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005「寄宿舎と同僚」

「いやいや。何を考えてるんだ、僕は。これから騎士にならなきゃいけないってときに、異性にときめいてる場合じゃない」


 機能美といえば聞こえはいいが、ヘッドボードも無い金属製のベッド、机代わりの小さなテーブルと背もたれの無い丸イスが、それぞれ二人分ずつ備え付けられただけの寄宿舎は、有り体に言って殺風景な部屋である。ドアと反対側は、唯一の採光部である腰高窓があるが、窓のすぐ外には大木が植わっているため、大半の陽射しは遮られている。


「まるで、監獄だな。これから二年間、自由の無い囚われの身になるのか。……いけない。つい、後ろ暗い愚痴をこぼしてしまった」


 その色味の無い部屋の真ん中で、テオは二台並んだベッドの片方の上に大の字になり、取り留めのない考えを口にしては、セルフサービスでツッコミを入れている。ベッドの下を覗けば、この訓練学校へ来るときに手に提げていたボストンバッグが見える。

 部屋の雰囲気も相まって陰鬱な空気が淀んでいる部屋に、その仄暗さを一掃するかのように、元気印の小柄な少年がノックも無しにドアを開けて部屋に飛び込み、リュックサックを背負ったまま、どこぞの大泥棒よろしく、テオが居ないほうのベッドの上にダイブする。枕に顔をうずめている少年の頭をよく見れば、緑色の髪のあいだには、褐色でシマリスのような獣耳が生えている。


「あ~、疲れた。船が遅れなければ、もっと早く着いたのに~」

「えーっと、君は誰かな?」


 テオは、寝転んだ姿勢から上体を起こし、謎の闖入者に声を掛ける。すると、少年はそこで初めて先客がいることに気が付いて顔を上げ、ベッドの横にリュックサックを放り投げつつ、テオに逆質問をする。


「ん? そういう君は、誰なんだい?」

「僕は、テオ。君と同じ新入生さ」

「おぉ! 僕は、ドミニク。よろしくな、テオ」

「あぁ。よろしく、ドミニク」


 ドミニクと名乗った少年は、人懐っこい笑顔で握手を求める。テオは、咄嗟に利き手である左手を伸ばしかけ、すぐに何食わぬ顔で右手を差し出してドミニクの手を取る。すると、少年は満足そうに頷きながら握り返し、いたずらっぽく器用にパチッとウインクをする。同年代の男子同士による、うるわしい友情が誕生した瞬間である。


 このあと、この破天荒な少年のおかげで、テオは、さんざん振り回されることになるのだが、このときは、そんなことを知る由もない。

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