


 だって気が付いたらもう夕暮れ間近。ヒグラシが鳴き始めているんだもん。


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