新しい始まり
そんな出会いをし、それから今まで会わなかった事が嘘のように光に会うようになった。テキストを忘れたから貸してやら、お昼ご飯一緒食べよう!とか。光は仲良くなりたいと言ってくれた言葉通りに俺に寄り添おうとしてくれた。
どれだけ口が悪くても、態度が悪くて傷付ける事があっても、頬を膨らませて怒ったり、目尻に涙を溜めて睨むつけることはあっても夏樹と変わらず友であろうとしてくれた。
仲良くなりたいって言ってくれた言葉通り、夏樹の友達になろうとしてくれた。
ある日、メールアドレスと電話番号、SNSアプリのアカウントを全て教えてくれた時は、まるでその英数字がどんなにお金を積んでも足りない宝石の様にキラキラに見えた。
自分でも来てるなと思った。馬鹿らしい女々しい感情だ。
それでもそう思ってしまったのだからこの感情はなかなかに厄介であった。
それから至るところで奴を見つけて、友達だからという言葉を免罪符に勝手に写真を撮った。
大庭と楽しげな様子、風紀顧問から必死の形相で逃げる様子、それはキラキラとキラキラと煌めいて見え、夏樹は一等楽しい時間であった。
近すぎて撮れない。
近付いたのを後悔するのはこんな時。
近いと、撮りたいと願ってもその煌めいた笑顔は、表情は撮れないから。
しかし遠いと言い訳も効かない。
こんな焦れったい距離を大事に思いながら、でも、煩わしくも思いながら、夏樹はまた一枚、光の煌めいた写真を撮り、それを誰にも見せたことないアルバムへと纏めるのであった。
そんな日常の中、高校二年目の春を迎えた。
クラス替えが行われる始業式にエントラスに集まる四人…いや、一部は何処のグループよりも煩かっただろうと夏樹は思った。
「……なんで!光クラス違うの!?しかも芦屋と光が一緒のクラスとか隆ちゃん意味が分かんないんだけど!!」
「うるせえ。だまれ。たこ」
「あ、こら、そこ。そんな言葉遣いするんじゃありません」
俺は子供か。と言いたくもなるが、夏樹の暴言にも嫌がらず付き合ってくれてるのだから文句は言えない。
舌打ちをすると、こら!とまた怒られたものだ。
その大きな翡翠の目がこちらを見上げてくるのに正直詰まった。その眼にはどうにも弱い。
「……幼な妻?」
「あれ黎斗。おはよ」
幼い、けれど、涼し気な声にそちらを見ると、そこには海を閉じ込めたような蒼色の目の男がいた。
「あら、黎ちゃん。今日は早いね」
「おはよ。光。隆」
まだ眠いのか、光の肩にもたれぐりぐりとしている彼はちらりとこちらを見た。
じっと見られるのにたじろくとあぁ…と抑揚のない声が何かを理解したように漏らされた。
「光と隆が言ってた人、だ」
光の肩から額を上げた彼はじっと夏樹と春人を見た。
「あ。そうそう。黎ちゃん。こっちの目つき悪いのが、芦屋で、こっちの似てるけど物腰が柔らかそうなのが広瀬ね」
隆之介の説明にこくりと彼は頷いた。まるで子どのような仕草だがやけにはまっていた。
「なんとなく分かった」
「んで、芦屋、広瀬、この子があれね、暁黎斗。俺らの友達」
「……よろしく、しなくてもいいよ。多分、したくないだろうし」
夏樹はどきりとした。
多分、彼は気づいたのだ。夏樹の光に対するよこしまな感情に。
光が黎斗の頭を撫でる度にその眼が猫のように細まって、気持ちよさそうにしているのが見たくないと言うことに。
黎斗は光から肩を上げると、何事も無かったようにオレのクラスは?と聞いてくる。
「黎ちゃんは、光と芦屋と同じクラス。俺は春人と隣のクラス」
「そっか。でも前よりいいね」
「だなぁ。前は黎斗だけクラス遠かったもんなぁ。だからなかなか会えなかったし」
なるほど。だから今まで会えなかったのか。
割とマンモス校であるこの学校は一学年で十クラスはあるのだ。
夏樹が光に以前なかなか会えなかったように、会おうとしない限りは校舎の違うクラスなどなかなか行けそうにないのだ。
「うん。光と一緒なの嬉しい」
「オレも嬉しい!」
ふわふわとまるで花でも飛ばしているんじゃないかというぐらい、ほのぼのとした二人。それを隆之介は穏やかな表情で見つめていた。
それが、その三人の完成された空間に酷く苛立たしい感情を覚えてしまう。
何故、自分にその表情を向けられないのか。
じりりと痛む心臓になんとなく心臓を抑えていると、気付いたらしい光が不安そうにこちらを見た。
「大丈夫?」
「…あぁ。」
今大丈夫になった。
苛立たしい感情も腹立たしさも、一瞬で消え、夏樹の感情は落ち着いたものとなる。
「前途多難?」
黎斗がそう呟くのが聞こえたが気のせいだと思うことにして、夏樹は自分の事だけを気にしてくれる光の心地よい声に耳を傾けるのでった。




