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《消えた御守り》  作者: びたみんC
1/6

消えた御守

 ジッージッージッー…


 机に突っ伏し暑さにダレる。

 外からは常夏の大合唱が聞こえるが、誰も気にも留めない。


 だっていつもの事でしょ?


 蝉が鳴く。

 小河のせせらぎ。

 葉が揺れるサラサラ。


 この季節の風物詩をウルサイと一蹴してしまっては、あまりにも風情が無いのではないかと思う。


 だがそんな風情もへったくれもない声が場を支配する。


「ゔぁー!サチぃ……うちわを…」

「はいはい、水希は名前負けね」


 そう言って前の席に座る友人のサチは、茹だる私に向かって微かな清涼を送る。


 私は2年目の夏を迎えた中学生。

 まだ遊び盛りの最後の夏休み前と生き生きしていたが、先生達は今から進路の準備を…と息巻いている。


 とても残念な話だが、双方の気持ちは密着していなかったのだ。

 こんな田舎では上京して高校に出るか、近場の隣町に進学と言う位しかない。


 サチから送られる生温い風を片手で遮ると、私はガバッと起き上がった。

 それに驚いた奈々は訝しげな表情を浮かべて問いかける。


「…どしたの?」

「あそこ、備品倉庫のあたりにネコ」


 よく見ると三毛猫が校庭の砂に擦り付けるように、右へ左へとゴロゴロしていた。


 かわいいなアイツ。

 その動きは傍若無人でありながら全てが許されると言う、しかし対価としてこの上ない極上を見た者に寄与する。


 そんな三毛猫の横を、背丈の高い男子生徒が通りかかるを見た。


「そ…」

「そ?」

「そうじー!」


 2時間目も終わり、3時間目に入ろうかと言う時に校庭を歩く金髪の男。

 学生服からこの学校の生徒と分かるが、遅刻確定の時間である。


 その男が大手を振りながら、超スマイルをこちらに投げつけてくる。


「チィース!あちぃな!」

「おせぇよ!遅刻すんなや総司!」


 総司はいつもそうである。

 あまり時間通りに来ないので、よく先生に怒られていた。髪の色も合わせて。



 バリカンであの金髪が刈られそうになった時は、私も巻き込まれてしまった。

 私としては不本意な話であるのだけど…


 刈り取った髪が落ちては大変と、教室のゴミ箱を蹴り飛ばして受けようとしたのだ。


 つまりね、先生の手伝いをしようとしたの。


 結果それに驚いた先生は、総司を手から離して逃げてしまった。


「サンキュー!マイハニー!」

「ハニーじゃねぇ!ウォーターだ!」

「水希、そこじゃないと思うなー」


 サチはあきれた感じでみていたが、先生がタコみたいに顔を真っ赤にしていたので早速さと逃げを決めた。


「水希ィィィ!どう言うつもりだ!」

「ひぇ!違いますぅ!髪の毛落ちたら掃除が大変だから…」

「総司が大変だから助けたのか!」

「ちげぇよハゲ!」


 紛らわしい名前してるからもう!


「私はまだハゲてない!!」

「♪クール!カット来る!まーだまだ〜」

「「ぎゃははは!」」


 盛大に笑いながら脱兎のごとく校庭を横断して帰った。あっ、それから皆には姉御みたいな目で見られるようになってしまった。


(ちなみに総司とはマジで付き合ってないからね)


 先生も田舎なので下の名前で呼んでくれる。

 まぁ、私と総司は名前で呼ばれる不思議なオーラみたな物があるみたい。


 いや、今はそれはいい。

 またあのバカのせいで、私が先生に怒られたのでは損しかない。

 職員室に連行される総司を後目に、チャイムが鳴り入室する先生に誠意を見せる事にした。


 暑い中の授業は終わり、放課後を迎えるとまた一つ問題が生じる。


「イーヤッホウ!部活行くぜ!!」

「まてぇ!掃除していけぇぇ!!」


 ぐふっ!


 走る総司の首根っこを掴み、片足を引っ掛けて投げ倒す。変な声を上げたが、まぁ頭は守っているので問題ない。


 総司を覗き込み、私は箒を持ってニコリと笑顔で告げた。


「総司君、サボっちゃダメだぞっ」


 総司は目を見開いてボケッとした目で見返してきた。

 垂れるポニーテールが鬱陶しいので手で払い除け、箒を放り投げた。


「キビキビ動かんか!」

「は、はいぃ!」


 総司はすぐさま起き上がり、箒を持ってダッシュしていった。


「あんのバカはぁぁぁぁ!!」


 そっちは教室ではない。



 毎日がクソみたいな日々は嫌だ。だから一生懸命本気でバカやって楽しく過ごそう。


 これが3人共通の考え方で、自然と仲良くなる所以だった。因みに総司はバカをやるが、暴力的と言う物はない。


「そんなつまらない事をしても意味がないから」


 と言う至ってシンプルな答えだった。


 帰り道の公園では子供達が遊び、山の先には積乱雲が見える事から帰るように促す。


「濡れた土草の匂いがしたら焦らず帰れよー」


 そう言って子供達に注意をした。これは田舎に住む者なら自然と身につく知恵だ。

 風上で雨が降れば、風が急に冷たくなり地面の濡れた匂いがする。これは風に乗って雷雨が来る可能性が高い。


 公園を過ぎて小さい河川に沿った側道を歩いていくと、やがて対岸にわたる橋がある。

 橋を渡る最中に、直ぐ横には別の橋が掛かっていたと思われるコンクリートの橋台を見つけた。


「ねぇ、こんな物あったっけ?」

「うん、だいぶ前から知ってたよ?」

「知らなかった…」


 そこで総司は腕を組んで偉そうにふんぞり帰った。


「んだよミズキィ〜本当に村民か?」

「お前に言われると腹立つわぁ」


 これは総司の奴も知らなかったな。絶対そうに違いない!

 私は悔しさ半分に、その橋台跡をよく観察した。

 橋のかかる方向から、その先は山の方へと向かっているのが分かる。


「ねぇ、あっちかな?」

「ぇっ…行くの?」


 サチは藪が濃いのもあって、あまり行きたそうにはしていなかった。


 たしかに私も行きたくない。

 だがこの天狗の鼻はへし折らないと気が済まない!


「サチは待っててもいいよ」

「いや、楽しそうなら私も行くわ」


 それに私と総司は満足したように頷くと、背丈ほどもある藪を漕ぎながら旧橋の方へと歩を進める。

 なんとか橋台跡地まで進む事ができた。精々20メートルほど距離を進むのに汗だくである。


 向かいを覗くと、対岸は今の橋とほぼ同じ場所にかけられていた。

 そして問題が山の方だ。


 奥は竹藪となっており、とてもじゃないが進める状態では無かった。だが微かに道筋のようなものが見てとれた。


「これはちとキツイな」

「水希、限界かな?」


 んー、総司がマジな感じだ。

 雷雨も迫ってきてそうだし、この辺りでやめる事にするか。


「ごめんね帰ろう。でもこれ気にならない?」

「それなら、この歴史を自由研究にしたらどうかな?」


 そう、もう夏休みも間近に迫った時期であった。いつも植物の観察日記(農作物)と言うのは飽きていた。


 ちなみに皆が考えるような物ではないからね。


 使う農薬の種類。想定される病気に日照時間とビニール保温の関係や除草剤。

 それに台風防護方法。


 植木鉢だと思った?

 あ・ま・い・よ。


 一行は自由研究課題だとして、夏休みに調べると約束してわかれた。



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