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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「裂き」たちの思惑 

掲載日:2019/05/16

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共に、この場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おーい、つぶらやくんよ。外から室内へ上がる時には、ちゃんと足を拭いてからにしてくれないか? ほら、廊下にだいぶ足跡がついちゃっているじゃないか。

 避難訓練は、律義に外履きに変えたりしないぞ。避難中はそんな暇がないかもだからな。でも、訓練の時間が終われば、またここは大勢が行き交う学び舎の床だ。いたずらに汚しちゃまずいぞ。


 うん、よし。これでだいぶきれいになったかな。

 別にこの時に限った話じゃない。たとえば、雨に降られて靴の中がぐしょぐしょになってしまった時とか、君はちゃんと足を拭いているか? 男らしく、裸足で室内を闊歩したりしていないだろうね?


 ――その顔では、「全然守っていません」とでも言いたげだね。


 先生も若い頃は似たような感じだったから、あまりきつくは言いたくないのだけどね。ちょっと前に、古い友達と同窓会で会った時に、気味の悪い話を聞いてしまったんだ。その注意喚起とでもいえばいいかな。

 君も説教より、この手の話の方が好きだろう? 放課後にでも、少し話そうか。


 先生の古い友達は、小学校で三年間同じクラスだったけど、途中で引っ越してしまった子なんだ。一緒に卒業したわけでもないその子を引っ張って来られるなんて、幹事役はなかなかのコネクションを持っていると見えた。

 友達自身、一緒に卒業まで行っていないみんなと、顔を合わせるのは気まずいんじゃなかろうかと、会が始まるまでの先生は心配していたよ。

 しかし始まってみると、彼は土産話感覚で、引っ越してからのことを色々と先生たちに話してくれた。で、今からする話はお互い、少しお酒が入っていい気分になってきた頃に、こぼれてきたものなのさ。


 引っ越してから半年ほどが経ってからのこと。友達は新しい学校のみんなから、ある怪談話を聞く。

 この地域には昔から、人の足を集める妖怪が存在しているとのこと。あるものを踏みつけると、その踏んだ主を追いかけて、最終的に足を取ってしまうんだとか。

 何を踏みつけたらトリガーとなるかは、人によってまちまちのようだ。が、家に帰り着いた時、いつの間にか履物の裏側がべろりと全体的に剥けてしまうようならば、それが兆しだという。

 時間が経つと、被害に遭うのが履物の裏に履く足袋となり、足の裏の皮となり……やがて、足首やすねを持っていかれる者さえ現れたとかなんとか。

 傷の断面は、切れ味の悪い刃物で何度も切りつけたかのような、汚いもの。「断つ」よりも「裂く」という表現の方がしっくりときて、いつしかこの現象は「足裂き」「足首裂き」「すね裂き」などと呼ばれるようになった。

 そして彼らは、今でもどこかに潜んで、獲物を待ち続けているという……。



 学校の帰り際にその話を聞いた友達は、表向きは「ばかばかしい」と流したらしいけど、内心ではびくびくしっぱなしだったらしい。

 話によると、何が引き金になるかは人によって違う、とのこと。家までの最短距離である、すっかり葉ばかりになった桜を生やした、河川敷を突っ走る。

「気をつけようがないじゃないか!」と、頭の中で愚痴り出した時。

 突風が吹き、転がってきた紙切れを、友達はまともに踏んづけてしまう。見ると、選挙候補者の一人がうつったポスターだった。

 いたずらをすれば罰せられると注意がされているのに、誰が手を下したのか。顔から半分が真っ二つになる無残な造形で、今、友達によって容赦のない足跡までつけられてしまった。

 あの話を聞いた直後ということもあり、気味が悪い。友達は湿っているわけでもないのに、やたらへばりつこうとするポスターを無理矢理引き剥がし、ポイ捨て。そのまま、家までまっしぐらだったんだ。

 徒競走でもないのに、これほど走ったのは久しぶりだ。息を切らしながら上がり口に腰を下ろし、靴を脱ぎかけたのだけど、その両足裏のゴムがべろりと剥ける感触がした。

 まさか、とひっくり返して靴底を見てみる。地面と接するゴム面が、つま先からかかとにかけて、ほとんど剥がれてしまっている。靴を買ってから、まだ一ヶ月程度しか経っていない。その間、学校の体育でどれだけラフな扱い方をしても、びくともしなかったゴムの底。学校を出るまでなんともなかったそれが、今や息も絶え絶えで、靴にしがみついている状態だったんだ。


 ――足裂きに目をつけられたんだ。


 靴箱の下に犠牲者となった靴を、放り込むようにしまうと、友達は自分の部屋へ逃げ込んで、その日はもう食事とか風呂以外では、動こうという気にならなかったという。


 偶然だと思いたかった。たまたま靴の故障が重なっただけで、本当は足裂きなんて嘘っぱちだと。

 けれど、次の日。学校に登校して昇降口で靴を脱いだ時、見てしまう。起きた時に穴が開くどころか、生地が薄くなっていないか確認した、ほぼ新品の靴下。その足の裏に面する部分が、しっかり破けてしまっていることを。

 ぱっと他人が見ただけなら、気がつかない。でもひっくり返せば、自分の素足にひっついた、廊下のチリだってよく分かる。

「いよいよ持って、やばいんじゃないか」と、友達は昨日、足裂きの話をしてくれた、クラスメートに詰め寄った。

 昨日の今日だけに、初めは逆に自分を怖がらせようとする作り話だと、鼻で笑われたらしい。でも、ランドセルの中へ突っ込んできた、底がほとんど剥がれた靴。そして足の裏に当たる生地だけが、きれいに削り取られた靴下を見せると、顔色が変わる。

 二人は休み時間に、廊下の端のひとけがないところへ。クラスメートも話をした時は、単なる怪談に過ぎないと思っていたらしい。いたずらじゃないことを確認してくる言葉に、大きくうなずいた友達は、対策がないか尋ねてみる。

 言い伝えで悪いんだけど、と前置いて話をするクラスメート。


「本当に足裂きが狙いを定めているのなら、次に足の裏の皮膚が狙われる。その次に足首から膝に掛けてのどこかを、『裂いて』持っていくはずだ。

 もし、足の裏の皮が引き剥がされることがあれば、しっかりと履き物を履くと共に、長ズボンで足を隠すんだ。履く物も重ねた方がいいらしい。もし、家に帰るまで何もなかったら、上履きも持ち帰れ。それを履いた上で、スリッパも履いて過ごすんだ。

 家族に咎められたら、こう返してあげな。『元々、スリッパは外履きの更に上から履くように作られているから、これが正しいんだ。ちょっと真似しているだけさ』とね」


「ほ、本当にそんなことで防げるのかな?」


「信じないなら信じないでいい。俺が知っているのはここまで。個人的にはちゃんと実践することをおすすめだ」


 そうして友達は学校での一日を終え、帰路につく。途中、何度も靴を脱いで、足の裏の様子を確かめた。靴の中の汚れがついていても、傷らしきものは何もない。玄関を開ける前にも調べたんだ。

 それが「ただいま」と戸を開けて、再び靴を脱ぎにかかるわずか数秒の間で、足の裏が靴の中にすっかりくっついてしまうなんて、あり得るだろうか。脱ぐ時に、自分の皮と一緒に、引き剥がさなきゃいけなくなるなんてさ。

 痛みをこらえて取りだした両足は土踏まずを除いて皮が破れ、血がにじんでいたんだ。いよいよクラスメートから聞いていた通りに。


 友達は足の裏にポケットティッシュ達をあてがい、上履きを取り出して履いた。もちろん、スリッパも。

 家族からの見とがめは、クラスメートの策によって、怪訝そうな顔をされながらも何とかクリア。いよいよ寝る段になった。

 明かりを消す前に、長ズボンのパジャマ。念のための厚手の靴下で、一分の皮膚も見えない状態にし、上履きスリッパを装備状態で、布団の中へ。


「『足裂き』は仕事をしている姿を見られるのを、嫌うときく。もし、寝ている途中で足に違和感を覚えても、眠っているフリをしておけ。足を取られるより、ひどい目に遭うかもしれない」


 部屋の明かりを消して、もう数十分。ひたすら目をつむっているが、眠気がやってこない。布団は時季外れの三枚重ねだというのに、内側から勝手に身体が冷えていく。

 足裂きの影響か、それとも自分が恐れているのか……たぶん、両方だ。来るなら来る、来ないなら来ないで、早く楽になりたかった。


 ややあって。両足の先で不意に、「ゴリッ」と音を立てるものがあったんだ。

 友達は一気に鳥肌が立つ。部屋には鍵が掛けてあったんだ。それを無視して入ってくるなど、尋常じゃない。

 触っている奴は、調べるように友達のつま先をぐりぐりと回しているような感覚。そしてすぐにスリッパが取り払われてしまう。

 次は上履き。もう一度、ぐりぐりとつま先を回され、今度は足の親指の付け根から足首にかけてを、何度も、何度もなでている。上履きの上から。


 ――早く、持ってくなら持ってけよ。それが「足」だよ、「足」。


 震えを抑えながら、友達は気持ち悪い感触に、ひたすら耐える。

 どれだけ経ったか。ふっと上履きが足から外されて、それからもう手が伸びてくる気配はしなかったんだ。でも友達は、その晩、一睡も出来なかったらしいけどね。


 翌日。予想していた通り、スリッパと上履きが消えていた。家を探しても、出てこなかったらしい。

 でも、自分の足は無事だった。友達はクラスメートに礼を言ったけど、クラスメートは胸をなで下ろしつつも、話をしてくれる。


「実は『足裂き』は、切り取った足を食べたりせず、どこかへ埋めるらしいんだ。時間が経ったものとかは、元の形をとどめていないらしいけど」


 それから数ヶ月後。あの日に通った河川敷で落雷があり、桜の木が一本、倒れてしまったんだ。

 雷に打たれたというより、真っ二つに折られたかのようだったけど、その切れ目は不自然にぎざぎざで、裂け目のようだったという。

 試しに根っこが掘り出されたところ、根はほとんど広がっておらず、代わりに大きな人の足先らしいものが出てきたとか。

 

 

 

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] これぞ怪談といった感じで、とても面白かったです! 確かに、説教よりこういった話のほうが効果ありそうですね。 トリガーが何か分からないなんて地雷みたいで、なんとも厄介ですね。 この手の対策っ…
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