048「切っても切れない縁」
「親友が見送りに来たというのに、嫌な顔をするなよ」
「どうして僕がそういう反応をするか、胸に手を当てて、日頃の行いを振り返ってみろ」
客車の窓を開けた途端、眉間にシワを寄せ、あからさまな不快感をあらわにするテオに対し、ドミニクがその態度に文句を付けると、テオは窓枠に肘を乗せながら答える。するとドミニクは、言葉を額面通りに受け取り、両手を胸の上に重ねて数秒ほど心拍を確かめたあと、おどけながら言う。
「うん。ドクドク言ってるだけだな」
「休まず動いてて良かったな。――少しくらい止まってくれても良いものを」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
頭上の獣耳に両手を添えて聞き返すドミニクに対し、テオは片手を振って答える。するとドミニクは、それ以上は追及することなく、すぐに話題を変える。
「船が遅れてなければ、僕も今日の夕方には里帰りできたんだ。こういうとき、離島だと困るよ。良いよな、テオたちは故郷が陸続きで」
「良いことばかりじゃない。汽車に乗って半日そこらで帰れるってことは、同じように一日で向こうからも来られるってことだ。そうそう頻繁にイザベルに来られちゃ、なんのために全寮制の学校なのか分からない」
「ハハッ。賑やかになって良いじゃないか」
「良くない。トラブルメーカーは、一人で充分だ」
そう言って、テオがドミニクの顔を睨むと、ドミニクは遠くを見渡すように額に片手を添え、キョロキョロとその視線の先にいるであろう人物を探しながら言う。
「はてさて。どこにトラブルメーカーがいるのやら? 彼かな? それとも、彼女かな?」
「わざとらしい真似をするな。いま、僕の目の前にいる緑髪でリス耳の人物だぞ、ドミニク」
「えっ。僕が、いつ、どこで、トラブルを起こしたって言うのさ」
「常に、あらゆる場所で、厄介の種をまき散らしてるだろうが。少しは自重するということを覚えてくれ。そうでなきゃ、身体がいくつあっても足りない」
「ヘヘッ。リアクションが面白いから、ついつい、からかいたくなるんだよな。――あっ、エマちゃんだ! お~い。テオなら、ココだよ~」
テオから苦言を呈されたドミニクは、小さく舌を出して誤魔化すと、プラットホームの向こうに見えるエマに手を振った。