045「これにて一件落着」
目を覚ました高貴な少年が見たのは、癖だらけの赤毛で雀斑だらけの顔をした、おぼこい少女であった。
「これが私の正体なの。魔法で姿を変えてたのよ。幻滅したでしょう?」
エマは「これで思い知っただろう」とでも言いたげな冷めた表情でテオを見据える。するとテオは、ベッドに横になったまま、しばらく、見慣れない田舎娘の姿にシゲシゲと注目する。そのあと、おもむろに左腕を伸ばし、エマが首から胸元に提げているロケットペンダントに触れ、その質感を確かめるように指でもてあそびつつ、静かに微笑みを浮かべ、途切れ途切れに思いの丈を言葉にする。
「魔女だから、好きとか嫌いとか。騎士だから、良いとか悪いとか。そういう風に、誰かを記号で判断するのは、本当の愛情じゃないんじゃないかな。好きになった人が、たまたま魔女であり、はからずも騎士であった。ただ、それだけのことにすぎないんだよ。だから、どんな見た目でも、エマさんは、エマさんに違いないんだ。むしろ、ありのままの君を拝めて、僕は嬉しいし、安心もしてるよ」
やっとのことで、エマに気持ちを伝えると、テオはペンダントから指を離して腕を下ろし、怪我をしていない反対側の腕で、ゆっくりと慎重に上体を起こすと、そのまま腕で身体を支えつつ、利き手である左手を差し伸べながら言う。
「騎士としても人間としても、まだまだ半人前の僕だけど、それでも良ければ、真剣なお付き合いをしてください」
「……はい」
エマが頬を赤らめてハニカミながら、戸惑い気味にテオの手を握って答える。交際了承の返事を勝ち取ったテオは、ホッと胸を撫で下ろす。
二人は、そのまま無言のまま見つめ合っていたが、キスでも出来そうな距離であることと、その場の甘い雰囲気に、急に心の中に羞恥が芽生え、どちらともなくパッと手を離し、サッと顔を背けて目を反らしてしまう。
「アー。エヘン、ゴホン」
「あなたたちね。恋は盲目と言うけど、少しは周囲を見て行動しなさい」
「戻ってたのね、イザベルさん。――パスカルも、お祭りに来てたのね」
パーティションの向こうから、わざとらしく咳払いをしながら、手の甲に生傷の痕があるパスカルが姿を現し、次いでイザベルも登場すると、テオは驚いて言葉を失い、エマは、イザベル、パスカルの順に声を掛ける。
「僕もいるよ! いやぁ、カップル成立とは羨ましいね。これでこそ青春だよ」
「ドミニクまで……。まったく。なんて一日だ」
ヒョコッとリス耳と尻尾を持った少年がベッドの下から飛び出してくると、テオは額に手を当て、呆れた様子でため息交じりに声を出す。
このあとテオは、並外れた回復力を医師と看護師に驚かれながらも型通りの診察を終え、五人は揃って、クロエとマリー、それからアランが待つカフェへと向かった。