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4話 気づかれない男
「くっくくく……」
デパート西側、5階と6階の間にある階段の踊り場で一人の男が笑っていた。
日曜の昼二時頃。
家族連れを中心に多くの人がいきかっているが、誰一人として彼を見る者はなかった。
男は、ゴーグル、夜戦服、タクティカルベストといった姿をしており、配色は黒で統一されていた。
アサルトライフルやハンドガンも所持していて、一見すれば特殊部隊の隊員である。
あきらかに場違いの異様な格好をしているのだが、皆、男の前を素通りしていく。
一番興味を引きそうな男子児童でさえも。
その異常さ、自分に気づかないでいる人々に、男は笑っていた。
こんなにも堂々といしているのに……。
立ったまま壁にもたれかかるようして腕を組んでいた男は、すっと体勢を直し歩き出した。
「さて、はじめるか……」
これから始まるパーティーに期待を膨らませ、男は笑みを浮かべた。
階段を上がり6階を見回す。
子供服や玩具、書籍などを扱うフロアは老若男女を問わず、笑顔で溢れている。
この光を、これから俺が潰す。
おもむろに右手を上げると、男はグローブごしに指を鳴らした。