044「心の声、魂の叫び」
――両親は、六歳の誕生日を境に、急に冷たくなった。執事は、それは帝王学の一環だと言っていたけれど、幼い僕には、突然に見放されたようにしか思えなかった。
『テオ。君は、いずれはこの家を継ぐ、大事な跡取り息子なんだ。乳飲み子のような甘えは許さない』
『もう赤ちゃんじゃないんだから、それくらい自分で考えなさい』
期待に応える、というより、ご機嫌を取って構ってもらおうとして、テストで満点を取ったり、コンクールで優勝したりしてみせたけど、結果は変わらなかった。
『優秀な遺伝子を持って生まれたわけだから、これくらいのことが出来るのは当然だ』
『次は、もっと頑張りなさい』
それは、まるで屋敷を囲む森と同じだった。背の高い木々が生え並び、周囲から孤立し、どうしようもなく陰鬱としたものだ。日に日に父は厳しくなり、母は社交に出掛けて留守にすることが多くなった。
『エマよ。こんなところで、また会うなんて……』
暗く閉ざされた僕の精神に、一筋の暖かな光が差し込んだ。だけど、その柔らかな淡い光は、すぐに儚く消えてしまった。
『あげるわ。だから、もうお店には来ないで』
なぜ嫌われてしまったのか、どうして拒否されてしまったのか。それは、彼女のどこに惚れたのかと同じくらい、考えども答えの見つからない疑問である――
「昏き睡りよ、醒めたまえ!」
――なんだ、今の声は? ……熱い。暑い。アツイ。身体の芯が、表面が、頭の中が、まるで活火山の溶岩のように燃え滾ってくる。クッ。火照って苦しくなってきた。身体中の水分が、唾となり、汗となり、蒸気となり、沸騰して外へと逃げていくみたいだ。ウッ。胸が締め付けられて、肺腑が圧し潰され、絞り出されてる気分だ。嗚呼。誰か、清冽な水と新鮮な空気をくれ!――