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《消えた御守り》  作者: びたみんC
2/6

消えた御守(2)

 水希の家は農道から外れて坂道を登ったところにあり、いつも項垂れながら登っていた。

 古い民家で網戸はあるが、建て付けも悪くなっており扉の締まりがあまり良くない。

 だが、基本的に玄関は開けっ放しだから問題ない。


 家に帰り冷蔵庫から麦茶を取り出すと、コップに注ぎ一気に煽る。


「ぷはぁー!」

「おっさんか!」


 母親に呆れられたように言われるが、いつもの事なのであまり気にしていない。

 そう言えば橋の事を知っているかもしれないので、聞いてみる事にした。


「お母さん、橋の近くに古い橋の跡があるんだけど知らない?」

「昔は山の上に鉄道が走っていたのよ。新幹線が通って廃線になったけれどね」


 なぬ。

 こんな片田舎に鉄道が通っていたと?


 今はバスがバイパスを通って街と行き来できるが、それでは時代が逆行しているではないか。


「なんでなくなったの?」

「乗る人が居なくなったからじゃよ」


 そう言って教えてくれたのは祖父だ。

 彼の話をよく聞こうと仏間に向かうと、線香の香りが鼻腔をくすぐる。

 祖父はこの村で生まれ育ち、その橋のことを詳しく知っていた。



 かつては橋からそのまま山道が続いており、中腹あたりにあった駅へ行けたそうだ。

 整備されていた時には軽トラックも登って行けたほどであると言う。


 家のそばの農道からそちらを望めば、駅が見えたと言うのだから信じられない。どう見ても木しか見えなかった。


 だが村も変わり、今となっては高速道路が空を舞い、地表では国道バイパスが田園地帯を縦横無尽に突っ切る。

 山中にも変革が訪れて新幹線が貫き、開通と同時に在来線は都市間を結ぶ為の特急が廃止。不採算路線として廃線になった。

 鉄道と呼べるものは、この田舎村には存在しなくなったのだ。


 したがって水希達は、鉄道の事を本やテレビでしか知らなかった。


 遠い昔の話なのだろう。

 そう考えながら聞いても無理のない事であった。



 今は携帯の電波もどこでも入る。

 頼めば家に宅配されるし、鉄道がない事に不自由さを感じた事はあまり無かった。

 でもそれは無いから便利さを知らない。と言うことの裏返しだったのかもしれないけどね。


(しっかし……長いわね)


 祖父の昔話に見切りをつけ、明日の準備をすると言って台所へと戻ることにした。


 部屋を出る前に「藪の中に入るのでは」と言う事で、仏壇から御守を渡してきた。

 私は純粋に心配してくれたことが嬉しくて、素直に祖父に感謝して抱きついた。




「こんのクソ暑い日にやらなくても良くない?」

「アホぉ!俺達から元気をとったら何も残らない!」


 クソッ、こいつの言うとことは的を射ているからタチが悪い。言い返せないのだ。


「総司君は頭いいから色々残るねー」

「ぐぬっ!体力バカの私にも引けを取らないし…」


 ワーワー騒ぎながら、静かな農道を3人は例の橋へと向かって歩いていた。


 私は少し前に「天気が良い日に現地を視察しよう」と提案した。それに満場一致でオーケーが出るも、この後現実を突きつけられる。


 真夏の山というものを、甘く見ていたのだ。


 普段遊ぶ分には対して苦労しないのだが、一度土地勘のない山に入れば別世界。

 薄暗く方向感覚は失われ、もと来た道がわからなくなる。

 僅かに自分たちの踏んだ轍は跡を残すが、それも落ち葉の上となると滅法なにも残らない。


「イタッ!」

「サチ大丈夫!?」

「笹の葉だな。ナタが必要だな!」


 笹の葉は非常によく切れる。

 気が付かないうちに切り傷だらけとなる事も多く、現在の相場では無理と判断して引き返す事にした。


 幸を治療するため、私は後ろの笹藪にもたれようとして事故が起きた。


 ガサガサ…


「ふぁ!」

「「水希!!」」


 私は笹藪を倒して盛大に倒れてしまった。

 だがその光景に目を奪われる。


 石垣だ。


 急カーブに使われた石垣と九十九折(つづらおり)の道らしき痕跡。


「綺麗…」

「あぁ、道が見える…」


 藪の先には道が残されていた。

 だがその先も道はまだまだ続いており、このまま進む事は躊躇われた。


「ダメね。装備が全然足りないわ」

「よっし帰ろう!」

「水希こわかったよー」

「よしよし、帰るまでが遠足よ」


 3人はそこで一旦山から出て、しっかりと準備をする事にした。


 赤チョークと赤リボン、そして赤い紐。

 全部赤だが、これは薄暗い山道や青草、枯れ草の色に混ざらず非常によく目立つ。


 せいぜい100m程度の道でも廃道となれば、迷わない準備をするに越したことはない。


 忘れてはならないのが全身防虫剤と長袖長ズボン。

 これは虫の他にもヤマビル対策だ。やつらは気が付いたら身体について吸血を始めるからタチが悪い。



 再び同じ場所に戻ってくると、ナタを使い道を切り開いていく。

 その感触に手応えを感じて、私は二人に合図を送った。


「よーし!再出発!わぁたしに続けぇ!」

「たはぁ!俺が行くよ!」

「まってぇ!」


 総司のやつ、最初に見つけるつもりか!?

 廃線の駅については私が祖父に聞いたのだぞ!


 負けじと先程の九十九折(つづらおり)が続くの石垣に着くと、3人は木へマーキングをしていく。

 こうする事で例え道を見失っても、ある程度は復帰する事が可能となるのだ。



 やがて坂道が終わりを迎え、太い木々が全く生えていない広い場所に出た。


「すごい…」

「すごいわ…初めて駅を見た」

「あの平坦な石が乗り降りする所か?イッチバンだぜ!」


 そう言って総司はホームへと駆け登っていった。


 古い割にホームの石垣はしっかりしており、かつて線路があった平場は一見してすぐに分かった。

 以前テレビで見た線路が見えるような錯覚さえ覚える。


 駅舎は残念ながら朽ち果てており、木造のそれは苔が生えており山の木々と同化していた。


 3人は手分けして携帯のカメラを使い、手当たり次第に写真を撮っていくと、総司が声を張り上げた。


「ウィー!手柄ゲットだぜ!」

「なんですってー!」


 旧線路敷きの方から声がした。

 まだ降りて確かめていなかったのよね。だから撮り負けた悔しさは強烈だったわ。


 でもそんな事直ぐに忘れた。


 私は嬉々として近寄ると、それは3色の丸いガラスがついた巨大な黒色の建造物だった。

 道路にもあり、これが何なのかはすぐに理解した。


 信号機だ。

 まさかの遺構に驚きながらも、かつての痕跡を見つけた事に悦びが抑えきれず、3人は手を繋いではしゃぎ倒した。



 よし帰ろう。

 そういったのもつかの間、何かの物音が気になった。


 パキッ。

 それは確かに鳴ったのだが、騒がしい夏の山の中では大して気にするような物でもなかった。


「何の音?」

「ん?鳥が枝を折ったんじゃないか?」

「変なこと言わないでよ水希…」


 何だなんだと言いつつも、3人は収穫を得たので帰ることにした。


 私は最後に駅の全景も撮った方がいいと思い、駅舎を含めて全てが収まるように何枚か写真を撮影しておいた。


 カシャ…カシャカシャ……


 写真に満足しつつ、徐々に映るソレに嫌悪感を抱く。


「そーじ!資料写真に入り込まないで!」

「心霊写真(偽)もあった方がいいだろう?」

「いらねぇよ!」


 蹴りを入れて黙らせると、私は何枚か撮影して終わらせる事にした。


「あっちの方は私が撮ったから大丈夫」

「サチが撮ってるならいいわね。おいソウジけぇるぞ!」


 総司はガバッと立ち上がって、スト2のダルシムが勝利した時のポーズ。腰を振りながら全身を使って手を振ってきた。

 完全に仮病を使っていた事のアピールだ。


 コイツは私の逆鱗に触れるのがよっぽど楽しいらしい。

 もう一度蹴ろうとしたところで、登ってきた九十九折の急斜面を思い出してやめた。


(ちょっとシャレにならない事になりそうね)


 最後は3人揃って廃駅をバックに自撮り棒で撮影。

 これは締めに貼れば、最高の自由研究になるなって思っていた。


 往路で草刈りとマーキングのおかげもあって、帰路は直ぐに橋に出る事ができた。


「後は図書室で歴史を漁って組み立てれば完璧!そして私も完璧!」

「水希に頭脳戦は心配かな〜…」

「おぅ、頭脳戦はな…後は俺たちに任せろ?なっ?」

「やるときゃやるわ!」


 二人は本当に失礼な。

 私だって椅子に座って本を読む事はできる!…30分くらいは?



 現在の橋まで戻り渡ろうとした所で、あの校庭で見た三毛猫がジッと動かずこちらを見ていた。


「あれはー可愛いけど、今はいいかな」

「んっ、水希もそう思う?」


 なんとなぁく気持ち悪いなと感じた。

 そして足早に猫の横を通り過ぎた瞬間、突然寒気に襲われてしゃがみ込んでしまった。


「なッ!あぁぁッ!!」


 ガチガチガチ…!


 震えが止まらない!

 何が起きたか分からない…背中に激しい違和感を感じる!


「ニャー…」


 突然猫がかわいい声で鳴き出した。

 すると突然襲ってきた背筋の悪寒は消え去る。


「なんっだ…これは!」

「分からない…でも助かったわ…」


 猫はそのまま橋を渡って、駅のあった方へと消えていった。


 3人は顔を見合わせるが、それぞれ何があったのか理解できないと言う表情だった。

 まだ背筋には違和感があり歯はガチガチと震える。


 だが立てない程ではない。


「何だったんだあの猫?」


 全員がその質問を持っており、回答を持ち合わせる者は居なかった。


 その日は一先ず備品の片付けをして解散。後日学校に集まる事にした。



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