3話 教師と店員と卓郎
「あ、由美先生だ」
「那月ちゃん?」
ばったり出会う教師と教え子。
デパート6階。
書籍売り場と子供服売り場の境目付近にいた教え子が、通りかかった教師に声をかけた。
「那月ちゃん、ずいぶんきれいなワンピースね。とてもよく似合ってる」
「うん、すごい好きなの」
青地に黄色の三日月模様が施されたお気に入りのワンピースを褒められ、教え子である小学五年生の那月は満面の笑顔で答えた。
「今日は家族でデパートに?」
「そう、弟の陽太も一緒だよ。いま母さんとゲーム探してる」
言いながら、那月は奥の方を指した。
そこには玩具売り場で楽しく会話している、一組の母子いた。
「那月ちゃんは行かないの?」
「福さんとお話ししたかったから。あ、紹介するね先生。こちら、いつも元気に話してくれる子供服売り場の担当、福原晴子さん」
「え? 初めまして、福原晴子です」
「そしてこちらが私の担任の、中川由美先生」
「な、中川由美です。よろしくお願いします」
不意に紹介され、ぎこちなくも大人の女二人は挨拶をかわした。
中川は30才の独身女性で、身長は一般的だが、特筆すべきは白いブラウスで隠し切れないFの美乳の持ち主であること。
くびれた腰から赤のスカート、長い栗色の髪にエンジのベレー帽を被って、上品さと色気を併せ持っていた。
福原も独身で年齢は26歳。ピンクを基調とした女性店員の制服を着ている。
彼女の特徴は何と言っても175センチの身長だろう。
黒髪のショートヘアが似合い、スレンダーな体型もあって、健康的で明るい印象がある。
お互い笑顔を向けあう。
────そこへ一人の男が声をかけてきた。
「おや、福原さん」
「あ、卓郎さん」
福原が答えると、そこには金縁のメガネをかけた糸目で痩せ型の、青年と思しき人物がいた。
シャツにジーンズという、いかにもオフです、といった格好をしている。
「お仕事ご苦労さまでッス」
「お気遣い、ありがとうございます。今日はお買い物ですか?」
「はい。たまにはデパートを見て回るのもいいかと思いまッシて」
その様子をじっと見ていた中川が、はっと気づいた。
「もしかして……、Ⅿ高校の卓郎君?」
「よもやと思っていましたが、中川さんでッスね。お久しぶりでッス」
そう言うと本名、三宅卓郎は軽く頭を下げた。
「先生と晴子さんも、このお兄さんと知り合いなの?」
きょろきょろと大人の顔を見るようにしながら、那月が言った。
「ええ、彼は私の高校時代のクラスメイトでして────」
「私が住んでるアパートのお隣さん」
答える中川の視線を受け取り話す福原。
「へえー、すごい偶然!」
純粋に驚いた目をさせながら言う那月。
「そうですね」
「確かに」
「本当でッス」
三宅は微笑むが、中川と福原はなんとも固い笑顔だった。
そのつもりはなくても、男の昔を知る女と、今を知る女という状態が、元カノ今カノのよう感じになっている。
「た、卓郎君はいま、何の仕事をしているのですか?」
話題を振って、この感覚から離れようと中川が訊いた。
「いまは建築の設計に関した仕事をしていまッス。そういう中川さんは?」
「私、小学校の教師をしています。この子の担任です」
言いながら那月を見る中川。
教え子はにっこりと笑みをうかべた。
「岩東那月です。よろしくお願いします」
自己紹介をし、会釈をする那月。
その愛らしい姿に大人たちは、ほっこりとした表情になる。
「こちらこそ、よろしくお願いしまッス」
笑顔を向けあう三宅と那月。
────だがこの時、その笑顔のむこうでデパート全体を揺るがす影が動いていた。
これで「世界夜」における那月と七柱の神となる人物全員と出会ったことになります。
次から物語が動きます。