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1話 探理官

「向こうの彼女だね」

 そう言って伊藤拾伍(じゅうご)は相棒に確認をとった。


「ああ、間違いない」

 拾伍の左横にいる相棒、鮎元樹理(あゆもとじゅり)は冷静に答えた。


 6月に入ってすぐの日曜。

 東北の地方都市にあるデパートでは多くの人で賑わっていた。


 時間は午後の二時をむかえようとしていたが、家族連れを中心にショッピングを楽しみ、笑顔が溢れている。


 そんな中、先述の二人は少々、趣きが異なっていた。


 伊藤は35才。中肉中背で、身長が180センチあるイケメンを代表するような男性。


 鮎元は28才の女性で、背中まで届く黒髪のロングヘアに褐色肌で、モデルを思わせるグラマーなスタイルをしている。


 二人ともスーツ姿で、はた目にはカップルというより仕事仲間に見える。


 とくに鮎元はサングラスをかけ、スカートではなくパンツルックなので、やり手のビジネスマンのような雰囲気があった。


それだけならば出張先で土産でもということになるかもしれないが、当然、そうではない。


 二人は探理官(たんりかん)であり、ジャケット下の左脇にあるホルスターには魔法を撃ちだせる銃、スピールが収められている。


 探理官は、国が認める取り締まる者であり、その対象者は魔法犯罪者である。

 場合によっては戦闘もあり得るため、銃刀や魔法の使用、殺人が許可されている。

  

 そんな二人がいるのはデパート2階の婦人服を扱うフロア。

 ゆえに若い女性を中心とした客が多く、友人や恋人と相談しながら、自分に似合う服を品定めしている。


「……僕が撃つ。君は触れてくれるかい」

 伊藤が耳元で囁くように言うと、鮎元は小さく頷いて答えた。


 --二人の視線の先には一人の女性店員がいた。


 年は二十代半ば、ピンクを基調とした制服が似合い、可愛らしいかんじがする。

 彼女は一人、棚に置かれたデニムを整えていた。


 周囲は自分の買い物に夢中なうえ、店員に声をかけようとする雰囲気の二人に違和感を感じる者はいない。


 鮎元を先頭に伊藤が斜め後ろからついてくる。


 そして、鮎元の左手が店員に触れるのと同時に、伊藤は鮎元の右手を握り、懐に手を差し入れ引き金を引いた。

 

 無音だがガラスを割ったような破片が店員の身体から飛び散った。

 黒い半透明をしたその破片は、そのまま音もなく消え、まわりには何も残らなかった。


「ちょっといいか」


「あ、はい」


「サマージャケットを探しているんだが、どこにあるか教えてくれないか」


「はい。ええっと、あちらにコーナーを設けております」


「そうか、ありがとう」


 自身に何が起こったのか気づくこともなく奥の方を示す店員に礼を言って、鮎元と伊藤はその場を離れた。

 繋がれていた手も既に離されている。



 --連結射撃による解呪。



 伊藤のスピールには解呪の魔法が装填されており、本来であれば対象に銃口を向け引き金を引く。

 だが人前でそれをするわけにはいかないため、発動した魔法を二人の肉体に通して利かさせたのだ。


 不自然に感じさせない僅かな時間での動作ゆえ、それに気づく者はいない。


「仕掛けられていたのは()りの魔法だった」

 歩きながら鮎元が小声で言った。


「なるほど。現地で人員調達。よくある手だね」

 伊藤も同じようにして答える。


「何人に仕掛けたか知らんが、仕掛けた奴を押さえねばならん」


「うむ。不意に魔法が途絶えて犯人も動揺しているだろう。尻尾を出してくれるといいが」


「ないよりましの希望だな」



 --二人が話していると、目の前に一人の少女が現れた。



 小学5年生くらいだろうか。

 肩にかかる程度にのばした黒髪と青地に黄色の三日月模様が施されたワンピース姿の少女は、きらきらとした瞳をさせながら口を開いた。


「お兄さんとお姉さん、かっこいいですね!」


「!?」

 思いがけず言葉をかけられ、警戒する伊藤と鮎元。


「……」

 しかし、そこに魔法はなく、純粋な気持ちだけがあった。


 顔を見合わせると二人は少女の目線にあわせ、しゃがみ込んだ。


「光栄だね。ありがとう」

「そう言われたのは初めてだ。ありがとう」


 微笑みながら礼を言うと、少女も嬉しそうに笑みをうかべた。


「那月ー」


 声のする方を見ると、三十代半ばの女性と五才くらいの男児がいた。

 察するに少女の母親と弟だろう。


 不意にいなくなった少女を探していた様子だった。


「あ、いっけない。それじゃあね、お兄さんお姉さん」


 そう言うと少女は手を振りながら笑顔でかけて行った。


 伊藤と鮎元も手を振って返した。


「那月、か。なんだろう、あの子に運命を感じる」

 親子を見送り、立ち上がりながら鮎元が言った。


「偶然だね。僕もだ」

 同じようにしながら答える伊藤。


 ジャケットを着なおす仕草をしながら、左脇にあるスピールの存在を確かめた。

同じく投稿しています「世界夜」の前の物語になります。


よろしくお願いします。

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