035「パトロール中に」
「交際というものは、お互いに責任を取れるようになってからでないと」
「かったいなぁ、テオ。カチンコチンだよ。そんなことを言ってると、すぐにお爺さんになってしまうぞ?」
パサージュを歩きながら、テオとドミニクは、いや、訂正しよう。テオだけは、お祭り騒ぎする人ごみの中に不埒な輩がいないか、監視の目を光らせている。そうして真面目に職務をこなすテオに、並んで歩くドミニクは無遠慮に彼に話しかけては、サボタージュへの道にいざなっているのである。
「この際だから、祭りの熱気に乗じて告白しちゃいなよ、テオ。レッセフェール、レッセパッセ。生めヨ増やせヨ、地に満てヨ。オーケイ?」
「鬱陶しいくらい陽気で、リズムだけは良いけど、まるっきり意味が分からないよ、ドミニク」
「難しく捉えるなよ。同じアホなら、踊らにゃシャンソンってことさ。考えるな、感じるんだ!」
「……なぜだろう。そこはかとない違和感を感じる」
「気のせいだな、それは」
浮かれたドミニクが、変な創作ダンスを踊りながらテオの周囲をグルグルと回ると、テオは呆れ半分にマジレスを返し、無駄に張り切っているドミニクに冷や水を浴びせて意気を阻喪させようと務める。が、ドミニクの火力は、一向に下がりそうにないばかりか、さらに加熱していく。
「気になってるくせに、強情だな。チャンスの女神は、前髪だけのモヒカン族なんだぞ? 迷う前にハッシと掴まなきゃ」
「そんな前衛的な女神はいない。第一、訓練生のうちは弱みになるから、恋愛は御法度だって言われてるだろうが」
「だから、惹かれつつも付かず離れずの距離を保つってのか? 規則なんて、破ってナンボだぞ?」
「……リスクを考えれば、負債にしかならない気がする」
「保険のかけすぎだな、それは」
ヒートアップしたドミニクが、ここへきて、ようやくクールダウンしはじめる。しばらく沈思黙考しはじめたドミニクに、テオはホッと束の間の安息を得る。しかし、その静穏は長く続かず、ドミニクは、すぐに第二波を放つ。
「話は変わるけどさ。ここから仮定の話なんだけどさ。いいか、もしもの話をするぜ?」
「くどい! 事実でないことは分かったから、さっさと話せ」
「怒らずに聞いてくれよ。あのさ。……もしもエマちゃんが魔女だったら、どうする?」
「はい?」
突拍子もない話に、テオが立ち止まってドミニクの顔を見ると、ドミニクは、真剣な表情で答える。
「いやいや。あながち、有り得ないとも言い切れないと思ってさ。万が一、そういう事実が発覚したとして、テオはエマちゃんを捕まえられるのかと思ったのだけど、どうなんだ?」
「それは……。あっ!」
テオは、ドミニクの追及に耐え切れずにアサッテの方向を見る。そのとき、テオは視線の先にある養蜂園のブースで、噂の張本人が買い物をしているところを目撃した。