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ダンジョンズ&かませ犬s  作者: 気づいたら寝てた
第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ
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第7話 再結成

「や、やっと静かになったか……」


 ひとしきり感情を爆発させてようやく落ち着いたというべきか、とにかくベルティーナは潰れてくれた。


「ウ、ップ。そう、だね、そこをまさに話そうと思ってたんだよ」


 あーあー。オスカーの奴しこたま飲まされたもんな。

 ゲップは我慢すると体に良くないぞ


「これからどうすべきなのかって話なんだけどね……あ、ちょっと待ってくれないか。おーい! こっちだ。こっちだよギフン」


 上半身を大きく伸ばし酒場の入り口に向かってオスカーは大きく手を挙げる。

 その視線の先にはドワーフの侍。ギフンがいた。


「ギフン!? おお! ギフンじゃねえか! 戻ってきてたのか!? オスカーお前知ってたの!?」

「ああ、最近耳にしていたんだ。ものすごく腕の立つ赤髪でドワーフの侍の噂をね。もしかしたらと思って調べたらやっぱりギフンだったよ」

「おお~。こりゃまた懐かしい顔ぶれだな。この四人が揃うなんて何年ぶりだよ」


 驚いた。これじゃまるで同窓会だ。

 ギフン。一言で言えば炎のような男だ。

 髪の毛と立派なヒゲは燃えた炎のように赤く、その戦いぶりはまさに”猛火”としか言いようがない。

 一度その業火が巻き起これば目の前の敵の首と胴体はあっという間におさらばだ。

 その勇猛果敢な戦いぶりに反して趣味は料理というから驚きだ。

 こいつめちゃくちゃ凝り性だからな。

 昔、四年前だっけっかな。夜営中に食事当番のギフンが深刻な顔をしてるからどうしたのか訪ねたら


 『アイザック。今日の食事なんじゃが鶏肉をバターでブルモンテしてエギュイエットに切ってからリエしたソースをかける感じでいいか? 食材も、調理器具もまともにないからそのくらいのものしか作れなくての……すまん』


 とかなんとか言ってくるから少し悩んだフリをしてから『うん。いいと思う』と、真顔で答えたことがあった。


 そんなギフン以上の侍を俺は見たことも聞いたこともなかった。

 ここより遥か東。東方という地域発祥のファイター。それが侍だ。

 まるで芸術品と見紛う程に薄い独自の刀剣である「刀」で戦うギフンは間違いなくパーティ随一の攻撃能力を持っており、一対一でギフンに勝てるモンスターはこの世に存在しないのではないかというほどに戦闘技術に優れた侍だ。

 彼の奥義である”居合”は瞬きする間に相手を木っ端微塵に切り裂く。

 初めて見たときは実は彼は魔法使いなのではないかと錯覚したほどだ。

 実際侍は軽い魔法程度なら扱えるらしいが俺はギフンが魔法を使っているのを見たことがない。

 使う必要がないのだろう。かっこいい!

 そんなギフンが手を振りながらこちらのテーブルへゆっくりと近づいてくる。

 その足取り、佇まいでわかった。

 ギフンもレベルドレインされていると。

 昔のギフンはダンジョンだけでなく酒場でも、どこか油断のない雰囲気を纏っていた。

 腕利きの暗殺者に不意打ちされようがいつでも真っ二つに切り伏せるだろう。そう思わせる安心感があった。

 だが今こちらに向かってくるギフンにはそれがなかった。レベル5くらいの新米盗賊に不意打ちされたらあっと言う間にコロリと逝ってしまうんじゃないかという儚さがあった。

 もうただのかわいいオッサンドワーフだもんこれ。完全にこれから一杯引っ掛けます的なおっさんドワーフだよこれもう。


「久しぶりじゃのうみんな。事情はオスカーの手紙でだいたい把握している」

「久しぶりだなギフン。腰に下げてるそれはやっぱりナマクラか?」


 ギフンが身につけている刀を指差す。

 過去に目にしていたギフンの刀はまるで目があっただけで、自分の姿がその刀身に映し出されただけで引き裂かれてしまうような美しさがあったものだ。

 だけどもこいつが今身につけている刀にはその危うさが一切感じられなかった。



「鋭いのう。自慢の逸品にヘソを曲げられてな。駆け出しの時に使ってたやつを引っ張り出した。まさかまたお世話になるとは夢にも思わなかったわい」


 弱々しい笑顔を浮かべながらギフンはオスカーのエールを奪って一杯煽る。


「しかしギフン。君、随分と遅かったね。朝一に”火吹酒と魔法使い亭”に集合って手紙にも書いてあっただろう?」

「いやあついつい道に迷ってしまってのう。こっちに来るのも久しぶりだったものでなあ」


 髭をクルクルといじりながら返答するギフン。

 嘘だ。こいつがヒゲを忙しなくいじくる時は大抵やましいことがあることの裏返しだからだ。


「あ、俺わかったわ。俺とオスカーがベルティーナを落ち着かせている所を見て、それに巻き込まれたくなくて時間をズラしたんだろ?」

「な、なんのことじゃ……」


 汗を浮かべて露骨に目を逸らすギフン。


「なんて侍だ! 君たち侍の生き方には”義”ってものが尊重されると聞いたんだがな! 本当に君はレベル20の侍だったのかい!? ……まっず!」

「こいつこういうとこあるよな! 侍なのにゲスいんだよこいつ!」

「ゲスくないわい! ワシ以上に義に溢れてる侍はいないってくらい義が溢れてるわい!」

「もう年だなギフン。肛門から収まりきらない義が垂れ流れてるんぞギフン」

「義は垂れ流れるもんじゃないわい!」

「わかったわかった。アイザックもギフンも落ち着いて。それとエール返して」


 そんなギフンの手からオスカーはエールを奪い返した。


「す、すまんな。どうにもワシは酔ったベルティーナが苦手でな……」


 恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべるギフン。すぐバレバレの嘘をつくんだよなあギフンは。


「それでオスカー、旧パーティメンバーで親交を温める為に私達をここに呼んだわけじゃないんでしょ」


 突っ伏していたベルティーナが上半身を起こしてオスカーのエールを奪い取る。

 もう起きたのかこの女……


「そうだな。何か考えがあるんだろ。それともまだお客さんがくる予定なのか?ギフンで最後か?」

「ああ。これで全員だよ。それじゃ話そうか」


 オスカーはテーブルに大きく身を乗り出して俺、ベルティーナ、ギフン。全員を見回す。


「僕らでもう一回迷宮を潜ろう。レベルドレイン被害者パーティでね」

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