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033「お仕着せ」

 寮の自室で、ドミニクとテオは、ワイシャツとカーキ色のスラックスに着替え、届いたばかりの真新しい上着に袖を通している。上着は詰襟型の軍服で、色は暗い小豆色をしている。ベッドの上には、脱いだ寝間着と並んで、革のベルトと白木の警棒が置いてある。


「教団の連中と一緒だなんて、気が滅入るよ」

「仕方ないさ。ここは、教団が作った学校だもの」

「なんだかなぁ」


 ドミニクは、テオの諦観に満ちた答えにボヤキを発すると、襟元にあるホックを閉めつつ、苦々しい顔をしながら首を左右に振って言う。


「頭に血が巡らなくなりそうだ。やっぱり、ボタンがある服は向かないや。――よく、そんなボタンだらけの服で眠れるな、テオ。気にならないのか?」

「僕としては、隣のベッドから領域侵犯してくる尻尾のほうが、よっぽど気になる」


 テオは、ドミニクがパジャマを見ながら言ったことに対し、上着の上から腰にベルトを巻きつつ、皮肉交じりに言い返す。ドミニクは、上着の裾を持ちながら、ため息交じりに呟く。


「まだ言ってる。そろそろ慣れてくれても良いだろうに。――それにしても、気落ちしそうな色の上着だな。剥がれたカサブタみたい」

「変なたとえをするな。落ち着いてて良いじゃないか」

「シック過ぎて、モチベーションが上がらないよ。――警棒は右だっけ?」

「違う。利き手に関係なく左だ」


 ベルトを巻いたあと、ドミニクが警棒を持って首を傾げていると、テオは、言った通りに腰へ警棒を差し込む。それを見て、ドミニクも同じように真似しつつ、窓の外を見ながら大仰に悲観する。


「あぁ、そっか。……あ~あ。青天白日で絶好の祭日和だっていうのに、なんで巡回警備なんかしなきゃいけないんだよ。おかげで、青春が灰色だよ。気分がブルーのグレースプリングだ!」

「くだらない嘆きで、大声を出すな。耳がキーンとするだろうが」


 眉間にシワを寄せて顔を顰めつつ、テオが片手で耳を塞いで文句を言うと、ドミニクは、それをどこ吹く風と受け流し、ある計画を話し出す。


「なぁ、テオ。適当なタイミングで抜け出して、僕らも祭を楽しもうぜ」

「三度目は無いと思えと言われたのを、忘れたのか?」

「覚えてるよ。バレなきゃノーカンだろう? それに、テオだって彼女のことが気になってるんじゃないのか?」

「別に、エマさんのことなんか」


 テオがドミニクから視線をそらしながら恥ずかしげに言い出すと、ドミニクは言質を取ったとばかりにニヤニヤと嬉しそうにしながら、テオの視線の先に移動して言う。


「おやおや? 僕は、カフェのお嬢さんとは、ひとことも言ってないぞ?」

「あっ、貴様。カマをかけやがったな。やめろと言ったのに」

「ヘヘーン、引っ掛かってやんの」

 

 このあと、テオとドミニクは、階下の学生が苦情を申し立てに来るまで、ベッドの周囲を駆けまわったり、中綿が舞うほどに枕を投げ合ったりするのであった。

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