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1章 〔時の流れ〕

 

 グオォォ……。

 

 人とは思えぬ咆哮…それは命の輪廻から外れた異形の者達が放っていた。だが、響き渡る金属音と共に消え去っていく……。

 

 白銀の染まる髪を持つ、青年のような少年…ただ1人残して…。

 

 

 §

 

 

 

 「ちっ…王の都って呼ばれていたって言うから来てみれば……この有り様かよ!!」

 

 

 イラつく感情任せに近くに落ちている鎧の残骸を蹴飛ばす少年。

 

 ここは、かつて栄華を極めし王都でだった。王の意向により、闇と光の民が隔たりなく入り乱れて集い、草木や花などが咲き溢れ、大陸の中央部に位置していたこともあって様々な店舗が見受けられていた。

 

 

 王が住居としていた城は北西に位置するルムセフ鉱山産の煌びやかな白輝石で造られている。決して純白とは言えない透明感漂う白なのだが、見る者を魅了する程、城自体が美しい彫刻ようだとある貴族が賛辞を惜しまなかったという説もあるくらいだ。


 国を守り、王へ深い忠誠心で団結されているダストニア騎士団、そして国を統べるダストニア王、人々は平和の恩恵を存分に受け、豊かに暮らしていた。


 だが、時は15年弱が過ぎた。今では街から活気は消え失せ、朽ち果てた建物が目立ち、草木に至ってはその残骸すら見つけるのが難しい。あの美しく栄華の象徴だったダストニア城は何者か攻撃か、特に破損が激しかった。更に風化なども手伝い、見るも無惨な光景だ。街全体に人の気配など微塵も感じとれない。……あの事件もあり、いつの頃からか、人々は呪われし地《死者の都》と呼ぶようになった。

 

 そんな普通の人であれば恐れを抱き、決して近づかないこの場所をズカズカと物怖じせずに歩を進めている。年端もいかない少年が…だ。むしろ感情任せに突き進んでいるようにも見えた。


 老朽化が進んでいる天井を見上げる事もなく、一際大きい廊下に出た。だが、出た所は二手に分かれている。少年は迷わず、右の道へと進んで行った。目的ある場所を繋がる道なのかはわからかったが、とりあえず進んでいく。 

 

 どうやら地図らしき物は持ち合わせていないようだ。持ち物と言えば、なめし皮製の水袋、ショートソードより更に短い両刃の剣、2本のナイフ。内の1本は鞘の先端部分が大きいのが気になるが…。服装は中に着ている鎖帷子と黒のフード付きマント以外は旅人とさほど変わらない。要するに勘。物事を余り深く考えない性格とも読み取れる。

 

 王宮内が静観しているせいなのか足音はどこまでも響く。足音のせいか、それとも少年が手にしている古ぼけたランプの光のせいなのか、休みなく湧いてくるグール。またか…と溜め息をつくもまったくと言っていいほど苦にもせず、切り倒していく。

  

 手にする剣の重さにも更なる苛立ちを覚え始めるがグールの数は一向に減らない。少年の斬撃は的確にグールの首を切り落とす。頭部と胴体を断ち切れてしまってはグールもただもがくだけで、しばらくするとピクリとも動かなくなった。

 

 迷いもなく、一撃で仕留めていくがある疑問を抱き、若干ながら歩を早めた。


 《……多すぎる…ネクロマンサーがいてもこの数…いや…こんなに弱くはなかったはず……》

 

 ネクロマンサー…いわゆる死霊使いの事だ。本来ならば、死者と交信を行い、生者が持ち合わせていない情報、あるいは知識などを用いて、占いや死者との対話を仲介するなど、極めて稀な特質的な能力だ。 

 

 前国王をこの限られた能力を重要視すると同時に監視という意味で高位のネクロマンサーを城へと招聘した。

 

 監視とは…ネクロマンサーに禁術として唯一使用を禁じた術の事。死者の蘇り…。一度に多数というわけではないのだが、高位の者が使用すれば生前となんなら遜色ない程の肉体と知性を持つと言い伝えられている。

 

 しかし、この王宮内を徘徊している死者は枯れ木ような肉体に動きも緩慢だ。知性などないに等しい。天命とは別の死で、激しい怨念などでさ迷う魂が亡者となる事も有ることは有るがこれも稀にだ。少なくとも一度にこれほどの数などありえない…。

 

 少年はふいに立ち止まる。いくら動きが遅いとはいえ、徐々に近づいてくる。だが、その表情には焦りなどない。何かを察し、この状況では有り得ない歓喜に満ちた顔へと変える。

 

 

 「……ククッ…、面白くなってきたよ。まったくあんたには感謝だよ、ダン」

 

 

 高揚を抑えきれず、顔を手で抑えながら静かに笑う。ナイフと先程使用していた剣をまるで喜びを表すようにすり合わせ、金属独特の音を奏でながらグールの集団を突っ込んで行った。

 

 

 その先にある淡い光を放つ物を目指して……。

 


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